2013年06月25日

松実玄の槓ドラ支配&リーチについて便乗 燃えよドラゴンロード

松実玄の支配は裏ドラまで届くのか(Cat in the box,ミスタさん)
松実玄がリーチをかけられない,もう1つの理由(Danas je lep dan.,Mukkeさん)
【考察】松実玄は裏ドラを支配しているのか?について考えてみる(麻雀雑記あれこれ,しののぬさん)
松実玄は裏ドラにまで能力を及ぼしているのか議論について(nix in desertis,DG-Lawさん)

 最近玄のドラ支配に関する議論が熱いですが、私も便乗して資料提供です。さりげなくアニメ『阿知賀編』の第1エンディング「Square Panic Serenade」で、憧がカンをすることで玄の手牌が大炎上する、という今回の議題にどストライクなシーンがあります。

玄のツモ
五六六六  
索索索索  萬

 玄の手に背の色が濃い牌が混じっていますが、ツモってきた赤ドラも色違いなので、おそらく「ドラ」を意味しているんじゃないでしょうか。この時点で色違いの牌は合計6枚です。

玄のツモ
五六六六五  六
索索索索萬  索

 ここで気になるのが、この時点ではドラではない六索が色違いだということです。何とも意味深ですね。色違いの牌は7枚に増えています。これは潜在的なドラ7、ということを表しているのでしょうか?

 そして憧がカン、新ドラは玄が既に4枚抱えていた六索! 大炎上! という流れです。ちなみに、燃えさかっている間も色違いの牌の数は変わっていません。この描写は潜在的だったドラ7が確定して「あれも切れないこれも切れない、全然手が出来ない、どうしよう!」という玄のパニックのイメージでしょうか。
 う~む、ここだけ見ると

「玄本人,もしくは他家が槓子を作れるかどうかは局開始時に予め決まっており,その場合にのみ玄の槓ドラに対する支配(独占)は発揮される」

http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/52137018.html


 が合っているように見えますね。アニメの、それもギャグチックなEDアニメーションの描写なので、確かな資料として使えるかどうかは怪しいのですが。

 玄のリーチに関して一言二言。私は玄が自分の意志で「掛けない」、掛けた時点でドラゴンロードの加護は失われる説を支持しています。やはりドラローの強力無比な支配力は「ドラを絶対に捨てない、捨てかねない行動は取らない」という(無意識の)誓いを守っていることで生まれていると思いますし、ドラで手が縮こまってパニックになるほどドラ切りを恐れている玄が(そこに亡き母親への思いがあるのは何度か語ってきた通り)、裏ドラにしろカンドラにしろ、万が一にでもドラを捨てる可能性がある手は打たないだろう、という考えです。いきおい、玄が準決勝先鋒戦オーラスでリーチを掛けたのは、彼女が「別れ」を乗り越えるという決死の覚悟を決めていたことの証明なのだと思います。

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2013年06月23日

結局フェアリーはタイプ一致以外では使いづらそう

 ポケットモンスター第六世代『ポケモンX・Y』で新タイプ「フェアリー」が追加されるらしい。新しいタイプの追加+既存ポケモンのタイプ変更は実に13年ぶりなのか。リーク情報によるとフェアリーはドラゴンやあくやかくとうにばつぐんで、ほのおやエスパーに今ひとつ、弱点はどくやはがねで耐性はドラゴン(無効? 半減?)など、らしい。メジャータイプのドラゴン・かくとう下げ、不遇のどく上げ調整なのだろうが(あくは見放されたのか……?)、同じドラゴン対策でもばつぐんの取りやすさではこおりの方が上なので、他のタイプがフェアリーをサブウェポンに持つことはあまりなさそうだな。……いやしかし、かくとうにばつぐんを取れるのはなかなか魅力だな……。とりあえずぞうきんことマリルリは試験的に増えるのは間違いない。フェアリータイプ物理技の威力次第だけど、等倍の範囲が相当広いからなぁ。単タイプは全て等倍が取れる。ついでに水物理の高火力技追加も期待しちゃうぞ。私のシザリガーくんもほしがっているんだ。
 あ、うちのサイトで初めて、一つの記事に対してコメント数が100個以上付いたんだけど、それが百合関連でもアカイイト関連でも咲-Saki-関連でもKey関連でもなく、ポケモン関連の記事だった。何のサイトなんだうちは。
ポケットモンスター第6世代に期待すること 対戦環境の改善要望

「じゅんこ【醇乎・純乎】」 の意味とは - Yahoo!辞書 「じゅんこ【醇乎・純乎】」 の意味とは - Yahoo!辞書

心情・行動などが、まじりけがなく純粋なさま。



龍門淵透華と「治水」と龍神様 - 私的素敵ジャンク 龍門淵透華と「治水」と龍神様 - 私的素敵ジャンク
 冷やしとーかや姫様のような神降ろし+オートモード型がこれからどういった扱いになるのか気になるところ。のどっちについても。伝奇的な意味合いについても後でちょっと書くかも。

憧の体温はあったかい?――高鴨穏乃の平熱と,新子憧の温度 - Danas je lep dan. 憧の体温はあったかい?――高鴨穏乃の平熱と,新子憧の温度 - Danas je lep dan.
 評論に勝ったも負けたもないが、読んだ瞬間「負けた」と思った記事。私のはちと二極化して考えすぎた。しずと憧が二人いて熱くて楽しいというのは完全に同意。

作中の矛盾点 : うみねこのなく頃に まとめWiki 作中の矛盾点 : うみねこのなく頃に まとめWiki

「親父を、お袋を、そして縁寿を。(略)お前はあれだけ弄んで殺した…!! その非道を、俺は絶対に忘れない、許さない!」と言っていたのにベアト介護しているのが意味不明。


 エロゲーについてはやっと『うみねこ』を最後まで読み終わった。「Whyを大事にするミステリー」とは一体何だったのか?


 WIFI対戦でここまで露骨な改造が出来ることに驚いた。


 赤すこにケリを付けてくれてほっとした連載当時/私もリザベには言いたいことがあるんだが「課金アイテムwww」ってコメントはちょっと……にこにこどうがにまじになっちゃってどうするのだけど。


 不覚にもマホが咲の手を見たときの「なんなんですかあれ?」で爆笑。


 あがちの人がデレた!? そしてあのモザイクにやさしさを感じた。

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2013年06月15日

『咲-Saki-』能力バトル解説 制約と誓約、ロジックとカタルシス

 前回の記事「『咲-Saki-』と『ジョジョの奇妙な冒険』 能力バトルとパーソナリティ」で、能力バトル漫画としての『咲-Saki-』が持つ魅力の核となる部分については書くことが出来たと思う。しかし、細部についてはまだまだ語るべきことがある。この作品を同様の視点から論じたレビューは、既に咲-Saki-勢の精鋭によって素晴らしい出来のものが書き上げられているが、ネタ被りを恐れずにガンガン書いてみようと思う。

制約と誓約
 今回は比較対象として冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』を取り上げる。『ハンタ』は言わずと知れた能力バトル漫画の傑作だ。この作品では異能力を「念」という概念で系統づけているが、そのルールの一つに「制約と誓約」というものがある。

「制約と誓約だ」

「制約と誓約…!」
「制約(ルール)を決めてそれを心に誓うんだ
 『遵守する』と
 その制約が厳しい程 使う技は爆発的な威力を発揮する!!
 麻雀やポーカーと同じさ 条件が難しい役ほど点数が高いだろ?
 普段の念能力の補強が足し算なら条件付きの念の奥義は掛け算だ
 強さが何倍にもふくれあがる
 その鎖に制約(ルール)をつくれ お前の覚悟で守れる範囲のな
 ただし言っとくがこれは『安定』とは正反対の大技 諸刃の剣だ
 もし誓約を破れば反動で念能力そのものを失う危険があることを忘れるな」

(『HUNTER×HUNTER』)


 麻雀の役が喩えに使われていてちょうどよかった!
 まずはこの漫画の主人公、ゴン=フリークスの発(ありていに言えば必殺技のこと)である「ジャジャン拳」を例に挙げよう。この技はまず「最初はグー!(First comes rock..)」と大声で叫びつつ、右手の拳を左手で覆うようなタメの動作を行い、それからグー(オーラを纏った打撃)、チー(オーラを変化させた斬撃)、パー(オーラを飛ばす遠距離弾)を繰り出さなければならない。無論、あえて隙を作るようなことをせず、無言で相手に殴りかかった方が容易なのは言うまでもない。しかし、そうして自らがルールを課したリスクを背負い、自分なりのロジックを組み立てることによって、リターンの破壊力が生まれるのである。念は読んで字のごとく、術者の「一念」「気の持ちよう」で威力が大きく左右されるのだ。ゴンの場合は、最も得意としている強化系の「グー」は格上の相手(レイザー、ゲンスルー)を怖じ気づかせるほどの威力を込められるようになり、苦手としている変化系の「チー」も強靱な外殻を持つ相手(キメラ・アント)を裁断する程度の威力に底上げされる。瞬間的な爆発力が高い割に制約がそれほど厳しくないので(言うまでもなく「ゴンさん」は除く)、様々なシチュエーションで多種多様な相手と戦うことになる主人公に向いた能力だ。
 対して、ゴンの仲間の一人であるクラピカが課した「制約と誓約」はあまりにも重い。クラピカの発である「束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)」は、その名の通りに具現化した念の鎖で相手を拘束する能力だ。鎖そのものに尋常ならざるパワーが込められている上に(軽く振るっただけで地面に大穴を空けるほど)、縛った相手を強制的に絶(念のオーラが全く出ていない無防備状態)にする特殊能力を付加している。この能力を劇中で初めて食らったのが、クラピカの仇敵である幻影旅団――クラピカを除くクルタ族を皆殺しにした盗賊団で、彼は旅団を壊滅させるためにハンターになった――の一人、ウボォーギンだ。奴は作中の強化系能力者の中でも上位に入る実力者で、その圧倒的なパワーは念を込めたパンチで地面にクレーターを作るほどなのだが、それでも「チェーンジェイル」を引きちぎることは出来なかった。当時のクラピカは念を習得して日が浅く、百戦錬磨のウボォーギンとはオーラの総量でも練度でも圧倒的な差があった。しかし、「制約と誓約」は使い方次第でその余りある戦力差すら覆してしまうのだ。クラピカはもう一つの能力である「律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)」の刃を自らの心臓に埋め込んで「旅団のメンバー以外にチェーンジェイルを使用しない。命を賭ける」という「誓約」を立てている。この誓いが誤ってでも破られた瞬間、念の刃が術者本人のクラピカを殺すようにプログラムされている。こうして能力の対象を限定し、極限といっていいほどのリスクを背負うことで、鎖の強度は桁違いに強化され、相手の念を使用不可にするという理不尽を押し通すほどのパワーが生まれるのだ。

「鎖がいい」

「鎖…?」
「ああ 具現化系と聞いた時 最初に頭に浮かんだものだ」
「鎖ねェ… 何でだろうな」
「冥府に繋いでおかねばならないような連中がこの世で野放しになっているからだろう」
「そうかねェ?
 俺は縛られているのはむしろお前自身のような気がするがね」

(『HUNTER×HUNTER』)


(冨樫節はすがすがしいほどの中二病でゾクゾクするぜ)
 師匠が言うように、「鎖」の能力というのは何とも象徴的だ。常軌を逸した「制約と誓約」から生まれる「チェーンジェイル」の強靱さからは、クラピカのクルタ族の血を誇りに思う気高さや、殺された仲間に対する思いの強さ、自らに課した使命を全うしようとする強い意志の力が感じられる一方で、旅団に対する復讐に傾倒し、使命で自らを雁字搦めにしている彼の危うさがひしひしと伝わってくる。
 また、クラピカの能力は対象を極度に限定しているので、代償として汎用性が著しく失われている。作者にとっても非常に扱いづらい。じっさい、幻影旅団が話の中心にいるヨークシンシティ編が終わってからは、クラピカは半ばリタイアしているような状態である。彼の「狭くて強い」能力は準主役だからこそのものだと言える。

 前回に引き続いて『ジョジョの奇妙な冒険』からも好例を紹介しよう。まず、強力なパワーを持つスタンドほど射程距離が短い、本体から遠くまで行けるスタンドはパワーが控えめ、というスタンドの基本ルールが「制約」の一種だろう。冨樫は『幽々白書』で既に「領域(テリトリー)」という射程距離の概念がある異能力を取り入れていたが、あれは何とも練り込み不足で見切り発車感が漂っていた。それに比べて念能力はスタンド能力の魅力を正しく把握し、一部を改良することで綺麗に差別化が出来ていると思う。さて、今回は第4部「ダイヤモンドは砕けない」における、東方仗助のスタンド「クレイジー・ダイヤモンド」とエニグマの少年(宮本輝之輔)のスタンド「エニグマ」の戦いを解説してみんとす。
 仗助のスタンド「クレイジー・ダイヤモンド」はオーソドックスな近距離パワー型だ。射程距離は2メートルほどしかないがその分スタンドパワーは凄まじく、ドラララのラッシュは歴代スタンドの中でも屈指の破壊力である。この基本性能に加えて、手で触れた物をある時点まで「直す」「戻す」という特殊能力を持っている。何より負傷した仲間を健康な状態に戻す治癒能力として使えるのが大きい。かてて加えて、地面を殴って宙に浮かせた石畳を空中で直してシールドを作ったり(対吉良吉影&キラークイーン&猫草戦)、敵に吹っ飛ばされてフォークリフトのタイヤをぶち破った後に相手の「電気」スタンドに被さるように直してパワーを奪ったり(対音石明&レッド・ホット・チリ・ペッパー戦)、敵が飛ばしてくる反射エネルギー弾を拳で防御して、斜線上に相手を誘導した上で弾を元の位置に戻して巻き込んだり(対鋼田一豊大&スーパーフライ戦)と、少しひねった使い方も出来る。シンプルな格闘戦もこなせる上に、能力の応用次第で多様な攻撃と防御を行える。主人公のスタンドにふさわしい汎用性だ。敵である吉良ですら「先の読めない『スタンド』」と評価している。
 対するエニグマの少年(宮本輝之輔)のスタンド能力はかなり特殊なタイプだ。劇中での描写を見る限りではスタンド像自体に殴ったり蹴ったりするパワーはなさそうである。加えて特殊能力の発動条件も、手で触れるだけでよい「クレイジー・D」や「スティッキー・フィンガーズ」などと比べるとかなり複雑だ。相手をつぶさに観察して恐怖のサイン(恐怖を感じた際に意識せず行う「クセ」のこと)を発見し、相手を動揺させて再びサインを出させることで、ようやっと発動条件が満たされる。しかし、一度でも条件を満たしたら、相手を有無を言わせぬパワー(少年いわく「絶対無敵の攻撃」らしい)で「紙」に閉じ込めることが出来る。彼のスタンドはスタンド像のパワーやスピード、ユーザビリティを犠牲にして、その対価として強力無比な能力を得ているタイプなのだ。「エニグマ」に紙にされた相手は誰かがそれを開くまで完全に行動不能になるので、後は煮るなり焼くなり、紙を破いて直ちに始末してもいいし、安全な人質として次の相手を動揺させるのに利用してもいい。様々な意味で、単純にパワー押ししてくるスタンドより恐ろしい。その異常な発動条件と相手を無力化して閉じ込める能力からは、少年の偏執的でねじ曲がった性癖、どす黒い邪悪さが伝わってきて、彼の不気味さをいっそう引き立てている。
 さて、仗助の前に姿を現した少年は、予め襲って紙にしていた、仗助の親友である康一くんを人質に取って揺さぶりを掛け、最終的に恐怖のサインを取らせることに成功する。同時に仗助の背後に現れる「エニグマ」のスタンド像。仗助は咄嗟に「クレイジー・D」で反撃を試みるも「エニグマ」に触れたはずの拳には手応えが無く、一方的に紙へと押し込められていく。しかし、仗助は一瞬の判断で道路のポールを引きちぎり、握っている断片を元の位置へと「直す」ことで、エニグマの紙に押し込むパワーに対抗する。ここで紙の平面から浮上してきた仗助が少年に切る啖呵が最高に格好良いのだが、最終的には「エニグマ」のパワーが勝り、仗助は紙に閉じ込められてしまう。この後に滾るほど熱い展開が待ち受けているのだが、そいつはぜひ単行本(JC43巻)を読んで確認していただきたい。
 このシーンにおける構図は分かりやすくて好きだ。まずは仗助が能力の特質を利用して相手のパワーに対抗しているのが素晴らしい。何度か書いてきたことだが、能力バトルの面白さの一つは限られた手持ちの武器で相手を合理的に打ち負かす美しさにあると思う。そして、一次的にでも「エニグマ」の紙に閉じ込めるパワーが「クレイジー・D」を上回ったという結果も、心情的には許せないが理屈は通っていると思う。一つのスタンドに与えられたリソースの量(『ハンタ』で言えば「メモリ」)が等しいとして――実際は「ザ・ワールド」や「ウェザー・リポート」のようにパワーも射程距離も特殊能力も規格外なスタンドがいるのだが――人型のスタンドヴィジョンそのものに攻撃力やスピードを持たせている「クレイジー・D」の、手で触れることで発動する能力のパワーが、特殊能力だけに特化していて、相手を観察して恐怖のサインを見つけた上でそれを取らせるという条件をクリアすることで発動する「エニグマ」にパワー負けするのは理に適っている(腹は立つが)。
 ここからは完全に余談だが、最後に少年の能力を上回ったのが仗助の「信念」(に動かされた○○)というのも実に『ジョジョ』らしくて素晴らしい。

ロジックとカタルシス
 今回『咲-Saki-』で解説するのは『阿知賀編』Aブロック準決勝次鋒戦における松実有と弘世菫の攻防だ。菫さんの能力「(白糸台の)シャープシューター」は、特定の相手に狙いを定めて、出てくるであろう不要牌に待ちを寄せていき(そのように出来るツモが繰り返されるのがオカルトだろう)、直撃(ロン)を食らわせる能力だ。さて、見過ごされがちだが、この能力の特筆すべき点は相手をオリさせる強制力だろう。相手からすれば、自分のあぶれた牌を狙い撃たれるのは非常に苦しい。シャープシュートの射線から確実に逃れるためには不要牌以外を切らなければならない。手が綺麗にまとまっていようとそれを崩すしかないわけだ。私は麻雀に関してはずぶの素人だが、たとえ一手だろうと上がりから遠ざかるような牌を切らされるのがもの凄くしんどいことなのは分かる。菫さんからすれば、相手からロンできなくとも、強制的に必要牌を切らせるだけで狙い打ちの妨害としては充分なのである。
 そんな強力な能力を持つ菫さんを出し抜いたのが、我らが阿知賀女子の次鋒である宥お姉ちゃんだ。この試合において、宥姉はシャープシュートの第一射を二度に渡ってかわしている。これはレジェンドこと顧問の赤土晴絵が、卓越した観察眼で菫さんが能力を発動する際のクセを見つけていたおかげだろう。極論、宥姉以外のメンバーでも、クセに注意を払っていれば放銃を回避することができたと思う。宥姉の本領が発揮されるのは射撃をかわしたあと、手が崩されたあとである。麻雀漫画、それも『咲-Saki-』のような外連味溢れる麻雀漫画を読んでいると感覚が麻痺してくるが、本来、一度和了から遠ざかった上での張り替えは簡単にできるものではない。そうでなくとも菫さんの第二射、第三射を警戒しないといけないのだ。そんな高難易度の手順を複数回に渡って可能にするのが宥姉の能力「あったか~い(仮称)」である。宥姉は真夏にマフラーを巻くほどの寒がり体質なのだが、それが影響しているのか、手に赤い(ったかい、あるいは暖色)塗料が使われている牌が偏って集まってくるのだ。そのおかげで牌効率が無能力者より若干よくなっている。無論、牌が偏ることでメリットだけでなくデメリットもあるのだが、それについては下記記事が丁寧に解説してくれている。
松実宥とは (マツミユウとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
宥姉の暖かい牌を集める能力はどれくらい強いのか?: 麻雀アニメ&麻雀ゲームあれこれ

 さて、全国大会準決勝での宥姉の勇姿をプレイバックしよう。

前半戦 南二局
親:宥 ドラ四萬

宥のツモ
四五五六六七 六六七 五七九九  六
萬萬萬萬萬萬 筒筒筒 索索索索  索

四五五六六七 六六七 五六七九  九
萬萬萬萬萬萬 筒筒筒 索索索索  

 宥姉は晴絵に教わっていた菫さんのクセから、自分に弓が向けられていることを察知している。六筒を切れば両面待ちのテンパイに取れるが、代わりに頭にできる九索を切る。

菫の手牌
四四四 四四四五七 二三四四四
萬萬萬 筒筒筒筒筒 索索索索索

 菫さんは五筒・七筒のカンチャンで六筒をピンポイントに狙っていたので、まっすぐ和了に向かっていたら振り込んでいたわけだ。タンヤオ三色ドラ3か。さて、シャープシュートを回避してからの宥姉のツモが凄い。

宥のツモ
四五五六七七 六六七 五六七九  六
萬萬萬萬萬萬 筒筒筒 索索索索  

四五五六七七 六六六七 五六七  九
萬萬萬萬萬萬 筒筒筒筒 索索索  

 次順、「あったか~い」の対象牌である六筒を絶好の箇所にたぐり寄せる。あったかいアンコーが完成し、九索を切って五七八筒待ちのテンパイに取る。う~む、華麗すぎる張り替えだ。菫さんは次順、宥姉を狙い打つために残していた七筒を手放して、逆に宥姉に12000点振り込むことになる。


前半戦 南二局一本場
親:宥 ドラ不明

宥のツモ
六八 六七七八八九 五五六七九  七
萬萬 筒筒筒筒筒筒 索索索索索  

六七八 六七七八八九 五六七九  五
萬萬萬 筒筒筒筒筒筒 索索索索  

 宥姉は再度菫さんに狙われている。この順目で喉から手が出るほど欲しいところにあったかい牌をツモってくる。手拍子で九索を出しそうになるが、晴絵のアドバイスを思い出してすんでの所で止める。代わりに五索を切ることで、二度目のシャープシュートも回避する。

宥のツモ
六七八 六七七八八九 五六七九  八
萬萬萬 筒筒筒筒筒筒 索索索索  索

六七八 六七七八八九 六七八九  五
萬萬萬 筒筒筒筒筒筒 索索索索  

 既に引き寄せていた五索を連打して防御。

宥のツモ
六七八 六七七八八九 六七八九  九
萬萬萬 筒筒筒筒筒筒 索索索索  

 これにて和了り。恐ろしい鬼ヅモである。……ひょっとして宥姉の待ちは、菫さんが自分の余剰牌だった九索を単騎待ちしていたという推測のもと、やがて切るであろうそれを狙い打っていたのだろうか? そうだとしたらハンターに襲いかかる肉食系お姉ちゃんかっこいい。

 ご覧のように、宥姉の勝負所における9手のうち7手にあったかい牌が関わっていたわけだ。こうしてみると、菫さんの射抜きをかわした直後に和了に向かい、あまつさえ相手に逆ねじを食らわせるなどという芸当は、宥姉の特異体質があればこそ出来たのがわかる。阿知賀女子の他のメンバーはおろか、全国津々浦々を探しても、菫さんを相手にこれほどフレキシブルかつ芸術的な反撃が出来る選手はそういないだろう。全国ランキング一位校の二番手から直取りした12000点、チームにとっては24000点分のプラスになったあの一撃は、晴絵の観察眼と宥姉の天性の合わせ技一本といったところだ。
 メタフィジカルな解説になるが、手を崩された直後に絶好の有効牌を引っ張ってくるのは、「流れ」や「強者の運」といった言葉で説明できずともない。しかし、りつべは宥姉の立ち回りに、詳細を事前に明かしている能力を絡ませることで「話の都合」「展開の都合」「主人公補正」に収斂されない強固な説得力を組み立てているわけだ。早く言えば
「菫さんは相手の手を崩させる。でも宥姉は強者だから関係なくまたテンパる!」
 というロジックと
「菫さんは相手の手を崩させる。でも宥姉なら『あったか~い』の牌効率ブーストでそこから和了を目指せる!」
 というロジックのどちらにより説得力があるか、ということだ。
 その人物固有の能力を攻撃と防御の両方で積極的に使わせることで、バトルに臨場感とカタルシスが生まれ、能力はより魅力的に映る。これは能力バトルの黄金パターンだと思う。また、既に能力を明かしている能力者が、連戦に次ぐ連戦の中で読者が想像もしなかった応用を見せたときは、質の良いミステリーを読んだときのような満足感がある。あれだよ、『NEEDLESS』で、アルカが熱のフラグメント「アグニッシュ・ワッタス」で、ソルヴァの能力である「マグネティックワールド」の磁力を、高温で磁石の分子配列を狂わせることで無効化しただろう? 私はああいうのが大好きなんだよ。あれだよ、『鋼の錬金術師』のロイとラストの戦闘で、出血多量でリタイアしたかに見えたロイが傷口を焼くことで塞いで戦線復帰し、最後はライターの着火石から次々と焔で生んでラストを殺しきっただろう? 私はああいうのが大好きなんだよ。あれだよ、『ストーンオーシャン』の終盤、プッチ神父の重力スタンド「C-MOON」と徐倫の糸のスタンド「ストーンフリー」の対決で、徐倫が垂直に落下していくアナスイを糸のロープで救出しつつその先を輪にして「C-MOON」の首に掛け、アナスイの体重を掛けることで拘束したり、触れたものを内面から「裏返らせる」攻撃を、糸の束で裏も表もない「メビウスの輪」を形作ることで無効化したりしただろう? 私はああいうのが大好きなんだよ。あれだよ、『咲-Saki-』の県予選決勝大将戦で、我らが咲さんが山を支配して相手をイーシャンテンに留める「イーシャンテン地獄」とテンパイ気配を察知する能力を持つ衣を倒すべく、カンドラを増やし、池田の手を高くして囮にしたり、衣の支配の及ばないリンシャン牌を「カン、カン、もいっこカン」で立て続けにドローして和了ったり、衣の捨てた一筒をダイミンカンして責任払いの32000点を喰らわせたりと、カンと嶺上開花の能力を駆使してあらん限りの暴虐を尽くしただろう? 私はああいうのが大好きなんだよ。
宮永咲の「嶺に咲く花(仮)」は能力バトル漫画の主人公にふさわしい能力だ

 『咲-Saki-』の「軽くて汎用性がある」能力者の代表が宥姉なら、「重い代わりに強い」能力者の代表は彼女の妹である松実玄だろう。玄の能力である「阿知賀のドラゴンロード」は名前の通り「ドラ」にのみ作用する。それを完全に支配して、自分の手に全て集めるという絶大な効果である。その支配力は凄まじく、劇中では並み居る怪物を相手にして一度たりとも破られていない(「深山幽谷の化身」の穏乃にその可能性があることは示唆されているが)。その強さの代償なのか、この能力にはドラを一度でも切ったらしばらくの間一枚たりともそれが来なくなるという重い制約が存在する。対して宥姉の能力は対象になる牌が多く(34種中20種)、厳格な縛りが無い代わりに支配力もまずまずだ。さむ~い牌もそれなりの頻度でツモっているし、あったかい牌を切っても特にペナルティはない(それどころか防御に活用している)。瞬間的な爆発力では玄の後塵を拝するが、安定度は比べものにならないほど高い。それでいて攻めに出ればそれなりの攻撃力がある。先鋒の出来を見てから、攻めと守りのどちらに重点を割くか決めることが可能だ。阿知賀の先鋒である玄は何かと安定しないので、次鋒はプレイングの幅が広い宥姉がうってつけなのだろう。
 前回の記事でも書いたことだが、「阿知賀のドラゴンロード」の強力な支配力とそれに比例するかのような制約の重さ、そして玄が能力任せのプレイが通じない強者を前にしてもドラを切れず「またみんなに迷惑をかけちゃうのかな……」とうろたえる様子からは、彼女が母親の死をまだ振り切れていないことや、阿知賀女子麻雀部という居場所に対する依存度の高さが伺えて、無性に胸が苦しくなる。上の項で語ったとおり、クラピカの「チェーンジェイル」の強さからは、彼のあまりにも厳格すぎる性質や悲しい宿命が伝わってきて心が痛くなる。私の個人的な好みだが、どちらかというとパワープレイ寄りになる「狭くて強い」能力より、変幻自在の戦いで魅せてくれる「広くて緩い」能力の戦いの方が見ていてわくわくする。しかし、前者はその制約の重さや融通の利かないところが本人の人間性や境遇に結びつき、果てはドラマツルギーへと昇華された際には、途方もない度合いの感情移入を生むと思う。

「他人を負かすのってのは
 そんな難しい事じゃあないんだ……
 もっとも『難しい事』は!
 いいかい! もっとも『難しい事』は!
 『自分を乗り越える事』さ!
 ぼくは自分の『運』をこれから乗り越える!!」

(『ジョジョの奇妙な冒険』岸部露伴)


 玄が準決勝先鋒戦のオーラスでドラを切るシーンはその最も優れた成功例だと思う。照の相手の性質を見抜く能力「照魔境」を逆手に取り、振り込みを回避してリーチの直撃を喰らわせたので、見事な頭脳プレイとも言えるだろう。しかし、それ以上に、玄がさまざまな「別れ」を経験してきた阿知賀女子の仲間たちに思いを馳せ、プレイングにおいても心情的にも拠り所にしてきた能力に「一旦お別れ」を告げたことが読者の胸を打つのである。あの途方もない感動は、玄がただただ「待つ身」であった自分自身の限界を乗り越えて、プレイヤーとしては元より、一人の人間としても大きく成長したからこそ湧いてくるものだろう。また、私は続く「帰ってこなくても、私は待ってる」という力強い宣言にもいたく心を動かされた。玄が感情を押し殺したのではなく、別れの辛さを受け入れても本質のところでは何も変わっていないこと、彼女の誇るべきパーソナリティー……仲間や家族を思い続けるやさしさ、意志の強さは何ら失われていないことが伝わってきたからだろう。
 クラピカもいずれは自らを縛る「鎖」の能力に決着を付けるのだろうか? 彼の落としどころは非常に気になっているのだが『HUNTER×HUNTER』の連載はいつになったら再開するのだ。

まとめ
 能力バトル漫画には大別して「軽くて広い」能力と「重くて強い」能力が存在し、名作と称される作品は総じてその二つを魅力的に描き分けている。その観点において『咲-Saki-』は『ジョジョの奇妙な冒険』『HUNTER×HUNTER』などに比肩すると私は思っている。りつべこと小林立の麻雀(闘牌から古役の知識まで)や伝奇(名前の遊びからオカルト能力まで)に対する造詣の深さはよく知られるところだが、能力バトル漫画の王道をしっかりと踏襲していることも評価されてほしい。

4757517823咲ーSakiー 1 (ヤングガンガンコミックス)
小林 立
スクウェア・エニックス 2006-12-25

by G-Tools

4088725719HUNTER×HUNTER 1 (ジャンプ・コミックス)
冨樫 義博
集英社 1998-06-04

by G-Tools

2013年06月12日

宮永咲の「嶺に咲く花(仮)」は能力バトル漫画の主人公にふさわしい能力だ

 すっげーモンスター(New!)咲さんかわいい! 長かった全国大会Bブロック二回戦もついに決着が付いたが、大将戦における咲さんこと宮永咲の能力「嶺に咲く花」(私が勝手に名付けた)は相変わらずの美しさだった。

「リンシャンカイホー?」
「麻雀の役の名前だよ
 『山の上で花が咲く』って意味なんだ」
「咲く?」

「おんなじだ! 私の名前と!!」

「そうだね 咲
 森林限界を超えた高い山の上 そこに花が咲くこともある
 おまえもその花のように―― 強く――」

(第1局「対立」)


(やっぱり原村さんはすごい! よーし…)
私も―――

「カン」
「!!」

(そう―――)
私も嶺に咲く花のように―――

(第1局「対立」)


 ここだけの話、咲さん本人は何を考えているんだかよくわからなくてちょっと苦手なのだが、能力の美しさには思わず感嘆の溜め息が漏れる。私はなんだかんだで咲さんの華麗な立ち回りがなかったら『咲-Saki-』をここまで評価していないと思う。能力バトル漫画の面白さの一つは、持ちうる能力を使って如何に敵を出し抜くかにあると思うが、咲さんはカン材を集めてカンをし、嶺上開花で和了する能力で実に多彩なプレイングを魅せてくれる。ざっと思い出しただけでも、劇中でこれだけの芸当をやってのけていた。

追加ドローが出来るので
1.テンパイが早い相手や一方的にテンパイする相手に追いつく(衣や霞さんに)
嶺上牌をドローするので
2.山を支配する能力の及ばない牌を取得する(衣や霞さんに)
ツモ順をずらして
3.支援したい他家に有効牌を掴ませる(メゲている末原さんに)
リーチ時にも発動できるので
4.掴まされた当たり牌を処分して追っかけリーチを一蹴する(豊音の先負に)
槍槓されるのを逆利用して
5.振り込みたいのに役なしの相手に無理矢理役を作る(すかんぴんの池田に)
符が高くなるので
6.4500点(70符2翻)のような特殊な点数を狙える(プラマイゼロ狙い)
嶺上牌でカン材を引く限り何度でも発動できるので
7.安いイーシャンテンから爆発的に手を高めて奇襲する(感覚頼りの衣に)
カンドラを増やすことで
8.他家の手を高くして囮にする(感覚頼りの衣に)

 もはや芸術の域に到達している。攻撃(1,2,7)に始まり防御(4)から補助(3,5,8)まで、カンと嶺上開花を使ってやりもやったりである。末原先輩でなくとも「やりたい放題やないか!」と言いたくなる。この漫画を読んで初めて、カンという所作でどれだけのことが出来るのか気付かされた人も多いのではないだろうか。実際に自分が使いこなせるかどうかはさておき……。
 また、ここで注目してほしいのは、上に挙げた咲さんの応用スキルのほとんどが、彼女と同じオカルト能力者が相手だからこそ成立している点だ。1と2は衣の「一向聴地獄」や霞さんの強制絶一門といった場を支配する能力があるから活きる。7と8は魔物の基本スキルである、おおよその手の高さを察知する能力を逆手に取ることで奇襲になる。また6については咲さんのもう一つの能力(詳しくは後述する)があって初めて真価を発揮する。咲さんの異能は天江衣、姉帯豊音、石戸霞といった悪鬼羅刹の魑魅魍魎どもがいるからこそ際だって輝くのだ。「嶺に咲く花」は、その名の通り山が高ければ高いほど強く美しい花が咲くのである。
 個人的に、Bブロックの二回戦は総合的に見て長野県予選決勝ほどの完成度はなかったと思うが、咲さんが豊音の先負で当たり牌を掴まされてからの流れが美しすぎてぐうの音も出なくなってしまった。

ハッ
(王牌――…!?)

チャッ コッ

「やった! 豊音の和了り牌!」
「うん でも槓材でもあるよね…」
「え」

パラ

「もいっこカン!」オオ

「……っ」
「さっきの嶺上牌も筒子ではなかった
 つまりそこが今の石戸霞の弱点――」

ドッ
「トヨネの先負も無効化せずに受けきっている………
 これが天江衣を倒した清澄の大将――」

「ツモっ 嶺上開花!」
宮永咲………!!
「2000・4000です!」オオオオオ

(第97局「三麻」)


 この切り返しは神懸かっていると言わざるを得ない。トシさんが言うように、豊音の能力を無効化するのではなく(単純にパワーをぶつけて相殺するのではなく)、自らが持つ能力の性質を利用して、ロジックで打ち負かしているのが最高にクールだ。能力バトル漫画の醍醐味がここにあった。
 咲さんは劇中で最強クラスの魔物であることが随所でほのめかされている。しかし、その実能力の平均打点は衣の速攻や淡のダブリー裏ドラ4に比べればひかえめだし、相手の配牌やツモを永続的にねじ曲げるほどの支配力もない(後述する発動条件付きの能力はその限りではない)。しかし、その代わりに知略と機転次第で如何様な相手にも対応できる汎用性・発展性があり、爆発力も兼ね備えている。これほど能力バトル漫画の主人公にふさわしい能力もない。逆に照の「連続和了」や淡の「絶対安全圏」、衣の「一向聴地獄」はインパクトが強烈な反面パワープレイ寄りで(つまるところ「支配して勝利する! それだけよォ!」である)、最後はプレイヤー(主人公)に攻略されることを前提に設定されたボスキャラ専用の能力と言えるだろう。隠しコマンドでプレイアブルになったらリアルファイトになることうけあいだ。
 咲さんと衣による魔境NAGANOの天王山にはみな興奮させられたと思う。あの試合は名シーンに事欠かないが、何よりの灼アツポイントは、衣の山を支配するという一件無敵に思える能力を、咲さんが「能力の届かない嶺上牌で和了る」という説得力のある解を用いて破ったところだと思う。上で語った豊音の攻略と同様に、シンプルかつ筋の通ったロジックが素晴らしい。また、あのシーンに至るまでに、衣の持つ能力が如何に横暴で強力かが(主に池田が被害者になることで)巧みに描写できていたからこそ、それをやり込めた咲さんに対する畏敬の念が湧いてくるのだろう。
 ことほどさように、咲さんと並み居る怪物どもの間に火力と支配力の差があるからこそ、能力の応用と化かし合いで見事打ち破った際にジャイアントキリング的なカタルシスが生まれるのである。『咲-Saki-』は数ある能力バトル漫画の中でも、相手の反則すれすれな能力がこちらの能力を引き立たせるという好循環を維持している希有な存在だと思う。

………

(待ち 八萬)

次のツモの南をカン…

嶺上牌の
八萬で和了って
原村さんをまくる……!!

(第3局「雀荘」)


1.嶺上牌が見えている(よって有効牌・和了牌にする待ちにできる)
2.カン材が自動的に集まる
3.カン材になる牌が見えている(モモのステルスも看破する)
4.超人的な運(魔物の標準装備)
5.他家のテンパイ気配を察知(精度の差はあれど魔物の標準装備)


 咲さんの能力は今もってその全容が知れない。自分のツモが分かっている説や、山が全て見えている説、相手の手牌も全て見えている説、全ての牌を好きに操作できる(!)説もあるが、劇中の描写から確定しているのはこんなところだろう。私はこれらに加えて、咲さんに新しい能力が開花したか、あるいは開花しつつあるんじゃあないかと予想している。言うなれば守り(消極的な)のプラマイゼロ転じて攻め(全部「ゴッ」倒す!)のプラマイゼロだ。具体的には、自分の収支を最終的にプラスマイナス0にすることを条件に場を支配する(あるいは相手の支配を打ち破る)能力ではないだろうか。この発想が出て来たのは、一つは末原さんの「この清澄の大将…条件付きで支配を発揮するタイプか……!!」(第91局「追補」)という発言があってのこと。メタ的な発想をすれば、この台詞もりつべが末原さんに言わせているので、そうそう的外れではないと予測できる。もう一つ引っかかったのが、咲さんが魔物センサーである塞のモノクルをぶち割ったのが、豊音の先負を打ち負かしたときでも、霞さんの絶一門を速度で上回ったときでもなく、カンによるずらしで末原さんに倍満をツモらせたときだったことだ。あれは咲さんが能力の発動条件を満たしつつあり、霞さんの支配――はっちゃんが「(姫松に)和了られましたよ~どういうことですか~」と言うくらいだからかなりの強制力なのだろう――を上回る支配力が生まれたことによるひずみだったのではないだろうか。
 ちまたでは99局「真実」が掲載されてから「魔王がまたやらかした!」「舐wめwプw和にあれだけ叱咤されたのにまwたw舐wめwプw」「『オウ財布……末原くん、準決勝もよろしゅう頼むわ! また2位にしてやってもええで!』」と散々に言われていたらしいが、私は「末原さんを支援してプラマイ0を狙ったのはあくまで能力を発動させて霞さんの支配を打ち破るのに必要だったから。調整先に末原さんが選ばれたのは単に与しやすかったから」説を唱えている。どうかそうであってほしい。これ以上咲さんが嶺上マシーンだなんだと言われるのは見とうない……。

(以上、阿知賀編アニメ放映終了時の雑記から抜粋して加筆修正)

 ここから追記。続く第100局で咲さん本人の口から、プラマイ0を狙ったのはそれ以外に勝ちのイメージが見えなかったからと語られた。正直ほっとしたぜ。あれから咲さんの能力の真髄については新説が登場するし(プラマイ0に加えてもう一つ縛りがある説)、末原さんの隠された能力(すべての○○○に絡む程度の能力)についても推理が進んでいる。ますます準決勝の大将戦が待ちきれない。私は二年半後くらいには読めると踏んでいるのだが、見込みが甘すぎるだろうか……。
圧倒的な実力差を見せつける咲さん ~末原さん蹂躙編~:咲グラフ

tags: 咲-Saki- 考察 
2013年06月09日

トワイライト・タイム プラターズ Twilight Time

オールディーズ 地獄の66曲レビュー 23/66

トワイライト・タイム プラターズ 
Twilight Time / The Platters




 先日『アトランティスのこころ』の映画版を観たので記念に記事を書く。映画自体の感想は子役がかわええ、アンソニー・ポプキンスはあいかわらず抜群にうめえで尽きてしまうが。いったい全体『暗黒の塔』の「破壊者(ブレイカー)」というキング・ワールドの要素や『蠅の王』などの文学要素はどこに行ってしまったんか。二時間の映画に収めるために設定変更や脚本の縮小はやむないことだが、いくら何でも超能力者を使った赤狩りってそりゃないよ……。俗っぽすぎて却って現実味がないよ……。
 ナンバーワンのファンには説明するまでもないが、この曲は『アトランティスのこころ』のさわりのシーンで流れていて、最終章のタイトル「天国のような夜が降ってくる」はこれの歌い出しから取られている。オールディーズを専攻していて「得をした!」「他の分野で知識が活きた!」と思える数少ないことのひとつは、スティーブン・キングの小説に散りばめられているオールディーズネタでにやりとできることだ。じっさい原作『アトランティスのこころ』のラストシーンは、この曲の甘ったるい曲調が頭に浮かぶかどうかで受ける印象がかなり変わってくると思う。
 ぶっちゃけてしまうが、プラターズはあまり私の好みじゃあない。アレンジがあまりにもくどすぎて胸焼けがするんだよね。いやね、私もオールディーズを延々と聞いて育った人間だから、甘っちょろいアレンジは大好物なんだけれど、「煙が目にしみる」の大仰なラストや「オンリー・ユー」のもったいつけたイントロは少々度を超えている。何が「スモーク……ゲッツ……イン……ヨァー……、アァ~~! イィ~~ズ!(デレデレデレデレデレデレレレレ~~ン!)」だよ。ポール・アンカやリトル・ペギー・マーチの曲がハーゲンダッツのぎとぎとの甘さや駄菓子のジャンクな甘さなら、プラターズの曲は人口甘味料の原液といった印象だ。その中でもこの「トワイライト・タイム」や「ユー・ネバー・ノウ」は、まだアレンジに抑制が利いていて聞きやすい。

天国のような夜が降ってくる(falling)
夕暮れどきには(Twilight Time)
霧の中から君の呼ぶ(calling)声が聞こえる
夕暮れどきには
紫色のカーテンが一日の終わりを告げる
君の声に耳をかたむけるよ、いとしい人
そんな夕暮れどき

深まる闇が光(splendor)を集めて日が暮れる(day is done)
夜の帳が沈みゆく太陽(sun)に取って代わる(surrender)
僕はいとしい君といられる時間を噛みしめる
最期は君と夕暮れどきを……

夕焼けの時間(afterglow of day)が訪れても
空(blue)の下のランデブー(rendez-vous)を続けよう
前みたいに、懐かしく甘ったるい気分(sweet old way)で
僕はまた恋に落ちるんだ

暗闇でキスされるとぞくぞくするよ
いつまで経っても(like days of old)
きらめく恋の炎が僕を満たすんだ
胸に秘めた(untold)夢とともに

いつの日も君といられるよう祈っている
最期は君と夕暮れどきを……


日本語訳歌詞:toppoi

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2013年06月02日

東方・アカイイト・咲-Saki-(new!!)元ネタ比較

※三作品の裏設定に触れているので、ネタバレを気にする方は注意されたし。
 やばいな……次回は能力バトル関連記事の続きを書くとキッパリ言ったばかりなのに……スマン、ありゃウソだった。先日『咲-Saki-』考察まとめ記事を整理しているときに、私が信奉している和風伝奇百合ADV『アカイイト』と共通する伝奇ガジェットを見つけてしまい、またそれが無国籍和風伝奇STG『東方Project』にも登場していることに気付いたので、衝動的に和風伝奇百合作品のコラボレーション企画第二弾を書きたくなってしまったのだ。伝奇ゲーの読者はみんな作品間のネタ被りに大喜びするので(偏見)、取りも直さずコラボネタが大好きなのである(偏見)。
東方・アカイイト元ネタ比較(便乗)
 ちなみにこの企画はもともとDG-Lawさんへの便乗である。
このタイミングで主題歌公開とかGJすぎる
第二回、東方・アカイイト系列作品元ネタ比較
 私の中の勝っ手なイメージなのだが、「和風伝奇」「百合」の二要素でベン図を作ったときは『東方Project』『アカイイト』のぶっち切り二強が鎬を削っていた。その勢力図を崩すことになる作品が本格美少女麻雀物語の『咲-Saki-』だとはねぇ……。上の東方・アカイイト記事を書いた当時は予想だにしていなかった。『咲-Saki-』の和風伝奇要素から受けた衝撃についてはまた別の記事で語る予定だ。

 本題に入るが、私が今回気付いた三作品共通の伝奇ガジェットは役小角(えんのおづの)である。
役小角 - Wikipedia

 まずは『東方Project』について語ろう。役小角の名前は『東方妖々夢』のExtraボスである八雲藍のスペルカードに登場する。
八雲藍/超人「飛翔役小角」 - 東方元ネタWiki
 このスペルは藍が自機(文)に向かって凄まじいスピードで回転しながら突撃し、すれ違いざまに大量の弾をバラまく、というものである。小角には流刑地の伊豆島から夜な夜な抜けだして全国を飛び回っていたという逸話が残っているので、それがこの超スピードの元ネタになっているのかもしれないが、私はまた別の元ネタをこじつけることに成功した。役小角と狐ときたらあの神を語らずにはおけない。葛城山の主である一言主(ひとことのぬし)だ。小角はその桁外れの法力で、一言主をはじめとする鬼神らを服し、土木工事などに従事させて朝廷の点を稼いでいたのである。工事を急かす小角は、夜だけしか働こうとしない一言主に腹を立て、蔦葛で縛り上げて深い谷にうっちゃったんだそうな。さて、霊格の高い狐を従えた(こき使う)最強の式神使い……ときたら、幻想郷の最重要人物であるあの御方を思い浮かべずにはいられない。このスペルの正体を「紫(役小角)の命令でうざったいデバガメ記者に無茶苦茶なスピードで突っ込まされているかわいそうな藍(一言主)の図」と考えてみても面白いと思う。
 八雲紫に役小角の要素があるのはあり得る話だと思う。役小角と比較したり、服装とコミュニティにおける役割から塞さんと結びつけられたり、最近私の中で紫さんが熱い。

 続いて我らが『アカイイト』に話を移そう。面白いことに『アカイイト』にも役小角と一言主が登場している。全国3000万人のアカイイトファンにはあえて説明するまでもないが、役小角はそのままの名前で浅間サクヤルートの過去パートで出てくるし、一言主は若杉葛の相棒である尾花その人である。アカについてはてめぇで書いた解説記事が揃っているので語るのが楽だ。
アカイイト年表 尾花ちゃんの正体は?
 投稿日時を見て時の流れを感じた(ぼそっ)。『アカイイト』世界の小角は、神代の時から流れ(起源は八岐大蛇に狙われていたクシナダヒメまで遡る)、神に捧げられ神に八千の力をもたらす「贄の血」を引いていて、その並外れた法力は贄の血の《力》を制御して生み出していると説明されている。ある意味この人の存在が、本編では戦闘能力がゼロに等しい桂ちゃんが作中最強候補にまでなる「鬼切りの鬼」エンドの複線になっているわけだ。さて、小角は山神に納まっていたはずの主が贄の血を引く竹林の長者姫を生贄に求めて宣戦布告したとの噂を聞いて、流刑地の伊豆島から馳せ参じたわけだが、その際に自らが言霊の力を封じた(鳴き声すら上げないのはこのため)一言主を帯同させている。『アカ』においても仇敵にこき使われている狐さんかわいそう。小角は観月の民らからなる連合軍を率いて、みごと主を打ち倒すことに成功する。その後、凝り固まった主の魂を完全に還すために、オハシラサマの木を触媒にし、姫さまを人柱に捧げて反魂の儀式を執り行ったのもこの人である。また、自らの血縁者を不憫に思って経観塚の土地に贄の血の匂いを隠す結界を施したのもこの人だし、経観塚の外に出る贄の血ホルダーのために青珠のお守りを授けたのもこの人である。ファンの間でもあまり話題にならない人だが、こうして作中で確認できるアクティビティを並べてみると八面六臂の活躍である。一言主神はそれから長い時間を経て、かつての縄張り(葛城山)と同じ字を名前に持つ葛ちゃんと出会い、尾花と名付けられて行動を共にすることになる。その後の彼(「女だけしかいないから」と足を崩していたサクヤさんに葛ちゃんが「尾花がいますよ」と言っていた記憶がある)がどうなったかは劇中の通りである。
 ちなみに、小角が伊豆島へ流されたのは、一言主が他人の口を借りて朝廷に「あいつは謀反を企てている」「妖しげな呪術で人を惑わしている」と進言したからである。あんな目に遭わされたらそらチクリもするわな……。

 最後は『咲-Saki-』についてだ。役小角が取り上げられているのは『阿知賀編』なのだが、みなさんはどこにその要素があったかお分かりだろうか? リアルタイムで連載を読んでいて「あ、これって役行者小角やん!」とすんなり理解できた人はどれくらいいるのだろうか? 恥ずかしながら、私は上記の二作品をそれなりにやり込んでいたにもかかわらず、hannoverさんの記事を読むまでいまいちピンと来ていなかったぜ!
【バレアリ】咲-Saki-阿知賀編最終話「軌跡」穏乃、権現様を感得する。: つれづれなるままに
さくやこのはな :: 深山幽谷の化身って?
元ネタから見る穏乃と怜=竜華のライバル関係(※4月8日は園城寺で竜華会が執り行われる日です) - 私的素敵ジャンク
 そう、我らが主人公である高鴨穏乃の「山」に関する能力がこの人(プラス蔵王権現)に由来しているのである。詳細についてはリンク先の解説記事をご覧あれ。完ぺきすぎて私から語ることがほとんどない!
 それにしても、衣が口にするキーワード(修験者、修行の山道など)、高鴨という姓、能力発動字の炎のエフェクトなどから役小角と蔵王権現までは辿りつけるかもしれないが、そこからなぜしずの力が怜ちゃんを従えた竜華にクリティカルヒットするかまで推察できる人はそうそういないと思う……。あれこそ『アカイイト』でいうところの「神代の再演」だ。何のこっちゃらという方は上掲のすばらな考察を読ませてもらうといい。はたして全国一千万の『咲-Saki-』ファンのうち何パーセントくらいが自力であの地点まで辿れたのだろうか。りつべは骨の髄まで設定厨なのに説明はばっさり省くからなぁ。これが作品の難易度を跳ね上げている。同じ設定厨でも麓川御大はあんなに説明が好きだというのに(好きが悪い方向に高じてしまったのが『アオイシロ』だ)。あれだけ作り込んだ設定なら普通は得意げに語りたくなりそうなものだけどね。物語の進行に差し障るような説明を極力省いているのはえらいっ。『咲-Saki-』は伝奇要素以外に麻雀描写でも「分からん奴は置いていく!」というストイックなところがあるので、考察サイトさんには本当に助けられている。

 そうそう、『咲-Saki-』『アカイイト』『東方』共通のネタはもう一つ知っているのだが、あれはDG-Lawさんのつぶやきを見て初めて気付いたので、私がしたり顔で書いても様にならない。あの御方が書いてくれるのを気長に待つことにする。あれは『アオイシロ』の主要登場人物にも深く関わっているのでその点でもDGさん向けだ。
 次回の『咲-Saki-』に関する記事は、能力バトル解説の中編か、最近議論が熱い「魔物」の定義についてか、岡橋初瀬さんについてを予定している。予定はあくまで予定だけど。

「アカイイト」応援バナー
 アカイイトをやろう(提案)。ぶっちゃけアカイイト勢は『東方』に比べればいくらか規模が小さい『咲-Saki-』クラスタと比べても遙かに人数が少なくてさびしいのだ! お願い申し上げ奉る! どうかひとつ! この作品、ノベルゲームの初心者には難易度が高いが(伝奇要素はそれほどでもないが、テキストの作り込みが洒落にならないレベル)、敬虔な信者が「アカイイト シナリオ解読・考察・FAQ」を用意してあるので心配には及ばない(手前味噌)。
 少し前に「咲-Saki-から始めるエロゲー」という関連する要素のあるエロゲーを紹介する記事を書いたのだが、そこにしれっとPS2のコンシューマゲームである『アカイイト』を混ぜていた。あれは「いい加減アカイイトをエロゲーと勘違いしている奴うぜぇ(略)」という突っ込み待ちだったのだが、反応がなかったのでちょっとさみしかった(勝手な期待)。いや、ただ単にエロゲーと二アリーイコールな作品として認知されているだけかもしれないけど。『痕』『月姫』の流れを汲む作品であることは明白だしね。

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