2019年02月21日

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 谷川ニコ レビュー・感想 お前が楽しくないのはどう考えてもお前が悪い!

『咲-Saki-』勢の間で評判だったので読んだが、すっと腑に落ちた。中心人物を巡る嫉妬や執着、静かな狂気、周りに形成される人間模様がゆかいなところが通じると思う。

路線変更が功を奏した珍しい漫画
 漫画の路線変更、人気が低調だったりマンネリだったりする作品の梃子入れや作風のシフトは得てして上手くいかないものだが、『わたモテ』はそれが受け入れられた珍しい作品である。今でも初期のぼっちクズオタクあるある話のイメージしかない人は多いと思うが、8巻の修学旅行編あたりから話の主軸が様変わりしていくので、どうせならそこまで読んでみるべきだ。青春と言うほど爽やかではなく、ドラマと呼ぶほど劇的な展開はなく、群像劇と付けるほどしまりはなく、成長譚と評するにはどうにも心許なく、ガールズラブと銘打つにはさっぱり甘くなくてカオスが過ぎる。しかし、まだらな人間模様が形作られていく過程やその中で智子が悪戦苦闘するさまは何とも言えず面白く、同時に身につまされて背中が痛痒くなる。今の『わたモテ』はそんな作品である。

『わたモテ』の何が変わったのか

しかし今まで意識しなかったが
他人に合わせて生きていくのも
ぼっちとは別の大変さが
あるのかもな……

(喪82「モテないし日常に戻る」)


「死ね」ボソ

(そこだけはちょっと気が合うね)

(喪107「モテないし気にかけられている」)


 前述の通り、『わたモテ』は方向性の変化が強烈な個性に昇華されている作品だ。それで、いったいこの作品の何が変わったかのと言えば、智子の他者と世界に対する見方、関わり方が(多少なりとも)変わっていったんじゃあないだろうか。
 この漫画の序盤がだいたいつまらなくて、修学旅行編からだんだんと面白くなってくるのは何故だろうか。話は単純で、前者はどこまでも独りよがりで、後者はゆりや吉田を始めとしたいろんな人間が関わってくるからだ。この作品は期せずして、毎日の些末事もしょうもない行事も、独りで鬱屈としているより周りに人がいたほうが面白い、いろいろ気苦労もあるし振り回されもするけれど、誰かと共有したほうが絶対に楽しい、というごくごく当たり前だがまぶしい真理を切り取っている。作風の変遷そのものが図らずもサブテキストの骨子になっていて、なかなか興味深い漫画だ。
 極端に言えば、序盤の智子にとっての他人は「リア充」「イケメン」「ビッチ」というラベルでしかなく、妬み嫉みの的(まと)あるいは「モテる」「イケてる」という実績解除・トロフィー獲得のためのNPCでしかない。読者の目にも彼ら彼女らは書き割り程度にしか映らなくて、実体がさっぱり見えてこない。これで話が面白くなるほうがおかしいだろう。それに比べて、いちの友人だが嫉妬深くてすぐにへそを曲げるゆりや、意外に面倒見はよいがすぐに手を上げたり(だいたい智子が悪い)無茶ぶりをしたりする吉田の、何と奔放で、何と生き生きとしていることか! 奴らの独立した一個の存在感は、前述の記号たちとは比較にもならない。智子が周りの人間に向ける視線の解像度が明らかに変わっている、と言い換えてもよい。生きている人間はそれだけでも楽しいし、そいつらがかち合って物事が動くさまはもっとずっと面白い。この価値観に共感できる人にはより刺さる漫画だと思う。
 方向性もとい智子の変化が地味に現れているのが、「モテないし」から始まる各話のサブタイトルだ。序盤はその枕詞の通りに、智子が満たされない欲望から痛々しい奇行に出て失敗するのが話の定型だったのだが、次第にそのフォーマットは崩れていき、枕詞もあんまり意味を成さなくなっていく。彼女が「モテないし」という自分本位のフラストレーションにかかずらっている余裕が無くなってくるのとリンクしていて面白い。
 136話で智子は自分から「漫画を薦める」のだが、その相手がそこまで打ち解けていない真子というだけでちょっとうるっとくる。ちなみに漫画は吉田へと又貸しされてグループを渡り歩いていく。なかなか象徴的だ。そして137話では「GWを迎える」が、カレンダーはバランスを取ろうとした結果友だちとの予定で埋まっていて、連休はあっという間に終わっていく。もはや非モテ関係ねーじゃんという突っ込みは野暮だろう。
 暗黒期の話でも、数少ない友達であるゆうちゃんとの間に小宮山が絡んでくる話や、親戚のきーちゃんが遊びに来る話は比較的読めた。前者は友だちの友だちという微妙な関係な上にまったく反りが合わず、でも友だちの手前ガン無視は出来ない気まずさが不謹慎に笑えて、後者は親戚のお姉ちゃんとしてええ格好をしようとする幼い見栄が悲しくも微笑ましく、つまるところ智子が関係性の中で四苦八苦するところが面白かったのだと思う。これは8巻以降の作風と共通するエッセンスじゃあないだろうか。

狙ったギャグはかなり月並み
 明確な欠点についても書いておくと、この作品をギャグ漫画の枠で捉えてネタの練度で評価すると、およそ褒められたものではない。勘違いやすれ違いを機転とするコントは「そうはならんやろ……」と思うことが大半だし、掛け合いや心の中での毒づきの台詞回しにキレやセンスは感じられなかった。特に嫌な印象に残っているのが、無理やりもいいところな勘違いから、友だちの友だちである真子を延々「ガチ●ズさん」(原文ママ)と呼び続けるところで、いろいろと芸がなくてげんなりした。
 そして、単行本7巻に渡る低調期は正直言って長すぎる。智子のクズっぷりと苦しいネタ出しにギブアップする人が出ても責められない。あの虚無の期間は結果として必要だったわけだが、もう少し短かったらと思わずにはいられない。

その他もろもろ
 『わたモテ』の美点の一つが、主人公に感情をぶつけてくる、いわゆるヒロイン以外にも、その友だちや友だちの友だちが登場し、しかも彼女たちなりの価値観や行動原理がちゃんと見えるところだ。具体的にはキバ子とか茜のことね。この点が、まだらな人間関係を多層的に彩っているんじゃあないかと私は思っている。デザインもけっこう描き分けができていて、登場人物はかなり多い(しかも基本的に制服)のに混同したことがほとんどない。
 智子が(下心があろうとも)自分から他人へ関わったり親切にしたりするようになったきっかけの一つに、赤の他人だった生徒会長との交流があるのはモノローグから明らかだろう。きれいな関係の返報性の構図で、エモエモのエモだった。
 この作品に対する批判で、ぼっちの主人公が突然人に囲まれて言い寄られるのは願望充足的でリアリティがない、というものがあった。ごもっともだと思う一方、彼女が突飛な人間関係に放り込まれて右往左往するさまこそこの作品のキモであって、あまり当を得ていないとも思う。

まとめ
 思いがけず人気が出たとおぼしき展開に合わせてシフトチェンジした結果、人間関係に対する普遍的な真理が表出してしまった変てこ漫画と捉えている。
 既に一度アニメ化されているそうだが、リブートで再アニメ化したらめっちゃ盛り上がりそうだ。序盤を3話程度でまとめてしまって、さっさと修学旅行編に入る構成でひとつどうだろうか。
 ところで、私は咲勢かつ『わたモテ』にはまっている人に対して、有珠山高校の人間関係、特にチカセンこと桧森誓子のめんどくささが好きだというイメージを勝手に持っていたのだが、一致率はどんなものだろうか。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! | ガンガンONLINE | SQUARE ENIX

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tags: 百合 感想 
2019年02月01日

ギギギ…の初出って阿知賀編だったよな

『咲-Saki-』の決勝戦先鋒戦が佳境で、展開的にも伝奇要素でもるねしおでも界隈が大盛り上がりだね~。嬉しくなっちゃう。レギュラーが危うそうだったルネセンが大成していたのはちょっと意外だった。
 五部アニメの評判がよくて何より。私が『咲-Saki-』を好きな人におすすめしたい作品のナンバーワンが『ジョジョの奇妙な冒険』なんだよなぁ……(逆もしかり)。そのこころは、能力バトルの攻防の熱さと説得力だ。
『咲-Saki-』能力バトル解説 制約と誓約、ロジックとカタルシス

 面白そうだと思っていた同人ADV『デイグラシアの羅針盤』がSwitchで出ていたのでやった。控えめに評価しても、議論に値する作品だと思う。明らかにある作品をリスペクトしていて(公式サイトを見たらモロ書いてあった)、往年のギャルゲーマーならニヤリとすること必至。ボクもうタツタサンドなんて食べたくない。
Nintendo Switch|ダウンロード購入|デイグラシアの羅針盤

一番お金を使っているのは“何オタク”? 矢野経済研究所が調査 - ITmedia NEWS
 アイドルオタクが思った以上に桁違いだった。チケ代は当然、遠征費や物販がかなり重いと聞いたことがある。よい席は全国公演なのに顔ぶれがけっこうかぶってるとか……。

ディープ・スロート - Wikipedia

 ウォーターゲート事件においてワシントン・ポストへ情報提供を行ったとされる人物。転じて、「活動先の組織において要職に就き重要情報を漏洩させるスパイ」を意味する。


 ひわいな意味しか知らなかった。

咲-Saki-阿知賀編とは | P咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A:SANYO
CR 咲‐Saki‐YLBのスペック・導入日・セグなど新台情報(三洋)
 パチンコ『咲-Saki-』で確認できる二つ名。「悪待ちの久」「隠された蒼き天眼」とかはこれでしか見たことがないな。

バーチャルの生と死 おわりとはじまり 祈りと救い|ジョン・オービン|note


 命に嫌われている~。知らないカバー曲はこれだけだったけど、あまりにも衝撃的だった。

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