2007年03月02日

ペット・セマタリー/スティーヴン・キング

-264-
 彼はビー玉で喉を詰まらせてやろうと待ちかまえている。クリーニング屋からもどってきた洗濯物のビニール袋で、窒息させてやろうと待ちかまえている。電気というてっとりばやく致死的なブギー……〈"最寄りのスイッチ板"もしくは"現在使用されていない電灯のソケット"等でいつでもお手に入ります〉……で、黒焦げにしてやろうと待ちかまえている。二十五セントのピーナッツの袋、気管に吸い込まれたステーキの一片、この次に封を切る煙草の箱、どこにでも死がひそんでいる。彼はいつでも身近にいる。人間の世界と不死の世界の間のチェックポイントを、つねにモニターしている。不潔な注射針、毒虫、切れて垂れ下がった電線、山火事。急に向きを変えたローラースケートが、交通の激しい交差点に愚かな子供をとびださせる。シャワーを浴びようと風呂に入ればそこにもオルが待ちかまえている…〈シャワーメイトと楽しいシャワー〉。飛行機に乗れば、オルが搭乗券を受け取る。彼はあなたの飲む水のなかにいるし、あなたの食べる食べ物の中にもいる。一人おっちで、こわくなったとき、あなたは闇にむかって叫ぶ。「そこにいるのはだれだ?」すると、返ってくるのは彼の返事なのだ。こわがらなくてもいいよ。わしさ、わしがいるだけだ。よう、気分はどうだ? あんた、腸癌にかかっているぜ。やれやれ、悪運だね。ごめんソーリー、ひげソーリー! 敗血症! 白血病! 白血病! アテローム性動脈硬化症! 冠状動脈血栓症! 脳炎! 骨髄炎! ヤッホー、やったろじゃないか! 戸口にナイフを持ったペイ患。真夜中に電話。ノース・カロライナのどこかの高速出口では、バッテリー液で血が煮える。どかっと渡される錠剤、これを片っ端からむしゃむしゃやってくれ。窒息して仮死状態になったあとの、爪のあの奇妙な青っぽい色合い――生存のための最後の厳しい戦いのなかで、残った酸素を脳髄がすっかり使ってしまうのさ。爪の下のそれらちっぽけな細胞のなかのものまでも。いよう、みんな、わしの名は《オルのらいまおう》、なんなら"オル"だけでもいいぜ。なんせ、もう今じゃ古なじみの親友同士だから。なに、ちょっと立ち寄っただけさ、あんたにすてきな鬱血性心臓麻痺か、脳血栓か、なにかちょっとした贈り物をあげるために。いや、長居はできないんだ、ある女性と異常分娩のことで会わなくちゃならんし、オマハでは、煙を吸わせてやるというささやかな用事も待ってるんでね。
 われわれはパトロールをつづける……息子とおれは……なぜなら、いきることの要諦は戦争でもセックスでもなく、もっぱら《オルのらいまおう》を相手にまわしての、その気高い、絶望的な、うんざりするような戦いにのみあるのだから。


名セリフ・名言集に戻る
関連記事

このエントリーをはてなブックマークに追加はてなブックマークでコメント

Template Designed by DW99