2019年07月06日

2019年後半戦の新作百合ゲーム 『Heart of the Woods』『じんるいのみなさまへ』『N1RV Ann-A』『夏空あすてりずむ』『星詠みと流星のステラ』

 毎度おなじみ、流浪の新作百合ゲー下馬評記事なのだが、紹介できる作品があんまりない。他にめぼしい作品があったら教えてほしい。
 前回分はこちら。
2019年の新作百合ゲーム 『きみから』『いつかのメモラージョ』『夢現ReMaster』『クダンノフォークロア』『FunctionW』『星詠みと流星のステラ』

 前半戦の作品はけっこうやったので、ひと言コメントを載せておく。
『きみから』
 思い込みからの強引なすれ違い、急に主張するSFチックな設定に前作の血を感じる。
『クダンノフォークロア』
 類型的な人物造型と謎ミステリィ、ちょこざいな表現が『FLOWERS』の精神的続編。
『ゆりマスター』
 作風をぶっ壊すトンデモ設定、鬱エンド・バッドエンドノルマがいつもの工画堂スタジオ。

Heart of the Woods(2019/2/15にリリース済み)
https://store.steampowered.com/app/844660/Heart_of_the_Woods/

 魔法と妖精、そして幽霊の少女が登場するファンタジー百合ビジュアルノベル。マディーとその親友のタラが、不可思議な伝承を調べるために辺鄙で緑深い村に向かい、予想だにしなかったものに出くわす。


 既に発表済みの作品だが、紹介するタイミングがなかったので宣伝。北欧系の伝承とおぼしき背景や、バタ臭くなくて垢抜けたキャラデザにかなり興味を惹かれているのだが、残念ながら今のところおま語だ。Switchにも配信されるらしいのに……。日本語に対応したら速やかにプレイしたいが、本当にやるものがなくなったらGoogle翻訳でも使いながら挑戦してみようかしらん。
 Twitterで教えてもらったが、Steamで購入後に適用できるごほんごほんなパッチも配布されているらしい。

じんるいのみなさまへ(2019/6/27)
https://nippon1.jp/consumer/minasamae/

 公称ジャンルは「ガールズアドベンチャー」。既にゲーム部分のやべー噂を聞いているのだがどうなんだろうか。
 舞台には何やら謎がありそうだが、荒廃した世界を征くのがぴらぴらした服を着たねーちゃんという絵面に魅力をあんまり感じないのもあって、ワゴン待ちかな。

N1RV Ann-A: Cyberpunk Bartender Action(近日登場)
https://store.steampowered.com/app/914210/N1RV_AnnA_Cyberpunk_Bartender_Action/

 『N1RV ANN-A: Cyberpunk Bartender Action』(”Nirvana”/「ニルヴァーナ」)とは、お酒、オタクの恋愛、テクノロジー、そしてディストピア的バブル経済の日常を描いたゲームです。

ヒット作『VA-11 HALL-A』の続編となる『N1RV ANN-A』の舞台は、『VA-11 HALL-A』のグリッチ・シティではなく、高級バー「N1RV ANN-A」が存在する理想郷のパラダイス、セイント・アリシア島。その人工島ではディストピア的な経済組織が暗躍しており、島民の日常生活のあらゆるところに影響を及ぼしています。また、バーを訪ねる多様な客らはマフィア組織による恐喝や人身・麻薬売買など、様々な犯罪や悪業に悩まされ続けています。

バーテンダーのサムもその一人。恋人のレオンはヤクザとしての顔を持ち、二人の関係には亀裂が深まりつつありますが、8歳の息子トニーのため、彼女は日々努力を重ねています。そんなサムとレオンが、この作品の主人公なのです。

ゲームプレイとしては、常連たちと仲を深めながら、ウオッカやフルーツジュースなどといった材料を使って実存のレシピに従って作ったカクテルを客に提供していきます。しかも本作の舞台となるセイント・アリシア島では、貧しいグリッチ・シティと違ってアルコールの合成代替物ではなく、本物のウィスキーや、ウオッカ、ラムなどを使って「本物」のカクテルを作ることができ、また注文に従ってただ言われた通りにドリンクを作るだけではなく、様々な材料を使って色々な実験的なカクテルを作ることもできます!どのカクテルを提供するか、そしてそれにより誰の人生がどう変わるかによって異なる様々な展開が待ち受けています。


 公称ジャンルは「サイバーパンク(まあわかる)・バーテンダー(わかる)・アクション(?)」。シニカルな台詞回しとカウンター越しに見える人間模様が楽しかった『VA-11 HALL-A』の続編。カクテル作りもいいあんばいの作業感だったな。
 たぶん同性愛者がどこかで出てくる。一人もいなかったら空き缶を投げてくれてよい。

星詠みと流星のステラ(?)
http://studiopolaris.jp/stella/

――あなたに、あえてよかった。

傷つきながら「星」を採りつづける
ひとりの孤独な少女がいた。
少女の名は アリス・ブリストル

彼女は「星」を取るときの事故で親友、
ソフィア・ロジュを失ったが、
数年たったいまでも、
その事を受け入れられずにいた。

誰よりも速く。
どこまでも飛べば、
また彼女に会える気がした。

自らを燃やし尽くす「流星」のように、
誰よりも苛烈に輝きを放つアリス。

他の誰よりも成果を挙げ
【最輝星(エトワール)】と称えられるようになっても、
彼女はただただ、孤立していた。

ある日、彼女は「星」の中で眠る
正体不明の少女と出会う。
自由で、幼く、そして優しい。
しかし自分の名前すら
思い出せない少女に、
アリスは「スピカ」という名を付ける。

スピカとの日々はアリスの心に、
ふたたび灯りをともす。
その出会いは思いもがけぬ
「真実」をアリスに降らすことになる。

これは、傷を背負い、
でも「星」を採り続けた少女が、
大切な人ともう一度、
出会うまでの物語。


 公称ジャンルは「空戦百合ファンタジービジュアルノベル」らしい。男のコの好きなもの全部盛りじゃんか。キーワードもどこかで聞き覚えがあるな。

夏空あすてりずむ(2014年予定→?)
http://natukon.mints.ne.jp/natu-as/

青春×田舎×乙女!!
明るく元気だけが取り得で、天体観測が趣味の女の子『椿沢 科乃(つばきさわ しなの)』
今年の夏もめいっぱい楽しもう!! と、思っていたのに……。
あれれ、今年の夏は去年までの夏と違うっ!?
趣味に進路に友情に、そして――もしかしたら恋に!?

星がゆっくりと夜空を流れていくように、
ゆっくりでも、確実に変わらなきゃいけない夏。
その先にある未来へと繋がる星座を形作るために。


 公称ジャンルは「爽やか青春系百合ADV(18禁)」。驚いたことに5年前くらいの百合ゲー記事にも名前が載っていた。エターなったのかと思ったが、ブログを読むと夏コミで完成版を発表する芽が出てきたらしい。ひょっとして、スタンダードな恋愛ゲームに見せかけた超大作なのだろうか。


 『Heart of the Woods』に一緒に挑戦してくれる友だちを捜しています。

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2019年06月22日

夢現Re:Master レビュー・感想 コンプリート後に売リマスター

 ゲーム制作会社でがんばる新人の物語ということで勝手に『NEW GAME!』を期待していましたが、頭から尾っぽまでいつもの工画堂スタジオでした。つまり、作風はむちゃくちゃでだいたいつまんなかったです。唯一、竹内なおゆき(『蒼い海のトリスティア』)担当とおぼしきさきルートだけは熱量を感じました。

 私が『夢現Re:Master』のどこに工画堂スタジオらしさを感じたかというと、とっちらかりっぷりと無駄にひねって読者を混乱させる設定です。『白衣性愛情依存症』ばりに謎の人格憑依や謎の入れ替わりが錯綜するおかげで、脳内の人物相関図はしっちゃかめっちゃかになります。また、あるルートではイメージビデオ・AV業界の闇が、あるルートではとっぴな国家転覆の陰謀が明らかになり(ゲーム制作はどこいった)、しまいにゃあ別のレイヤーのキャラクターまで因果律に介入してきます。ここまで超展開のレパートリーを揃えた超展開ゲーはあんまりないと思います(ぜんぜん、ほめてない)。
 テキストについても、共通パートと各個別ルートで筆致がぜんぜん合っていなくてやばみを感じます。特にななルートのテキストがおっそろしく生硬で読みづらく、悪い意味で一読の価値があります。共通パートの文は『白衣性』シリーズの流れを汲んでゆるゆるなので(このブランドは読者の読解のレベルをどのへんに設定しているんだ?)落差に笑ってしまいました。ここの担当は志水はつみ(『FLOWERS』『クダンノフォークロア』)でFAです。病んだ女からの呪縛の描写が過去作とモロ被りでした。外れていたら、審美眼のないバカと罵ってもらってよいです。
 一方、読み応えを感じたのはさきルートでした。やはり竹内なおゆき(外れていたら謝罪します)はベテランだけあって抜群にうまいですね。テキストがよいのはそれだけでよい。過剰なライトオタクネタがうっおとしくもリズムを生んでいます。ヒロインのさきについては、社会人としてはどうしようもないクズで、不必要に辛辣で、だけど作家としては本物で、実は誰よりも優しくて、おまけに顔がよいうというやっかいな愛おしさが狂おしく表現されていたと思います。そんな極めて扱いの難しい女が、鈍くさい女にまめまめしく世話を焼かれて要所でケツを叩かれるうちにほだされて、ずるずる関係を持っていく過程が生々しかったです。もう一つのプロットの骨子となる、退路を断って臨む真ルートのリライトについても、物語を書くこと、作品を作り上げることの悲喜こもごもが織り込まれていて読ませました。みなで一心不乱に物作りにいそしむ高揚感や共謀感もよかったです。あと、こころがいらだちから思わずさきに手を挙げるシーンについてもひと言。あそこが印象深いフックになっているのは、事件のショッキングさだけでなく、さきを心配するあいの心が最愛の妹から彼女に移りつつあるのを端的に表現していたり、後のさきに対するこころの理解(和解、とまでは一生行かないんだろう)の布石になっていたりするからではないでしょうか。いちエピソードで物語や心情がぐいぐい動くのが感じられて、作劇のレベルの高さを察しました。
 マリーはとっぴもとっぴでいつもの工画堂、ななは思い違いの強引さや類型的なキャラクターが『FLOWERS』の系譜という印象です。グランドルートのこころはフィクションレベルが許容を逸脱していいて、テキストやシナリオがどうという以前ですわ。
 向坂氷緒(『あなたを月にさらったら』『白衣性愛情依存症』)か西川真音(『シンフォニック=レイン』)のセンスだと予想しますが、その人の真名が生き方や在り方にまで影響を与えるという劇中作「ニエと魔女と世界の焉わり」の設定が、本編の登場人物にも当てはまっているのはきれいだと思いました。マリーは結婚して(marry)母(Maria)になり、ななは義母にあたらえられた名前(はなこでしたっけ)から脱却してあいを実らせ、さきはみさき(見先)の意志を半ば引き継いだ、と。
 毎度おなじみ、お家芸の鬱エンドは、睡眠薬での心中は想定の範囲内で、精神崩壊が被っていてちょっと物足りなかったです。おっ、と思ったのは幼児退行赤ちゃんプレイぐらいですかね。
 システムについて、いまだにコンフィグでメッセージ送りでのボイスの継続が設定できなかったり、選択肢でバックログが使えなかったりするのは酷いです。劇中で、新人のあいに対してゲームのユーザーインタフェースについて講釈を垂れるシーンがあったのですが、このざまでご高説賜るなと毒づきたくなりました。

 これは『ゆりマス』だけの話ではないし、毎回似たような話を書いていて申し訳ないんですが、無駄にひねった設定や置いてけぼりになるどんでん返しは別にいらないので、一読で読者の腑に落ちるシナリオを書き、各ルートの統率を取って、一本の作品に創り上げてもらいたいです。作風や根本の設定の軸がずれたルートを4本、五本ただ用意したところで、それは単なる寄せ集めでしかありません。

 廉価版かワゴンのどちらかを待ってもよいという評価です。

夢現Re:Master

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2019年06月02日

きみから~彼女と彼女の恋するバレンタイン~ いいかげんなレビュー・感想

 前作『きみはね』となんも変わらない。
 サブカルネタがくどいのも一緒(きみは「イピカイェー!」や「ウェカピポの妹の夫」でにやりとするかい?)、ラブラブ進行していたと思ったら片割れが相手を思う故に暴走して無理やりな一悶着が起こるのも一緒、グランドルートに入ると急転直下でループ・リプレイ要素が幅を利かせてきておいてけぼりになるのも一緒。だいたい一緒。
 絵柄がかわいい、みんなよい人で雰囲気は悪くない、相手に対する愛がちゃんとある、かなりヘテロノーマティブだが異性愛規範で終わらないこと以外は特に評価する点がない。

きみはねCouples

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2019年02月21日

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 谷川ニコ レビュー・感想 お前が楽しくないのはどう考えてもお前が悪い!

『咲-Saki-』勢の間で評判だったので読んだが、すっと腑に落ちた。中心人物を巡る嫉妬や執着、静かな狂気、周りに形成される人間模様がゆかいなところが通じると思う。

路線変更が功を奏した珍しい漫画
 漫画の路線変更、人気が低調だったりマンネリだったりする作品の梃子入れや作風のシフトは得てして上手くいかないものだが、『わたモテ』はそれが受け入れられた珍しい作品である。今でも初期のぼっちクズオタクあるある話のイメージしかない人は多いと思うが、8巻の修学旅行編あたりから話の主軸が様変わりしていくので、どうせならそこまで読んでみるべきだ。青春と言うほど爽やかではなく、ドラマと呼ぶほど劇的な展開はなく、群像劇と付けるほどしまりはなく、成長譚と評するにはどうにも心許なく、ガールズラブと銘打つにはさっぱり甘くなくてカオスが過ぎる。しかし、まだらな人間模様が形作られていく過程やその中で智子が悪戦苦闘するさまは何とも言えず面白く、同時に身につまされて背中が痛痒くなる。今の『わたモテ』はそんな作品である。

『わたモテ』の何が変わったのか

しかし今まで意識しなかったが
他人に合わせて生きていくのも
ぼっちとは別の大変さが
あるのかもな……

(喪82「モテないし日常に戻る」)


「死ね」ボソ

(そこだけはちょっと気が合うね)

(喪107「モテないし気にかけられている」)


 前述の通り、『わたモテ』は方向性の変化が強烈な個性に昇華されている作品だ。それで、いったいこの作品の何が変わったかのと言えば、智子の他者と世界に対する見方、関わり方が(多少なりとも)変わっていったんじゃあないだろうか。
 この漫画の序盤がだいたいつまらなくて、修学旅行編からだんだんと面白くなってくるのは何故だろうか。話は単純で、前者はどこまでも独りよがりで、後者はゆりや吉田を始めとしたいろんな人間が関わってくるからだ。この作品は期せずして、毎日の些末事もしょうもない行事も、独りで鬱屈としているより周りに人がいたほうが面白い、いろいろ気苦労もあるし振り回されもするけれど、誰かと共有したほうが絶対に楽しい、というごくごく当たり前だがまぶしい真理を切り取っている。作風の変遷そのものが図らずもサブテキストの骨子になっていて、なかなか興味深い漫画だ。
 極端に言えば、序盤の智子にとっての他人は「リア充」「イケメン」「ビッチ」というラベルでしかなく、妬み嫉みの的(まと)あるいは「モテる」「イケてる」という実績解除・トロフィー獲得のためのNPCでしかない。読者の目にも彼ら彼女らは書き割り程度にしか映らなくて、実体がさっぱり見えてこない。これで話が面白くなるほうがおかしいだろう。それに比べて、いちの友人だが嫉妬深くてすぐにへそを曲げるゆりや、意外に面倒見はよいがすぐに手を上げたり(だいたい智子が悪い)無茶ぶりをしたりする吉田の、何と奔放で、何と生き生きとしていることか! 奴らの独立した一個の存在感は、前述の記号たちとは比較にもならない。智子が周りの人間に向ける視線の解像度が明らかに変わっている、と言い換えてもよい。生きている人間はそれだけでも楽しいし、そいつらがかち合って物事が動くさまはもっとずっと面白い。この価値観に共感できる人にはより刺さる漫画だと思う。
 方向性もとい智子の変化が地味に現れているのが、「モテないし」から始まる各話のサブタイトルだ。序盤はその枕詞の通りに、智子が満たされない欲望から痛々しい奇行に出て失敗するのが話の定型だったのだが、次第にそのフォーマットは崩れていき、枕詞もあんまり意味を成さなくなっていく。彼女が「モテないし」という自分本位のフラストレーションにかかずらっている余裕が無くなってくるのとリンクしていて面白い。
 136話で智子は自分から「漫画を薦める」のだが、その相手がそこまで打ち解けていない真子というだけでちょっとうるっとくる。ちなみに漫画は吉田へと又貸しされてグループを渡り歩いていく。なかなか象徴的だ。そして137話では「GWを迎える」が、カレンダーはバランスを取ろうとした結果友だちとの予定で埋まっていて、連休はあっという間に終わっていく。もはや非モテ関係ねーじゃんという突っ込みは野暮だろう。
 暗黒期の話でも、数少ない友達であるゆうちゃんとの間に小宮山が絡んでくる話や、親戚のきーちゃんが遊びに来る話は比較的読めた。前者は友だちの友だちという微妙な関係な上にまったく反りが合わず、でも友だちの手前ガン無視は出来ない気まずさが不謹慎に笑えて、後者は親戚のお姉ちゃんとしてええ格好をしようとする幼い見栄が悲しくも微笑ましく、つまるところ智子が関係性の中で四苦八苦するところが面白かったのだと思う。これは8巻以降の作風と共通するエッセンスじゃあないだろうか。

狙ったギャグはかなり月並み
 明確な欠点についても書いておくと、この作品をギャグ漫画の枠で捉えてネタの練度で評価すると、およそ褒められたものではない。勘違いやすれ違いを機転とするコントは「そうはならんやろ……」と思うことが大半だし、掛け合いや心の中での毒づきの台詞回しにキレやセンスは感じられなかった。特に嫌な印象に残っているのが、無理やりもいいところな勘違いから、友だちの友だちである真子を延々「ガチ●ズさん」(原文ママ)と呼び続けるところで、いろいろと芸がなくてげんなりした。
 そして、単行本7巻に渡る低調期は正直言って長すぎる。智子のクズっぷりと苦しいネタ出しにギブアップする人が出ても責められない。あの虚無の期間は結果として必要だったわけだが、もう少し短かったらと思わずにはいられない。

その他もろもろ
 『わたモテ』の美点の一つが、主人公に感情をぶつけてくる、いわゆるヒロイン以外にも、その友だちや友だちの友だちが登場し、しかも彼女たちなりの価値観や行動原理がちゃんと見えるところだ。具体的にはキバ子とか茜のことね。この点が、まだらな人間関係を多層的に彩っているんじゃあないかと私は思っている。デザインもけっこう描き分けができていて、登場人物はかなり多い(しかも基本的に制服)のに混同したことがほとんどない。
 智子が(下心があろうとも)自分から他人へ関わったり親切にしたりするようになったきっかけの一つに、赤の他人だった生徒会長との交流があるのはモノローグから明らかだろう。きれいな関係の返報性の構図で、エモエモのエモだった。
 この作品に対する批判で、ぼっちの主人公が突然人に囲まれて言い寄られるのは願望充足的でリアリティがない、というものがあった。ごもっともだと思う一方、彼女が突飛な人間関係に放り込まれて右往左往するさまこそこの作品のキモであって、あまり当を得ていないとも思う。

まとめ
 思いがけず人気が出たとおぼしき展開に合わせてシフトチェンジした結果、人間関係に対する普遍的な真理が表出してしまった変てこ漫画と捉えている。
 既に一度アニメ化されているそうだが、リブートで再アニメ化したらめっちゃ盛り上がりそうだ。序盤を3話程度でまとめてしまって、さっさと修学旅行編に入る構成でひとつどうだろうか。
 ところで、私は咲勢かつ『わたモテ』にはまっている人に対して、有珠山高校の人間関係、特にチカセンこと桧森誓子のめんどくささが好きだというイメージを勝手に持っていたのだが、一致率はどんなものだろうか。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! | ガンガンONLINE | SQUARE ENIX

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tags: 百合 感想 
2019年01月17日

2019年の新作百合ゲーム 『きみから』『いつかのメモラージョ』『夢現ReMaster』『クダンノフォークロア』『FunctionW』『星詠みと流星のステラ』

 毎度おなじみ、流浪の新作百合ゲー下馬評記事。前回分はこちら。
2018年後半戦の新作百合ゲー、どれやりますか 『ナイトメア・ガールズ』『素晴らしき日々HD』『きみから』『メアリスケルター2』『クライスタ』『いつかのメモラージョ』『ぷらこれ!』

きみから~彼女と彼女の恋するバレンタイン~(2017年春→2017年内予定→2018/5/25予定→2018/8/31予定→2019/01/25)
http://baseson.nexton-net.jp/baseson-light/kimihane-couples/

少女たちの恋と友情のスケッチ、再び―

ダウンロード限定発売のガールズラブAVGが、続編+完全版で待望のパッケージ化!

さぁ、ハッピーエンドの向こうへ行こう。

http://baseson.nexton-net.jp/baseson-light/kimihane-couples/


きみから
~彼女と彼女の恋するバレンタイン~

新学期が始まっても、 あいかわらずのにぎやかな朝。
しかし変化もあった。
それは新たなルームメイト鷹岡聖夜子の存在。
でも彼女の正体を陽菜たちはまだ知らない。
クリスマスに結ばれた恋人たちは 甘い時間を過ごしていた。
眩しくそれを見つめる聖夜子だが、 自らの胸にもまた、 恋心の育ちつつあるのに 彼女はまだ気づいていない。

カップルたちの甘い後日談に、 新ルームメイト聖夜子と寮監祥子の もどかしい恋模様が交錯する バレンタインまでの新たな一ヶ月。

http://baseson.nexton-net.jp/baseson-light/kimihane-couples/


 延期が長すぎて存在を忘れていました。申し訳。
 ところでこれ、前作とのカップリングだけで、バラ売りはしていないんでしょうか?

いつかのメモラージョ(2018年秋予定→2019年2月28日)
http://sukerasparo.com/memorajxo/index.html

見た目は日本と変わらないのに、

“ユリアーモ”と呼ばれる聞いたこともない言語が
主流(?)の異世界に迷い込んでしまった女子高生――凜。

そんな彼女を助けてくれたのは、
お世話役を買って出た天使のような女の子――ルカと、
少し意地悪な大人の女性――レイだった。

ことのはアムリラートの続編にあたる今作では、

凜の知らない『ふたりの過去』と、

誰も知らない『ふたりの現在』が語られる。

http://sukerasparo.com/memorajxo/index.html


 公称ジャンルは「純百合アドベンチャー」。超展開百合ゲーといったらこの人、J-MENT先生のお勉強ゲームの続編ですね。私は過去作がことごとくピンと来ない上、笛絵でもないのでパスします。
 ところで、ライターの代表作が『ことのはアムリラート』と『カタハネ』ですって? Volume7とクロスクオリアから逃げるな!
クロスクオリア レビュー・感想 掴みの弱い人間ドラマ、少なからず不快なSF要素
ことのはアムリラート レビュー・感想 ろくな衝突もない異文化交流、展開に動かされるキャラクター

夢現Re:Master(2019年2月予定)
http://yuremaster.kogado.com/

ここは帝都東京にある、特別快速が止まらない街、「虹園寺(こうえんじ)」。眠らない街にある、本当に眠ら(れ)ないゲームソフト制作会社のドアを叩いたのは、田舎から出てきた純朴な少女、あい。
何故か冷たい態度を取る妹こころや、個性的で愉快な先輩社員たちと新生活は愉快なピクニックか、はたまたデスマーチか!?
あなたが遊んでいるそのゲームの裏側を、もしかしたら知れちゃったりするかもしれない、世界(ゲーム)創造の物語、始まります。

http://yuremaster.kogado.com/


『夢現Re:Master』は、『白衣性恋愛症候群』『白衣性愛情依存症(英語タイトル:Nurse love addiction)』を生み出した工画堂スタジオ、しまりすさんちーむ渾身の、キラ☆ふわガールズラブゲーム制作会社アドベンチャーゲームです。

前二作「白衣性~」のシリーズは、医療現場の看護師や、看護学生という「職」に纏わる物語でしたが、本作は同じ「お仕事」ものでも、我々が日頃取り組むゲーム制作現場がステージとなり、そしてそこで働く人たちの物語が描かれます。

http://yuremaster.kogado.com/


 公称ジャンルは「キラ☆ふわガールズラブゲーム制作会社アドベンチャーゲーム」。『クダンノフォークロア』もそうですが、なにゆえ百合ゲーはあまりにも偉大すぎる先達(『NEW GAME!』)のいるジャンルに特攻を仕掛けるのでしょうか。
 賭けてもよいですが、また芸もなく、ゆるふわ恋愛ものと見せかけて人肉食とか死体姦といったショッキングな展開を仕込んでいると思います。当たってたら何かください。
 クロスプラットフォームで、SteamやSwitchでも出来るみたいですね。、
白衣性恋愛症候群 レビュー・感想 実直な看護描写と軽薄なファンタジーの激しい乖離
白衣性愛情依存症 レビュー・感想 散漫とっちらかっぷりはさらに悪化

クダンノフォークロア(2019年春発売予定)
http://sukerasparo.com/folklore/

巷説に“クダン”というフォークロア(都市伝説)が広まっていた。
曰く、クダンは西洋の喪服を着た女の姿をし、右手首はなく、素顔を黒いヴェールで隠している。
曰く、クダンを目にしてしまった者の元へ、七日のときを掛け近づき“災いの予言”をするという……。

16歳の少女、九段朔夜は奇縁から料理教室講師である志摩塔子という女性と出逢い
――ふれ合ううちに仄かな想いを募らせていく。
しかし、災厄を予言する“クダン”を塔子が目にしたことで、
穏やかだった日常は狂いだしていった。
刻一刻と近づくクダン。朔夜は彼女を守るために奔走し、対抗する手段を得ようとする。
そして己の学校、《九段女子高等学校》にフォークロアを
研究する部が在ることを識った。
神秘学研究会の戸を叩き、会の長である春夏冬小兎とともに
朔夜は大切な人を守るためフォークロア(未知)に挑む――――。

http://sukerasparo.com/folklore/


 公称ジャンルは「百合系フォークロアADV」。『秘封倶楽部』のオマージュである『裏世界ピクニック』のさらにエピゴーネンじゃないの、というのが偽らざる第一印象ですわ。
 何にせよ、捻りのない学生のいちゃいちゃ恋愛よりかは興味を惹かれるので、とりまやってみようと思います。『ことのはアムリラート』と同じブランドですが、シナリオ担当は超展開の人とは別……って『FLOWERS』の人でしたか。私は春編でリタイアしたのであんまりよい印象がないですね。特に悲劇ありきの雑な筋運びと「好きに為ったら」「だと識った」のようなこざかしい漢字表記が苦手でした。

 以下、同人作品の枠。

Function:W();(2019年01月中旬)
https://www.dlsite.com/home/announce/=/product_id/RJ243716.html

――誰も居ない世界の、白い少女。

女子高生『雲野黒柄(くもの くろえ)』は、謎の病気で一年近く入院していた。
あるとき黒柄が目が覚めると、世界から誰も居なくなっていた。
大学病院内を必死に探す黒柄は、謎の白い少女と出会う。
名前がないという白い少女に『マシロ』と名付け、
マシロの言う『世界の扉』開けに協力することになるが……。

https://meimgames.wixsite.com/function-w/story



星詠みと流星のステラ(?)
http://studiopolaris.jp/stella/

空戦百合ファンタジービジュアルノベル




 よく見たらエロゲーが一本もない!
 私は手持ちぶさたなので、あんまり期待値を上げずに『クダンノフォークロア』『ゆりマスター』へ突貫しようと思います。

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tags: 百合 
2018年12月30日

勝手にこの百合作品がすごい! 2018

 Twitterの転載。

ものすごい!
『かえみと』樋口楓・月ノ美兎
『読了まであとどのくらい』たいぼく
『FATAL TWELVE』あいうえおカンパニー
『やがて君になる』仲谷鳰
『シノハユ』『咲-Saki-』小林立・五十嵐あぐり

なかなかすごい
『アクタージュ』マツキタツヤ・宇佐崎しろ
『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』谷川ニコ
『NEW GAME!』得能正太郎
『ナイトメアガールズ』月の水企画
『裏世界ピクニック』宮澤伊織
『ゆるキャン△』
『若おかみは小学生!』
『リズと青い鳥』
『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』

『かえみと』樋口楓・月ノ美兎
 どうしようもなく“バーチャル”“リアリティ”だった。
 脚本と伏線(?)の完成度があまりにも高すぎて何もわからんくなる。下手な漫画のキャラよりぶっ飛んだ二人が綴る、小説よりも奇なる波乱万丈の物語を前に、私らはシャッポを脱ぐしかなかった。かえみとすげぇよ。勝手に作品賞と監督賞と主演女優賞(ダブル受賞)と脚本賞と歌曲賞を送りたい。そんくらいずば抜けていた。 
かえみとを見てください、よろしくおねがいします。

『読了まであとどのくらい』たいぼく
 『ユリトラジャンプ』に収録されたので紹介。
 高慢ちきなサブカル女がわるい女に捕まり、自分の領分のみならず社会性でも女としてもチンチンにされてどうかするお話。臆病尊大な自尊心というエッセンスと、歪んだ視線と輪郭線の筆致がよく合っていた。
 VTuberを題材とした『うそでも笑って暮らそうよ』も早う読みたい。

『FATAL TWELVE』あいうえおカンパニー
 ときどきこんな力作にかち合うから、同人百合ゲーの発掘はやめられない。
 デスゲームものとして完成度が高いし、儀式の進行が物語の掘り下げとうまく噛み合っている。それと参加者のほとんどがキャラ立ちしているのが地味に凄い。私は主人公の凛火や憎みきれない小悪党のフェデリーコが好きだな。
FATAL TWELVE レビュー・感想 練られたデスゲームと真摯なドラマを両立させた力作

『やがて君になる』仲谷鳰
 すさまじく評価に困る作品。
 強引な導入と一部の不愉快な登場人物(槇)、ヘテロノーマティビティはかなり目に余る。けれど、これだけ場面々々が鮮明で、先の展開――二人の心や関係性の変化、すれ違い――が気になる漫画が他にあるかというと、あんまりない。あと、このご時世に絵(画)だけでも人を呼べる作品もそんなにない。そこまでカロリーが高い作画でもないんだけど、目つきと塗りがよいのかな?

『シノハユ』『咲-Saki-』小林立・五十嵐あぐり
 レジェンド枠。島根県大会決勝での慕の大立ち回りを見て、構成力と表現力を再確認した。
 いろんな人間関係の相互作用が面白いのが魅力の一つだが、最近だと魔物と強者(照菫・ゆずちひ)やサブキャラ同士(しおるね)がよい。
咲-Saki- いっしょに楽しもうよ!

『アクタージュ』マツキタツヤ・宇佐崎しろ
 最近のジャンプにはこんなに仕上がった漫画が載っているのか、今の子どもがうらやましいぜ。
 役者の演技や存在感といった表現しがたい感覚質を、画力と概念化で以って少年漫画的に落とし込んでいるのはお見事。

『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』谷川ニコ
 『咲-Saki-』勢の間で高評価だったので読んだ。集団の中心人物を巡る嫉妬や執着や静かな狂気、周囲の人間のまだらな人間模様がゆかいなところは共通項かもしれない。
 あの虚無の期間は結果として必要だったわけだが、もう少し短かったらなぁと思わずにはいられない。

『NEW GAME!』得能正太郎
 殿堂入り枠。御大ぃ! 百合として描いているのはコウりんだけだって言ってたじゃんか~!(プログラマー班を見つつ)
 はじめディレクター編も充実した内容だが、ドッジボールファイト!はPECOに比べて魅力が薄いな(バトルドッジボールやん)。
NEW GAME! 得能正太郎 レビュー・感想 お仕事も夢もがんばるぞい!

『ナイトメアガールズ』月の水企画
 絶妙な辛さで報酬系を刺激するゲームバランス、すらすら読ませるテキストはさすがの月の水企画。イベント数やグラフィックの作り込みも歴代最高だろう。
 だが、仲間が最初から恋人同士の設定になって却って関係性が薄くなってるのはなぜなんだ。
リリィナイト・サーガ レビュー・感想 名作! 王道風ド外道百合エロRPG

『裏世界ピクニック』宮澤伊織
 秘封倶楽部じゃん! と言いたくなる気持ちもわかる(作者が未履修だったら土下座して謝る)。
 怪異と恐怖の連関や近代兵器を投入したバトル要素で差別化は出来ていると思う。あと、相棒に対する湿度の高い視線と執着は、あっちにはない作風を形成している。

『ゆるキャン△』
 この作品の、克己や連帯を押し付けず、だけど人と何かを共有する楽しみや喜びをいきいきと描くスタンスは粋だよなぁ。それと五感に訴えかける描写が巧みで、キャンプという非日常というには近く、日常より遠出した場所に自然と没入させられた。
 アニメ組なので、TLにリンとなでしこの姉のインモラル~な絵が流れてきてなんじゃらほいとなっている。
ゆるキャン△ レビュー・感想 暑苦しい連帯や自己実現をオミットした快作

『若おかみは小学生!』
 この映画を見て、グローリー水領さまにあこがれない子どもはいるのか?
 一部児童向けの大仰なノリが合わなかったこと以外ケチがつけらんない。道徳的な作風で、清貧や年の功を盲目的に肯定せず、消費や学術知識も一つの解として書いているのはポイント高し。

『リズと青い鳥』
 原作未見。
 いけ好かない女と主体性のない女が、才能の壁を知り、進学という分岐路を前にしてゆるやかに分断され、いくらかの自我に目覚めて相手を認識し、一緒に歩きそうとする話……と解釈した。まずまず面白かった。

『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』
 原作未見。
 世界観や概念設定はエヴァのバリエーションという以上の印象はない。だがしかし、例の団地を走り抜けるシーンは最高だった。あのアニメ的な嘘を混ぜながらも身体感覚に訴えかけてくる躍動感と力感と開放感ったら!


 この記事を例年やっている自薦記事十本の代わりとして、今年を締めたいと思います。それではみなさんよいお年を。
 個人的に振り返ると、今年は趣味もはかどったし、お仕事のほうも苦労の甲斐あって大きな山を越したので、来年以降はあくせくしないでやっていけそうです……。経験者が語ると、アラサーを迎えてからの気力と集中力の減衰はわりとシャレにならないレベルので、やりたい大きな企画やとりたい高難易度の資格がある人は、前倒しで取り組んでおくことをおすすめします。

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tags: 百合 
2018年12月02日

FATAL TWELVE レビュー・感想 練られたデスゲームと真摯なドラマを両立させた力作

 ものっそい力作同人百合ゲーでした。ここをご覧の百合ゲーマーにおかれましては、ぜひプレイいただいた上で感想をうかがいたいです。

「ようこそ、運命の奴隷の皆サマ――」
喫茶ライオン館のマスター代理を務める女子高生・獅子舞凛火は後輩・日辻直未との帰宅途中、突然、電車内で爆発に巻き込まれる。
直未をかばった凛火は、虚しくも命の終わりを迎えた。
だが、気付けば凛火の死はなかったかのように、いつもと変わらず喫茶店で直未たちと談笑をしていた。

数日後、凛火は夢の世界で女神・パルカと出会う。
一度迎えた死の運命は改変され、≪女神の選定≫と呼ばれる12人が12週間の間に脱落させ合うという儀式の参加者になっていたことが明らかとなった。
戸惑う凛火たっだが、選定の参加者の中に友人・未島海晴の姿を見つけ……?

必要なのは、現実世界で参加者の「氏名・死因・未練」の情報を集め、相手を「指名」することだった。

凛火自身の死の真相と未練。
彼女に命を捧げると宣言した海晴の動向。
自らが生き残るため、それぞれの手段をとる他の参加者たち。

凛火に訪れるのは、様々な想いとの直面。

そして、いくつもの生と死の果てに待つ凛火の決断とは――?

http://fatal12.com/#story



 物語の中心になっているのは、主人公である凛火たちが巻き込まれる超常の生き残り(正確に言うと生き返り)の儀式「女神の選定」なのですが、いわゆる「デスゲーム」としてよく出来ているのに加えて、ストーリー展開や人物の掘り下げとがっぷり噛み合っているんですよ。
 まず、儀式の参加者のキャラが抜群に立っています。主人公の組はもちろん、手段を問わない武闘派、油断ならない穏健派、そして序盤でドロップアウトする端役に至るまで、その人なりの信念や意地や背景を感じせます。私が特に好きなのは、名前がよすぎる凛火と、憎みきれない小悪党のフェデリーコですかね。また、相手を脱落させる条件が生前の「氏名」「死因」「未練」を暴くことなのですが、人間洞察や探り合いの情報戦が熱かったです。ある人の何気ない振る舞いや一見ギャグのような描写にヒントが隠されていて、ハッとさせられたのは一度や二度じゃありませんでした。条件の達成はカードの取得という形で可視化されていますが、カードは儀式の開始時に誰かのものがランダムで配られていて、それも駆け引きの緊張感に一役買っています。
 また、3つの条件のうち秘められた「未練」を探るのが最難関なのは言うまでもなく、必然的にシナリオもそれの解明に分量が割かれています。そこでの、相手のセンシティブな内面を知る過程で生まれる人間ドラマも熱かったですね。単なる参加者同士の蹴落としに終わらず、パーソナリティがぶつかり合って展開を作っていくさま(劇中では「交差する感情の連鎖」と表現されていた)はとにかく読ませてくれました。
 その他、デスゲームのお約束である前○の○○○りの存在や、華である○ー○○○○ーへの反抗の展開も盛り込まれています。ツボを押さえていますね。また、人間の生死が覆ることで遡及的な辻褄合わせ、運命の改変も引き起こされるのですが、それもストーリー展開に組み込まれていてよく練られているなと感心しました。かてて加えて、はらはらさせつつも真摯な恋愛劇が話の主軸にあって、百合ゲーとしても大満足な出来でした。脚本は総じて満足度が高かったです。
 シナリオ以外の要素について。ビジュアルは相変わらず美しく、塗りは前作からさらによくなっています。もちろん劇伴は全てオリジナルで、ボーカル曲も完備、今作でついにフルボイスになりました。UIやTIPSの細かい作り込みも嬉しい。あえてけちを付けるなら、画面効果やSEでの演出が若干伴っていないところが惜しかったでしょうか。特に場面転換でのフェードイン・アウトやBGMの切り替え、女神の選定の舞台や格闘シーンの演出がちょっと物足りなく感じました。ビジュアルがよいだけに……。例えば、指名の順番が廻るシーンで歯車が駆動するSEがあったら、それだけで臨場感が違うんじゃないですかね。それと、私の環境だとバックログがまともに機能しなくて「?」でした。

 制作のあいうえおカンパニーは、過去作『しずくのおと』がおそろしいクオリティだったので勝手にハードルを上げていたのですが、今作はその期待に真っ向から応える出来でした。お値段脅威の¥2500(私はSteamのセールで買ったので¥1875だった)なので、みなさんもぜひ購入してみてください。

FATAL TWELVE(フェイタルトゥエルブ)- 公式WEBサイト
FATAL TWELVE [あいうえおカンパニー] | DLsite 同人



【関連記事】
『SeaBed』『しずくのおと』 力作同人百合ゲーの紹介

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2018年10月01日

少女歌劇 レヴュースタァライト レビュー・感想 ふわふわなオブジェクティブが作劇をへたらせる

 歌劇という絢爛で高慢で嘘っぱちで真実を秘めた題材、大仕掛けの舞台設定(超常の舞台劇・バトルロイヤル・ループ)、カックイイ映像表現やキーフレーズと、小娘たちの頑是無い約束や犬も食わないじゃれあいが致命的に噛み合っておらず、観客を劇にのめり込ませるフックがない。嫌な言い方だが、「なんでぇ、イクニかい」「なんでぇ、ほむほむ(まどマギ)かい」という底の浅い決め付けを突っぱねるだけのパワーが感じられなかった。

 別にね、超常の奪い合いゲーム(レヴュー)とそのゲームマスター(キリン)に理屈付けやバックボーンが無くてもいいんだよ。舞台はあくまで舞台であって、そこで誰が何のためにどうやってどうするかで作品の面白さが決まるわけだからね。だけど、戦いに挑まんとする人間の想いは真に迫っていないと駄目だし、勝ち取らんとするものは善悪はさておき共感を喚ぶものでないと駄目だろうよ。同様に、映像表現が現実の事象に即している必要は一切ないし、むしろ現実を侵食していても一向に構わないんだよ。だけど、それで発露される情動や象徴性は作風や作劇やキャラクターに結びついていないと駄目だろう。
 まず、主人公の華恋とその変身バンクシーンについて。「ワタシ、再生産」って言うけど、あんたは炉にくべられて生まれ変わらなきゃならんくらいのちゃらんぽらんな毎日を送ってたの? 幼馴染との約束は「色褪せた約束」になっちゃってたの? その割には演劇の名門校にちゃっかり入っていて、思い出の髪留めを大事に付けていてよくわからんのだけど。歌劇という主題から、日常の平凡な自分からの変身願望を表しているのかとも思ったが、いずれにしろキャラの性質に噛み合っておらず、映像先行で宙ぶらりんになっているように感じた。あと、幼なじみのひかりもそうだけど「トップスタァ」になるっつったって、いったい全体何をもってそれが定義されるんだ? あの学校の首席になること? ゲームで序列一位を勝ち取ること? 将来大女優になること? 彼女らにとって「スタァ」が何だったのかはエンディングの直前も直前になって明かされるが、そこに至るまでオブジェクティブがふわっふわなのは作劇としてどうなんだよ。この物語が序盤から最終盤に掛けて訴求力に欠けているのは、この構造的な欠陥に起因しているとしか思えない。小さい頃の友だちとの約束、という頑是無い動機が、歓喜や欲望や愛憎や栄枯や虚実が入り乱れる歌劇という舞台に出し負けている。
 他のメンバーについても、中坊のときに所属していた演劇部が廃部になってさびしかったってのはまだわかるけど、それで本当に周囲の人間を巻き込んでループ時空に閉じ込める狂気に至ってしまうのかい? 相棒に対するかまっちょや行き過ぎた嫉妬心が、自らの歌劇少女としての命を賭けて、他人を蹴落とすゲームに参加する動機たり得るのかい? そういった疑問や違和感がひたすら物語への没入を妨げていた。

 いつもの感想と逆の構成で、あえてよかった探しをしてみよう。純那は舞台や歌劇に対する憧れや渇望がストレートに書かれていて、物語途中でも比較的感情移入しやすかった。それと、アラレちゃんメガネを付けたまま舞台に上がって立ち回りを演じているのは格好良かったね。メガネってよく未成熟とか内向のシンボルに使われちゃうんで。憑き物が落ちたばななとの会話もよかったな。あと、ペアの中では真矢とクロディーヌの組がわりと好きだった。私のTLでも人気だったのはこの二人だ。何より自分のトレーニングやパフォーマンスに自信と自負とを持っているのがよいし、京都組へそれぞれ協力するところは群像劇としての面白さもあった。そいで口説き文句の「泣き顔も可愛いですよ、私のクロディーヌ」、あれはよかった! ちょいとサディスティックで独占欲を匂わせていて、何とも言えず官能的だった。そんなところかな。 
 本筋から外れるが、私のように集中力が欠けていて、アニメをあまり見ない層の人間を引き込むには、早い話数で(できれば第一話の中で)作品のエッセンスを提示できないと厳しいなと思った。その辺、最近見た作品だと『プリンセス・プリンシパル』『ゆるキャン△』はうまくやっていたかな。

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