2019年02月21日

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 谷川ニコ レビュー・感想 お前が楽しくないのはどう考えてもお前が悪い!

『咲-Saki-』勢の間で評判だったので読んだが、すっと腑に落ちた。中心人物を巡る嫉妬や執着、静かな狂気、周りに形成される人間模様がゆかいなところが通じると思う。

路線変更が功を奏した珍しい漫画
 漫画の路線変更、人気が低調だったりマンネリだったりする作品の梃子入れや作風のシフトは得てして上手くいかないものだが、『わたモテ』はそれが受け入れられた珍しい作品である。今でも初期のぼっちクズオタクあるある話のイメージしかない人は多いと思うが、8巻の修学旅行編あたりから話の主軸が様変わりしていくので、どうせならそこまで読んでみるべきだ。青春と言うほど爽やかではなく、ドラマと呼ぶほど劇的な展開はなく、群像劇と付けるほどしまりはなく、成長譚と評するにはどうにも心許なく、ガールズラブと銘打つにはさっぱり甘くなくてカオスが過ぎる。しかし、まだらな人間模様が形作られていく過程やその中で智子が悪戦苦闘するさまは何とも言えず面白く、同時に身につまされて背中が痛痒くなる。今の『わたモテ』はそんな作品である。

『わたモテ』の何が変わったのか

しかし今まで意識しなかったが
他人に合わせて生きていくのも
ぼっちとは別の大変さが
あるのかもな……

(喪82「モテないし日常に戻る」)


「死ね」ボソ

(そこだけはちょっと気が合うね)

(喪107「モテないし気にかけられている」)


 前述の通り、『わたモテ』は方向性の変化が強烈な個性に昇華されている作品だ。それで、いったいこの作品の何が変わったかのと言えば、智子の他者と世界に対する見方、関わり方が(多少なりとも)変わっていったんじゃあないだろうか。
 この漫画の序盤がだいたいつまらなくて、修学旅行編からだんだんと面白くなってくるのは何故だろうか。話は単純で、前者はどこまでも独りよがりで、後者はゆりや吉田を始めとしたいろんな人間が関わってくるからだ。この作品は期せずして、毎日の些末事もしょうもない行事も、独りで鬱屈としているより周りに人がいたほうが面白い、いろいろ気苦労もあるし振り回されもするけれど、誰かと共有したほうが絶対に楽しい、というごくごく当たり前だがまぶしい真理を切り取っている。作風の変遷そのものが図らずもサブテキストの骨子になっていて、なかなか興味深い漫画だ。
 極端に言えば、序盤の智子にとっての他人は「リア充」「イケメン」「ビッチ」というラベルでしかなく、妬み嫉みの的(まと)あるいは「モテる」「イケてる」という実績解除・トロフィー獲得のためのNPCでしかない。読者の目にも彼ら彼女らは書き割り程度にしか映らなくて、実体がさっぱり見えてこない。これで話が面白くなるほうがおかしいだろう。それに比べて、いちの友人だが嫉妬深くてすぐにへそを曲げるゆりや、意外に面倒見はよいがすぐに手を上げたり(だいたい智子が悪い)無茶ぶりをしたりする吉田の、何と奔放で、何と生き生きとしていることか! 奴らの独立した一個の存在感は、前述の記号たちとは比較にもならない。智子が周りの人間に向ける視線の解像度が明らかに変わっている、と言い換えてもよい。生きている人間はそれだけでも楽しいし、そいつらがかち合って物事が動くさまはもっとずっと面白い。この価値観に共感できる人にはより刺さる漫画だと思う。
 方向性もとい智子の変化が地味に現れているのが、「モテないし」から始まる各話のサブタイトルだ。序盤はその枕詞の通りに、智子が満たされない欲望から痛々しい奇行に出て失敗するのが話の定型だったのだが、次第にそのフォーマットは崩れていき、枕詞もあんまり意味を成さなくなっていく。彼女が「モテないし」という自分本位のフラストレーションにかかずらっている余裕が無くなってくるのとリンクしていて面白い。
 136話で智子は自分から「漫画を薦める」のだが、その相手がそこまで打ち解けていない真子というだけでちょっとうるっとくる。ちなみに漫画は吉田へと又貸しされてグループを渡り歩いていく。なかなか象徴的だ。そして137話では「GWを迎える」が、カレンダーはバランスを取ろうとした結果友だちとの予定で埋まっていて、連休はあっという間に終わっていく。もはや非モテ関係ねーじゃんという突っ込みは野暮だろう。
 暗黒期の話でも、数少ない友達であるゆうちゃんとの間に小宮山が絡んでくる話や、親戚のきーちゃんが遊びに来る話は比較的読めた。前者は友だちの友だちという微妙な関係な上にまったく反りが合わず、でも友だちの手前ガン無視は出来ない気まずさが不謹慎に笑えて、後者は親戚のお姉ちゃんとしてええ格好をしようとする幼い見栄が悲しくも微笑ましく、つまるところ智子が関係性の中で四苦八苦するところが面白かったのだと思う。これは8巻以降の作風と共通するエッセンスじゃあないだろうか。

狙ったギャグはかなり月並み
 明確な欠点についても書いておくと、この作品をギャグ漫画の枠で捉えてネタの練度で評価すると、およそ褒められたものではない。勘違いやすれ違いを機転とするコントは「そうはならんやろ……」と思うことが大半だし、掛け合いや心の中での毒づきの台詞回しにキレやセンスは感じられなかった。特に嫌な印象に残っているのが、無理やりもいいところな勘違いから、友だちの友だちである真子を延々「ガチ●ズさん」(原文ママ)と呼び続けるところで、いろいろと芸がなくてげんなりした。
 そして、単行本7巻に渡る低調期は正直言って長すぎる。智子のクズっぷりと苦しいネタ出しにギブアップする人が出ても責められない。あの虚無の期間は結果として必要だったわけだが、もう少し短かったらと思わずにはいられない。

その他もろもろ
 『わたモテ』の美点の一つが、主人公に感情をぶつけてくる、いわゆるヒロイン以外にも、その友だちや友だちの友だちが登場し、しかも彼女たちなりの価値観や行動原理がちゃんと見えるところだ。具体的にはキバ子とか茜のことね。この点が、まだらな人間関係を多層的に彩っているんじゃあないかと私は思っている。デザインもけっこう描き分けができていて、登場人物はかなり多い(しかも基本的に制服)のに混同したことがほとんどない。
 智子が(下心があろうとも)自分から他人へ関わったり親切にしたりするようになったきっかけの一つに、赤の他人だった生徒会長との交流があるのはモノローグから明らかだろう。きれいな関係の返報性の構図で、エモエモのエモだった。
 この作品に対する批判で、ぼっちの主人公が突然人に囲まれて言い寄られるのは願望充足的でリアリティがない、というものがあった。ごもっともだと思う一方、彼女が突飛な人間関係に放り込まれて右往左往するさまこそこの作品のキモであって、あまり当を得ていないとも思う。

まとめ
 思いがけず人気が出たとおぼしき展開に合わせてシフトチェンジした結果、人間関係に対する普遍的な真理が表出してしまった変てこ漫画と捉えている。
 既に一度アニメ化されているそうだが、リブートで再アニメ化したらめっちゃ盛り上がりそうだ。序盤を3話程度でまとめてしまって、さっさと修学旅行編に入る構成でひとつどうだろうか。
 ところで、私は咲勢かつ『わたモテ』にはまっている人に対して、有珠山高校の人間関係、特にチカセンこと桧森誓子のめんどくささが好きだというイメージを勝手に持っていたのだが、一致率はどんなものだろうか。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! | ガンガンONLINE | SQUARE ENIX

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tags: 百合 感想 
2019年01月17日

2019年の新作百合ゲーム 『きみから』『いつかのメモラージョ』『夢現ReMaster』『クダンノフォークロア』『FunctionW』『星詠みと流星のステラ』

 毎度おなじみ、流浪の新作百合ゲー下馬評記事。前回分はこちら。
2018年後半戦の新作百合ゲー、どれやりますか 『ナイトメア・ガールズ』『素晴らしき日々HD』『きみから』『メアリスケルター2』『クライスタ』『いつかのメモラージョ』『ぷらこれ!』

きみから~彼女と彼女の恋するバレンタイン~(2017年春→2017年内予定→2018/5/25予定→2018/8/31予定→2019/01/25)
http://baseson.nexton-net.jp/baseson-light/kimihane-couples/

少女たちの恋と友情のスケッチ、再び―

ダウンロード限定発売のガールズラブAVGが、続編+完全版で待望のパッケージ化!

さぁ、ハッピーエンドの向こうへ行こう。

http://baseson.nexton-net.jp/baseson-light/kimihane-couples/


きみから
~彼女と彼女の恋するバレンタイン~

新学期が始まっても、 あいかわらずのにぎやかな朝。
しかし変化もあった。
それは新たなルームメイト鷹岡聖夜子の存在。
でも彼女の正体を陽菜たちはまだ知らない。
クリスマスに結ばれた恋人たちは 甘い時間を過ごしていた。
眩しくそれを見つめる聖夜子だが、 自らの胸にもまた、 恋心の育ちつつあるのに 彼女はまだ気づいていない。

カップルたちの甘い後日談に、 新ルームメイト聖夜子と寮監祥子の もどかしい恋模様が交錯する バレンタインまでの新たな一ヶ月。

http://baseson.nexton-net.jp/baseson-light/kimihane-couples/


 延期が長すぎて存在を忘れていました。申し訳。
 ところでこれ、前作とのカップリングだけで、バラ売りはしていないんでしょうか?

いつかのメモラージョ(2018年秋予定→2019年2月28日)
http://sukerasparo.com/memorajxo/index.html

見た目は日本と変わらないのに、

“ユリアーモ”と呼ばれる聞いたこともない言語が
主流(?)の異世界に迷い込んでしまった女子高生――凜。

そんな彼女を助けてくれたのは、
お世話役を買って出た天使のような女の子――ルカと、
少し意地悪な大人の女性――レイだった。

ことのはアムリラートの続編にあたる今作では、

凜の知らない『ふたりの過去』と、

誰も知らない『ふたりの現在』が語られる。

http://sukerasparo.com/memorajxo/index.html


 公称ジャンルは「純百合アドベンチャー」。超展開百合ゲーといったらこの人、J-MENT先生のお勉強ゲームの続編ですね。私は過去作がことごとくピンと来ない上、笛絵でもないのでパスします。
 ところで、ライターの代表作が『ことのはアムリラート』と『カタハネ』ですって? Volume7とクロスクオリアから逃げるな!
クロスクオリア レビュー・感想 掴みの弱い人間ドラマ、少なからず不快なSF要素
ことのはアムリラート レビュー・感想 ろくな衝突もない異文化交流、展開に動かされるキャラクター

夢現Re:Master(2019年2月予定)
http://yuremaster.kogado.com/

ここは帝都東京にある、特別快速が止まらない街、「虹園寺(こうえんじ)」。眠らない街にある、本当に眠ら(れ)ないゲームソフト制作会社のドアを叩いたのは、田舎から出てきた純朴な少女、あい。
何故か冷たい態度を取る妹こころや、個性的で愉快な先輩社員たちと新生活は愉快なピクニックか、はたまたデスマーチか!?
あなたが遊んでいるそのゲームの裏側を、もしかしたら知れちゃったりするかもしれない、世界(ゲーム)創造の物語、始まります。

http://yuremaster.kogado.com/


『夢現Re:Master』は、『白衣性恋愛症候群』『白衣性愛情依存症(英語タイトル:Nurse love addiction)』を生み出した工画堂スタジオ、しまりすさんちーむ渾身の、キラ☆ふわガールズラブゲーム制作会社アドベンチャーゲームです。

前二作「白衣性~」のシリーズは、医療現場の看護師や、看護学生という「職」に纏わる物語でしたが、本作は同じ「お仕事」ものでも、我々が日頃取り組むゲーム制作現場がステージとなり、そしてそこで働く人たちの物語が描かれます。

http://yuremaster.kogado.com/


 公称ジャンルは「キラ☆ふわガールズラブゲーム制作会社アドベンチャーゲーム」。『クダンノフォークロア』もそうですが、なにゆえ百合ゲーはあまりにも偉大すぎる先達(『NEW GAME!』)のいるジャンルに特攻を仕掛けるのでしょうか。
 賭けてもよいですが、また芸もなく、ゆるふわ恋愛ものと見せかけて人肉食とか死体姦といったショッキングな展開を仕込んでいると思います。当たってたら何かください。
 クロスプラットフォームで、SteamやSwitchでも出来るみたいですね。、
白衣性恋愛症候群 レビュー・感想 実直な看護描写と軽薄なファンタジーの激しい乖離
白衣性愛情依存症 レビュー・感想 散漫とっちらかっぷりはさらに悪化

クダンノフォークロア(2019年春発売予定)
http://sukerasparo.com/folklore/

巷説に“クダン”というフォークロア(都市伝説)が広まっていた。
曰く、クダンは西洋の喪服を着た女の姿をし、右手首はなく、素顔を黒いヴェールで隠している。
曰く、クダンを目にしてしまった者の元へ、七日のときを掛け近づき“災いの予言”をするという……。

16歳の少女、九段朔夜は奇縁から料理教室講師である志摩塔子という女性と出逢い
――ふれ合ううちに仄かな想いを募らせていく。
しかし、災厄を予言する“クダン”を塔子が目にしたことで、
穏やかだった日常は狂いだしていった。
刻一刻と近づくクダン。朔夜は彼女を守るために奔走し、対抗する手段を得ようとする。
そして己の学校、《九段女子高等学校》にフォークロアを
研究する部が在ることを識った。
神秘学研究会の戸を叩き、会の長である春夏冬小兎とともに
朔夜は大切な人を守るためフォークロア(未知)に挑む――――。

http://sukerasparo.com/folklore/


 公称ジャンルは「百合系フォークロアADV」。『秘封倶楽部』のオマージュである『裏世界ピクニック』のさらにエピゴーネンじゃないの、というのが偽らざる第一印象ですわ。
 何にせよ、捻りのない学生のいちゃいちゃ恋愛よりかは興味を惹かれるので、とりまやってみようと思います。『ことのはアムリラート』と同じブランドですが、シナリオ担当は超展開の人とは別……って『FLOWERS』の人でしたか。私は春編でリタイアしたのであんまりよい印象がないですね。特に悲劇ありきの雑な筋運びと「好きに為ったら」「だと識った」のようなこざかしい漢字表記が苦手でした。

 以下、同人作品の枠。

Function:W();(2019年01月中旬)
https://www.dlsite.com/home/announce/=/product_id/RJ243716.html

――誰も居ない世界の、白い少女。

女子高生『雲野黒柄(くもの くろえ)』は、謎の病気で一年近く入院していた。
あるとき黒柄が目が覚めると、世界から誰も居なくなっていた。
大学病院内を必死に探す黒柄は、謎の白い少女と出会う。
名前がないという白い少女に『マシロ』と名付け、
マシロの言う『世界の扉』開けに協力することになるが……。

https://meimgames.wixsite.com/function-w/story



星詠みと流星のステラ(?)
http://studiopolaris.jp/stella/

空戦百合ファンタジービジュアルノベル




 よく見たらエロゲーが一本もない!
 私は手持ちぶさたなので、あんまり期待値を上げずに『クダンノフォークロア』『ゆりマスター』へ突貫しようと思います。

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tags: 百合 
2018年12月30日

勝手にこの百合作品がすごい! 2018

 Twitterの転載。

ものすごい!
『かえみと』樋口楓・月ノ美兎
『読了まであとどのくらい』たいぼく
『FATAL TWELVE』あいうえおカンパニー
『やがて君になる』仲谷鳰
『シノハユ』『咲-Saki-』小林立・五十嵐あぐり

なかなかすごい
『アクタージュ』マツキタツヤ・宇佐崎しろ
『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』谷川ニコ
『NEW GAME!』得能正太郎
『ナイトメアガールズ』月の水企画
『裏世界ピクニック』宮澤伊織
『ゆるキャン△』
『若おかみは小学生!』
『リズと青い鳥』
『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』

『かえみと』樋口楓・月ノ美兎
 どうしようもなく“バーチャル”“リアリティ”だった。
 脚本と伏線(?)の完成度があまりにも高すぎて何もわからんくなる。下手な漫画のキャラよりぶっ飛んだ二人が綴る、小説よりも奇なる波乱万丈の物語を前に、私らはシャッポを脱ぐしかなかった。かえみとすげぇよ。勝手に作品賞と監督賞と主演女優賞(ダブル受賞)と脚本賞と歌曲賞を送りたい。そんくらいずば抜けていた。 
かえみとを見てください、よろしくおねがいします。

『読了まであとどのくらい』たいぼく
 『ユリトラジャンプ』に収録されたので紹介。
 高慢ちきなサブカル女がわるい女に捕まり、自分の領分のみならず社会性でも女としてもチンチンにされてどうかするお話。臆病尊大な自尊心というエッセンスと、歪んだ視線と輪郭線の筆致がよく合っていた。
 VTuberを題材とした『うそでも笑って暮らそうよ』も早う読みたい。

『FATAL TWELVE』あいうえおカンパニー
 ときどきこんな力作にかち合うから、同人百合ゲーの発掘はやめられない。
 デスゲームものとして完成度が高いし、儀式の進行が物語の掘り下げとうまく噛み合っている。それと参加者のほとんどがキャラ立ちしているのが地味に凄い。私は主人公の凛火や憎みきれない小悪党のフェデリーコが好きだな。
FATAL TWELVE レビュー・感想 練られたデスゲームと真摯なドラマを両立させた力作

『やがて君になる』仲谷鳰
 すさまじく評価に困る作品。
 強引な導入と一部の不愉快な登場人物(槇)、ヘテロノーマティビティはかなり目に余る。けれど、これだけ場面々々が鮮明で、先の展開――二人の心や関係性の変化、すれ違い――が気になる漫画が他にあるかというと、あんまりない。あと、このご時世に絵(画)だけでも人を呼べる作品もそんなにない。そこまでカロリーが高い作画でもないんだけど、目つきと塗りがよいのかな?

『シノハユ』『咲-Saki-』小林立・五十嵐あぐり
 レジェンド枠。島根県大会決勝での慕の大立ち回りを見て、構成力と表現力を再確認した。
 いろんな人間関係の相互作用が面白いのが魅力の一つだが、最近だと魔物と強者(照菫・ゆずちひ)やサブキャラ同士(しおるね)がよい。
咲-Saki- いっしょに楽しもうよ!

『アクタージュ』マツキタツヤ・宇佐崎しろ
 最近のジャンプにはこんなに仕上がった漫画が載っているのか、今の子どもがうらやましいぜ。
 役者の演技や存在感といった表現しがたい感覚質を、画力と概念化で以って少年漫画的に落とし込んでいるのはお見事。

『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』谷川ニコ
 『咲-Saki-』勢の間で高評価だったので読んだ。集団の中心人物を巡る嫉妬や執着や静かな狂気、周囲の人間のまだらな人間模様がゆかいなところは共通項かもしれない。
 あの虚無の期間は結果として必要だったわけだが、もう少し短かったらなぁと思わずにはいられない。

『NEW GAME!』得能正太郎
 殿堂入り枠。御大ぃ! 百合として描いているのはコウりんだけだって言ってたじゃんか~!(プログラマー班を見つつ)
 はじめディレクター編も充実した内容だが、ドッジボールファイト!はPECOに比べて魅力が薄いな(バトルドッジボールやん)。
NEW GAME! 得能正太郎 レビュー・感想 お仕事も夢もがんばるぞい!

『ナイトメアガールズ』月の水企画
 絶妙な辛さで報酬系を刺激するゲームバランス、すらすら読ませるテキストはさすがの月の水企画。イベント数やグラフィックの作り込みも歴代最高だろう。
 だが、仲間が最初から恋人同士の設定になって却って関係性が薄くなってるのはなぜなんだ。
リリィナイト・サーガ レビュー・感想 名作! 王道風ド外道百合エロRPG

『裏世界ピクニック』宮澤伊織
 秘封倶楽部じゃん! と言いたくなる気持ちもわかる(作者が未履修だったら土下座して謝る)。
 怪異と恐怖の連関や近代兵器を投入したバトル要素で差別化は出来ていると思う。あと、相棒に対する湿度の高い視線と執着は、あっちにはない作風を形成している。

『ゆるキャン△』
 この作品の、克己や連帯を押し付けず、だけど人と何かを共有する楽しみや喜びをいきいきと描くスタンスは粋だよなぁ。それと五感に訴えかける描写が巧みで、キャンプという非日常というには近く、日常より遠出した場所に自然と没入させられた。
 アニメ組なので、TLにリンとなでしこの姉のインモラル~な絵が流れてきてなんじゃらほいとなっている。
ゆるキャン△ レビュー・感想 暑苦しい連帯や自己実現をオミットした快作

『若おかみは小学生!』
 この映画を見て、グローリー水領さまにあこがれない子どもはいるのか?
 一部児童向けの大仰なノリが合わなかったこと以外ケチがつけらんない。道徳的な作風で、清貧や年の功を盲目的に肯定せず、消費や学術知識も一つの解として書いているのはポイント高し。

『リズと青い鳥』
 原作未見。
 いけ好かない女と主体性のない女が、才能の壁を知り、進学という分岐路を前にしてゆるやかに分断され、いくらかの自我に目覚めて相手を認識し、一緒に歩きそうとする話……と解釈した。まずまず面白かった。

『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』
 原作未見。
 世界観や概念設定はエヴァのバリエーションという以上の印象はない。だがしかし、例の団地を走り抜けるシーンは最高だった。あのアニメ的な嘘を混ぜながらも身体感覚に訴えかけてくる躍動感と力感と開放感ったら!


 この記事を例年やっている自薦記事十本の代わりとして、今年を締めたいと思います。それではみなさんよいお年を。
 個人的に振り返ると、今年は趣味もはかどったし、お仕事のほうも苦労の甲斐あって大きな山を越したので、来年以降はあくせくしないでやっていけそうです……。経験者が語ると、アラサーを迎えてからの気力と集中力の減衰はわりとシャレにならないレベルので、やりたい大きな企画やとりたい高難易度の資格がある人は、前倒しで取り組んでおくことをおすすめします。

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2018年12月02日

FATAL TWELVE レビュー・感想 練られたデスゲームと真摯なドラマを両立させた力作

 ものっそい力作同人百合ゲーでした。ここをご覧の百合ゲーマーにおかれましては、ぜひプレイいただいた上で感想をうかがいたいです。

「ようこそ、運命の奴隷の皆サマ――」
喫茶ライオン館のマスター代理を務める女子高生・獅子舞凛火は後輩・日辻直未との帰宅途中、突然、電車内で爆発に巻き込まれる。
直未をかばった凛火は、虚しくも命の終わりを迎えた。
だが、気付けば凛火の死はなかったかのように、いつもと変わらず喫茶店で直未たちと談笑をしていた。

数日後、凛火は夢の世界で女神・パルカと出会う。
一度迎えた死の運命は改変され、≪女神の選定≫と呼ばれる12人が12週間の間に脱落させ合うという儀式の参加者になっていたことが明らかとなった。
戸惑う凛火たっだが、選定の参加者の中に友人・未島海晴の姿を見つけ……?

必要なのは、現実世界で参加者の「氏名・死因・未練」の情報を集め、相手を「指名」することだった。

凛火自身の死の真相と未練。
彼女に命を捧げると宣言した海晴の動向。
自らが生き残るため、それぞれの手段をとる他の参加者たち。

凛火に訪れるのは、様々な想いとの直面。

そして、いくつもの生と死の果てに待つ凛火の決断とは――?

http://fatal12.com/#story



 物語の中心になっているのは、主人公である凛火たちが巻き込まれる超常の生き残り(正確に言うと生き返り)の儀式「女神の選定」なのですが、いわゆる「デスゲーム」としてよく出来ているのに加えて、ストーリー展開や人物の掘り下げとがっぷり噛み合っているんですよ。
 まず、儀式の参加者のキャラが抜群に立っています。主人公の組はもちろん、手段を問わない武闘派、油断ならない穏健派、そして序盤でドロップアウトする端役に至るまで、その人なりの信念や意地や背景を感じせます。私が特に好きなのは、名前がよすぎる凛火と、憎みきれない小悪党のフェデリーコですかね。また、相手を脱落させる条件が生前の「氏名」「死因」「未練」を暴くことなのですが、人間洞察や探り合いの情報戦が熱かったです。ある人の何気ない振る舞いや一見ギャグのような描写にヒントが隠されていて、ハッとさせられたのは一度や二度じゃありませんでした。条件の達成はカードの取得という形で可視化されていますが、カードは儀式の開始時に誰かのものがランダムで配られていて、それも駆け引きの緊張感に一役買っています。
 また、3つの条件のうち秘められた「未練」を探るのが最難関なのは言うまでもなく、必然的にシナリオもそれの解明に分量が割かれています。そこでの、相手のセンシティブな内面を知る過程で生まれる人間ドラマも熱かったですね。単なる参加者同士の蹴落としに終わらず、パーソナリティがぶつかり合って展開を作っていくさま(劇中では「交差する感情の連鎖」と表現されていた)はとにかく読ませてくれました。
 その他、デスゲームのお約束である前○の○○○りの存在や、華である○ー○○○○ーへの反抗の展開も盛り込まれています。ツボを押さえていますね。また、人間の生死が覆ることで遡及的な辻褄合わせ、運命の改変も引き起こされるのですが、それもストーリー展開に組み込まれていてよく練られているなと感心しました。かてて加えて、はらはらさせつつも真摯な恋愛劇が話の主軸にあって、百合ゲーとしても大満足な出来でした。脚本は総じて満足度が高かったです。
 シナリオ以外の要素について。ビジュアルは相変わらず美しく、塗りは前作からさらによくなっています。もちろん劇伴は全てオリジナルで、ボーカル曲も完備、今作でついにフルボイスになりました。UIやTIPSの細かい作り込みも嬉しい。あえてけちを付けるなら、画面効果やSEでの演出が若干伴っていないところが惜しかったでしょうか。特に場面転換でのフェードイン・アウトやBGMの切り替え、女神の選定の舞台や格闘シーンの演出がちょっと物足りなく感じました。ビジュアルがよいだけに……。例えば、指名の順番が廻るシーンで歯車が駆動するSEがあったら、それだけで臨場感が違うんじゃないですかね。それと、私の環境だとバックログがまともに機能しなくて「?」でした。

 制作のあいうえおカンパニーは、過去作『しずくのおと』がおそろしいクオリティだったので勝手にハードルを上げていたのですが、今作はその期待に真っ向から応える出来でした。お値段脅威の¥2500(私はSteamのセールで買ったので¥1875だった)なので、みなさんもぜひ購入してみてください。

FATAL TWELVE(フェイタルトゥエルブ)- 公式WEBサイト
FATAL TWELVE [あいうえおカンパニー] | DLsite 同人



【関連記事】
『SeaBed』『しずくのおと』 力作同人百合ゲーの紹介

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2018年10月01日

少女歌劇 レヴュースタァライト レビュー・感想 ふわふわなオブジェクティブが作劇をへたらせる

 歌劇という絢爛で高慢で嘘っぱちで真実を秘めた題材、大仕掛けの舞台設定(超常の舞台劇・バトルロイヤル・ループ)、カックイイ映像表現やキーフレーズと、小娘たちの頑是無い約束や犬も食わないじゃれあいが致命的に噛み合っておらず、観客を劇にのめり込ませるフックがない。嫌な言い方だが、「なんでぇ、イクニかい」「なんでぇ、ほむほむ(まどマギ)かい」という底の浅い決め付けを突っぱねるだけのパワーが感じられなかった。

 別にね、超常の奪い合いゲーム(レヴュー)とそのゲームマスター(キリン)に理屈付けやバックボーンが無くてもいいんだよ。舞台はあくまで舞台であって、そこで誰が何のためにどうやってどうするかで作品の面白さが決まるわけだからね。だけど、戦いに挑まんとする人間の想いは真に迫っていないと駄目だし、勝ち取らんとするものは善悪はさておき共感を喚ぶものでないと駄目だろうよ。同様に、映像表現が現実の事象に即している必要は一切ないし、むしろ現実を侵食していても一向に構わないんだよ。だけど、それで発露される情動や象徴性は作風や作劇やキャラクターに結びついていないと駄目だろう。
 まず、主人公の華恋とその変身バンクシーンについて。「ワタシ、再生産」って言うけど、あんたは炉にくべられて生まれ変わらなきゃならんくらいのちゃらんぽらんな毎日を送ってたの? 幼馴染との約束は「色褪せた約束」になっちゃってたの? その割には演劇の名門校にちゃっかり入っていて、思い出の髪留めを大事に付けていてよくわからんのだけど。歌劇という主題から、日常の平凡な自分からの変身願望を表しているのかとも思ったが、いずれにしろキャラの性質に噛み合っておらず、映像先行で宙ぶらりんになっているように感じた。あと、幼なじみのひかりもそうだけど「トップスタァ」になるっつったって、いったい全体何をもってそれが定義されるんだ? あの学校の首席になること? ゲームで序列一位を勝ち取ること? 将来大女優になること? 彼女らにとって「スタァ」が何だったのかはエンディングの直前も直前になって明かされるが、そこに至るまでオブジェクティブがふわっふわなのは作劇としてどうなんだよ。この物語が序盤から最終盤に掛けて訴求力に欠けているのは、この構造的な欠陥に起因しているとしか思えない。小さい頃の友だちとの約束、という頑是無い動機が、歓喜や欲望や愛憎や栄枯や虚実が入り乱れる歌劇という舞台に出し負けている。
 他のメンバーについても、中坊のときに所属していた演劇部が廃部になってさびしかったってのはまだわかるけど、それで本当に周囲の人間を巻き込んでループ時空に閉じ込める狂気に至ってしまうのかい? 相棒に対するかまっちょや行き過ぎた嫉妬心が、自らの歌劇少女としての命を賭けて、他人を蹴落とすゲームに参加する動機たり得るのかい? そういった疑問や違和感がひたすら物語への没入を妨げていた。

 いつもの感想と逆の構成で、あえてよかった探しをしてみよう。純那は舞台や歌劇に対する憧れや渇望がストレートに書かれていて、物語途中でも比較的感情移入しやすかった。それと、アラレちゃんメガネを付けたまま舞台に上がって立ち回りを演じているのは格好良かったね。メガネってよく未成熟とか内向のシンボルに使われちゃうんで。憑き物が落ちたばななとの会話もよかったな。あと、ペアの中では真矢とクロディーヌの組がわりと好きだった。私のTLでも人気だったのはこの二人だ。何より自分のトレーニングやパフォーマンスに自信と自負とを持っているのがよいし、京都組へそれぞれ協力するところは群像劇としての面白さもあった。そいで口説き文句の「泣き顔も可愛いですよ、私のクロディーヌ」、あれはよかった! ちょいとサディスティックで独占欲を匂わせていて、何とも言えず官能的だった。そんなところかな。 
 本筋から外れるが、私のように集中力が欠けていて、アニメをあまり見ない層の人間を引き込むには、早い話数で(できれば第一話の中で)作品のエッセンスを提示できないと厳しいなと思った。その辺、最近見た作品だと『プリンセス・プリンシパル』『ゆるキャン△』はうまくやっていたかな。

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tags: 百合 感想 
2018年09月14日

のんのんびより ご注文はうさぎですか? きんいろモザイク いいかげんなレビュー・感想

 本棚の整理をするため、積みっぱなしだった有名どころの日常系ゆるふわ百合漫画を雑に十把一絡げにして消化する。アニメ化された作品だけあって女の子はとてもかわいく、やりとりはほのぼのとしていて、キャラクターの中に恋愛寄りの強い感情を持っている子がいるのは共通している。しかし、やはりというか何というか、食い足りなかった。

 私は何も、あまねくエンターテイメントに重厚なビルドゥングスロマンや胸を打つラブロマンスや手に汗握るストーリーテリングがなきゃあダメだなどど言うつもりはない。変わらない日常の大切さをマイペースに描いた作品や、生活やアクティビティの中のちょっとした楽しみや喜びを切り取った作品は素晴らしいと思う。しかし、私はキャラクターを食べて、エピソードを食べて、関係性を食べて、掛け合いを食べて、情報を食べて生きている人間だ。女の子が「かわいい」「おばか」「シュール」だけではやっぱり物足りない。だから、欲は言わないので、『ゆるキャン△』のキャンプ描写や旅の描写と同程度には田舎暮らしや風物詩をいきいきと描いてほしかったし、『NEW GAME!』と仕事や創作に対する姿勢と同程度には飲食店の経営要素や住み込み労働の描写に力を入れてほしかったし、『ゆるゆり』の百合要素と同程度には国際交流の面白おかしさや金髪へのフェチズムが話の中核にあってほしかった。こんなことを書くと「お前、欲深すぎじゃねぇか」と言われそうだけど。
 雑な記事を雑にまとめると、私は日常作品に対する熱意はあんまり高くなく、上で引き合いに出した作品は格別の評価しているということだ。

のんのんびより 1 (MFコミックス アライブシリーズ)
あっと
404066521X

ご注文はうさぎですか? (1) (まんがタイムKRコミックス)
Koi
4832241192

きんいろモザイク (1) (まんがタイムKRコミックス)
原 悠衣
4832240110

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tags: 百合 感想 
2018年08月07日

百合妊娠 レビュー・感想 ウィメンズナックル

 キルタイムコミュニケーションという青少年向けジュブナイルポルノを生業とする会社が発行していた、相手の子を孕む女性同士のカップルをテーマにしたアンソロジーである。残念ながら続刊はVOL4で止まっている。
 なんでこのアンソロを紹介したかったのかというと、なんだかよくわからないが表紙に載ってる煽り文がやたら面白かったからだ。

二次元コミックマガジン 百合妊娠 (二次元ドリームコミックス)
長代ルージュ みら 剛田ナギ ヒロアキ 山田ゴゴゴ タカハギケモノ 相川りょう 桜沢かなた 天音るり
4799209272

わたしとあの娘で
――ママになろう


 うむ、1巻だけあってまだ百合妊娠というコンセプトの丈にあった内容だ。しかし、よくよく考えると「わたしとあの娘で……」と言っているお前はいったい誰なんだ。表紙絵の女の子と違うのか。

二次元コミックマガジン 百合妊娠Vol.2 (二次元ドリームコミックス)
天音るり みら ヒロアキ 山田ゴゴゴ タカハギケモノ 桜沢かなた
B01J2TYRA8

ママとママの遺伝子を、
あなたと引き継いでいく――


 2巻目にしてすでに話のスケールが大きくなっていて笑える。アジ文からするとどうやらイラストのカップルの両親も同性カップルのようだが、絶対担当者が勝手に設定を付け加えただろ!

二次元コミックマガジン 百合妊娠3 (二次元ドリームコミックス)
梟森 みら 虫けらホイホイ あっきー 山田ゴゴゴ そそざぐり 剛田ナギ おいも 長代ルージュ のちたしん
4799209949

女子だけの家系図を
空の果てまで広げたい――


 3巻目にしてスケールがビックバンを起こしているのは何なの!? 確かにイラストでは、お腹が膨らんでいる魔法少女らしき子の後ろで満天の夜空が広がっているが……。そして「広げたい」って、あんたそれただの過激派百合厨の願望じゃんか! お前はいったい誰なんだ。 

二次元コミックマガジン 百合妊娠Vol.4 (二次元ドリームコミックス)
のちたしん そそざぐり おいも 虫けらホイホイ 山田ゴゴゴ 剛田ナギ
B01MYX1FA6

妊娠っていう字はね
「女」が二人いれば成立するの


 仕切り直して最終巻、個人的にはこれがもっとも面白かった。「何お前ちょっとうまいこと言ってるの」感のあるフレーズと、イラストの女の子のどや顔が絶妙にアンマッチしていてあまりにも最高すぎる。被写体とキャプションの乖離具合、圧倒的なパワーワードがどこかメンズナックルをほうふつとさせて、腹がよじれた。

 肝心の内容のほうは、特に語ることはないかな。レーベルの特色とはいえ、妊娠の要因がファンタジー設定や呪術・伝奇系統が大半で、思い詰めての無理やりが大多数を占めていてちょっと食傷した。一作ピックアップするなら、長代ルージュの『呪いの跡継ぎ』がけっこうよかった。昔話の悲劇から連なる呪術的因業の設定は王道でよいし、相手を想い想われて因業を受け入れる爽やかさが際立っている。ヒロインの市香のまんざらでもなさそうな「私のほうがお姉さんなのよ」という言葉のエモさや、ダークなオチもまたよい。
 きっかけは精子提供でもiPS細胞でもコウノトリでもいいし、いっそ何の説明が無くてもいい。世の中にはもっと妊娠・出産や子育てを取り扱った百合作品が増えるべきだ。

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tags: 百合 感想 
2018年07月13日

素晴らしき日々~不連続存在~ レビュー・感想 幸福、幸福ってなんだ?

『素晴らしき日々~不連続存在~』は、ケロQ/すかぢの最高傑作であるのみならず、エロゲーの文化史におけるひとつの終局特異点だと思っている。

 作品の概要はひとくちには説明できない。電波オカルトにサイコサスペンスにジュブナイル、哲学に量子力学に形而上学、叙述トリックにメタフィクション、クトゥルフに伝奇、文学に戯曲に童話、果ては同時代を生きたサブカルチャーへのリスペクトといった要素が、強烈な登場人物たちの群像劇という強靭な骨格に過積載されている。そのカオスの様相は三大奇書や三大電波ゲーム(セルフオマージュ)が引き合いに出されるほど。ケロQの文脈で語ると、『終ノ空』の優れた構成とシリアスな笑いと思索の冒険ととっぽい衒学趣味とセンチなドラマツルギー、『二重影』『モエかん』の内容的多様さとストーリーテリングの流れを汲み、『H20』で見られたシナリオゲームへの歩み寄りがより強度を高めて進められている。そして思想は『サクラノ詩』へ引き継がれてさらに先鋭化される。
 私が『すばひび』を読んでまず目を見張ったのが、シナリオの充実度とキャラクターの圧倒的な存在感だ。バックボーンと行動原理という血肉の通ったキャラクターが、時には想像もつかぬ明後日の方向に突き進んで予想を裏切り、時には青春活劇の王道をひた走って期待を越えていく。私は過去作『終ノ空』『二重影』を「めちゃくちゃ面白い読み物」という以上の評価はしていなかったので、これほど真に迫る人と人との物語を創り上げてきたことに驚かされた。おみそれした。この作品は総体としていくつかの思想を打ち出しているが、それが読み手に対して発言権を勝ち得ているのは、人間が物語を動かす推進力があってこそだと私は思っている。
 また、マルチサイトのADVとしての完成度にも感服した。シナリオごとの情報の秘匿と開示による演出はエロゲーの伝統芸能だが、この作品ほど世界と人の見え方について鮮やかに表現するそれを私は知らない。私が特に美しいと思ったのが、複数の視点で繰り返される、C棟の屋上におけるさる人物とある人物の対峙のシーンだ。あのひときわ胸を打つ場面は、誰の視点かによって……シナリオの進行度、登場人物と作品世界に対する読者の認識によって、その意味合いがまるで変わってしまう。目から鱗が落ちるような、ずれていた歯車が噛み合って駆動するような、胸の空く感触。あの感慨はじっさいに鑑賞した人にしかわからないだろう。

 以下、直接的ではないが若干のネタバレと、作品の解釈を狭めるかもしれない記述があるので未読者は注意されたし。
ビックハザードこっちくんな
『素晴らしき日々』という作品を貫くメッセージ、キーフレーズをひとつ抜き出せと言われたら、ほとんどの人は「幸福に生きよ!」を選ぶだろう。幸福に、生きよ。普遍的で、強力無比で、簡潔明瞭な哲学である。しかしながら、この哲学もといアンセムは全人類的であるがゆえに、あいまいでがらんどうで複雑怪奇だという矛盾を孕んでいる。つまるところ「幸福に生きることが幸福である」というトートロジーでしかないからだ。だもんだからえらい人も「……ということより以上は語りえないと思われる」とぶっちゃっけている。そこから必然的に辿り着くのは、「幸福とは何か」という問いだろう。だがしかし、幸福というクオリアはそれを観測する個々人に拠るものであり、一意な定義を試みる行為は本質を伴っていない。近所の八百屋の親父でも、スーパーのレジ打ってるおばさんでも、タクシーの運ちゃんでも知っている真理は、今昔の哲学者や思想家が挑んだ永遠の命題でもある。
 この如何ともしがたい逆説に対して、『すばひび』は「俺」や「ボク」や「私」たちが、「あんた」や「お前」や「キミ」との対峙の中で幸福を見出すさまをただただ書き出すことで抗っている。数奇な生まれと運命に翻弄されて全てを見失った者が、自らと大切な人の存在を賭けて掴み取った奇跡。頭のいかれた救世主が妙な因果から傍の者にもたらした福音。地獄への道をひた走る使徒がそこに落ちるまさにその時に見出した幸せ。臆病者とその友人がなけなしの勇気を振り絞って勝ち取った日常。ヒーローを信じて待ち続けた少女にようやっと訪れた救い。そして、人の道を踏み外して正体を失くした者がいつか気づくかもしれない小さな幸せ。こうした風景がしっかりと焦点を結んでいるのは、人間の存在感の為せる業だというのは先述した通りだ。そして、上記の幸福に関するコンセプトは、結果として、それがどこに拠って立つものなのかを端的に示しているのではないだろうか。
 この作品の正史・正規ルートは、おびただしい死と不幸で敷き詰められている。非業の死と不運がせわしなく襲い掛かり、登場人物は不和と不信の悲嘆にくれて悲劇の道を歩いていく。そんなおぞましくも物悲しい滑稽劇の世界観で、裂けた可能性の世界に存在するたっとい幸福の形、あるいは那由他の彼方にある場所で見出されるくるおしい幸福の姿は、強烈なコントラストでわれわれの目に焼き付いてくる。

 わたしは恐るべき真実を知った――救済と呪いのあいだには、本質的なちがいなどなにひとつありはしない、と。

(スティーヴン・キング『グリーン・マイル』)


「えいえんはあるよ」
彼女は言った。

「ここにあるよ」
確かに、彼女はそう言った。
永遠のある場所。
…そこにいま、ぼくは立っていた。

(『ONE~輝く季節へ~』)


もう滅びつつある人と世界には 語りかける必要はない
僕ら生まれ変わる新しい人に 最後のGenesisをこえて

(『未来にキスを』「Kiss the Future」)


 もう一つ、私が『すばひび』のエッセンスだと考えるフレーズが「自分の限界」と「世界の限界」だ。以下の問いは作品の導入部で投げかけられるものなので、まるっと引用してもバチは当たるまい。

 他人も含めた世界って何だ?
 世界が俺なら、他の連中は何だ?
 それらも世界を持っているのか?
 だったらそれは別々の交わらない世界なのか?
 それともその世界は交わる事が出来るのか?
 すべての世界……すべての魂は……たった一つの世界を見る事が出来るのか?
 俺が見た、世界の果ての風景。
 世界の限界。
 最果ての風景。
 その時に、お前も同じ様に世界の果てを見るのだろう。
 お前が見た、世界の果ての空。
 世界の限界の空。
 最果ての空。
 俺は、お前と見る事が出来るだろうか?
 そこで同じ世界の終わりを……。
 違う空の下でありながら……同じ空の下で見るんだ……。


 このさかしらで、しかしクリティズムを同封した問いは、前作『終ノ空』と同一の存在である音無彩名が唱える甘やかなタナトスの言葉と同義ではないだろうか。

「水上さん……こんな話……知ってる?」
「?」
「……世界には何人の魂があれば足りるか……」
「それはどういう意味?」
「そのままの意味……」
「世界に必要な数の魂……たぶん……一つで十分……」


 そう、世界はたったひとつの魂で成立し、満たされてしまうのだ。このぞっとしない甘美な事実に、真正面から向き合うことができるだろうか。
 この作品を構成する物語は、どれも「他者」の存在が起点となっている。目を覆いたくなるほどの陰惨な悲劇も、目が眩むほどまぶしい幸せも、いつだってはじまりとなるのは自分の世界を脅かす他者の到来である。このことを心に留めて全体を読み通すと、また違ったものが見えてくるんじゃあないだろうか。自分ひとりでも満たせる世界。精神的に何ら不自由することのないえいえんの世界。それをおびやかす他者がもたらすのは、幸福か、不幸か? 呪われた生か、祝福された生か? あるいは、両者に本質的な違いなどありゃあしないのだろうか? 答えを出せるのは「わたし」と「あなた」だけである。

 何より個人的な物語であるがゆえに、「私の翼」によって特殊から普遍へと飛躍した。幸福という語りえぬものの尊さを謳う「世界の限界を超える詩」となった。私は『素晴らしき日々』という作品をそう解釈している。

 言いたいことはだいたい言い切ったので、その他もろもろをつらつらと書く。
 ぼくは希実香がすきです。シナリオ(世界線)をまたがって縦横無尽に活躍するキャラがだいすきです。
 音楽がとにかく素晴らしい。劇伴もボーカル曲も、サウンドから曲展開から歌詞まで非の打ち所がない。よく知られているのは「空気力学少女と少年の詩」と「夜の向日葵」で、これはもうエロゲーソングやエロゲBGMという枠を超えて評価されている。私は「ナグルファルの船上にて」や「音に出来る事」「夏の大三角」も大好きだ。
 立ち絵に背中を向けたパターンがあるが、いろんな奥行きが感じられてなんか好き。
 同性愛を含むジェンダーのあり方に対する偏見と暴言がひどくて、あまりにもひどすぎて怒りがこみ上げてくる。特に序章は、百合ゲーとして評価するならうんちっちである。時代錯誤で誰も得をしない描写はとっぱらってもらいたい。こんなに面白い作品をくだらない描写のせいでおおっぴらに勧められないのは悲しくて仕方ない。
 わかる人にはわかる話だが、とある作品が『すばひび』とほぼ同時期に発表されたのはシンクロニシティのようで面白い。あれはこの作品に比肩するエロゲーのマグナム・オーパスだと私は思うし、たぶんみんなもそう思っている。

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