2007年09月18日

Keyゲーと聖書1 奇跡の価値は

 イエスが向こう岸のガダラ人の地方に着かれると、悪霊に取りつかれた者が二人、墓場から出てイエスのところにやって来た。二人は非常に狂暴で、だれもその辺りの道を通れないほどであった。
 突然、彼らは叫んだ。「神の子、かまわないでくれ。まだ、その時ではないのにここに来て、我々を苦しめるのか。」
 はるかかなたで多くの豚の群れがえさをあさっていた。そこで、悪霊どもはイエスに、「我々を追い出すのなら、あの豚の中にやってくれ」と願った。
 イエスが、「行け」と言われると、悪霊どもは二人から出て、豚の中に入った。すると、豚の群れはみな崖を下って湖になだれ込み、水の中で死んだ。

(『マタイによる福音書』悪霊憑きを癒す)


 そのとき、この会堂に汚れた霊に取りつかれた男がいて叫んだ。
「ナザレのイエス、かまわないでくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ。」
 イエスが、「黙れ。この人から出て行け」とお叱りになると、汚れた霊はその人にけいれんを起こさせ、大声をあげて出て行った。

(『マタイによる福音書』カファルナウムの悪霊追放)


 さて、重い皮膚病を患っている人が、イエスのところに来てひざまずいて願い、「御心ならば、わたしを清くすることがおできになります」と言った。イエスが深く憐れんで、手を差し伸べてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、たちまち重い皮膚病は去り、その人は清くなった。
 イエスはすぐにその人を立ち去らせようとし、厳しく注意して、言われた。「だれにも、何も話さないように気をつけなさい。ただ、行って祭司に体を見せ、モーセが定めたものを清めのために献げて、人々に証明しなさい。」

(『マタイによる福音書』重い皮膚病患者の癒し)


 新約聖書に書かれている、イエスの奇跡話の一部である。はたして、これを読んで「ねーよww」と思わない現代人はどれだけいるのだろうか。私はその一人ではない。現代日本を生きるわれわれにとって、聖書やイエスの奇跡話なんてものは眉唾もので、敬遠しがちなものである。しかし、頭を少しだけやわらかくして、それらをこう置き換える(あるいは、割り切る)だけで、だんぜん親しみやすい存在になると思う。
 イエスの奇跡話やたとえ話は、彼の活動を表した比喩話である。
 新約聖書はイエスの主義思想を記した思想書、あるいはイエスの人間論である。

 ヨハネの黙示録に「先生、彼が盲目に生まれついたのは、誰が罪を犯したからですか?」という有名な一文がある。イエスの時代には、病気や身体的欠陥は、その人もしくはその人の先祖の罪の印であるという偏見が蔓延っていた。人々は病気をうつされたくないという理由以上に彼らを疎んじ、共同体から追放して迫害したんだそうだ。整った法律も、福祉制度もへったくれもない時代である。すがるものものといったら家族と仲間、そして信仰ぐらいしかないであろう時代に、信仰共同体から切り離される絶望感は想像できない。
 聖書に出てくる「悪霊に取り憑かれた人」は、今でいうところの心を病んでいる人、あるいはそういう烙印を押された人だったのではないかと言われている。錯乱している人を指す「狐憑き」という言葉は聞いたことがあるんじゃあないだろうか。悪霊に憑かれた人が町はずれの墓場にいるのは、家族や共同体から疎まれて、見離されていたからだ。
 イエスが本当に、それこそ『グリーン・マイル』のジョン・コーフィのような奇跡の技を体得していたのか、じっさいに病を治療してみせたのかどうかは、この際うっちゃっておく。信じる人は信じればいいし、信じられない人はそれで全くかまわない。私は半信半疑である。大事なことは、イエスの活動が、結果として、徹底的に疎外されていた人々の尊厳を回復し、共同体の営みに復帰させたことなのだ。それを奇跡と呼ばずして何と呼ぼうか。だからこそイエスは共同体の指導者的立場にある祭司に体を見せて、人々に証明しろと言ったのだ。イエスが悪霊を追い払ったのが、信仰や共同体の象徴と言える会堂だったのは面白い。
 さて、奇跡といえばKeyゲー、Keyゲーといえば奇跡である。Keyゲーも同じような感覚で、NYP(なんだかよくわからないパワー)の発動で、なんだかよくわからない病気が治ることが奇跡なのではなく、キャラクターが死に至る病の果てに、結果として、失われた絆を取り戻したこと、自我とアイデンティティを回復させたことが奇跡なのだ……と考えると、また違った見方ができると思う。
 次回に続く。

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