2010年01月01日

斧 ドナルド・E・ウェストレイク レビュー・感想

 一年の計は元旦にあり、今年はがんばって小説のレビューを書きたいです。小説の感想ってうまく思い浮かばないんだよなぁ……。

 平たく言えば、主人公が連続殺人を犯すノワール小説だが、ブラックコメディの要素もあり、社会風刺の一面もある。しかし、コメディに走りすぎてわざとらしくもならず、社会風刺に傾きすぎて説教臭くもならず、猟奇を前面に出しすぎて悪趣味になることもなく、絶妙なバランスの上に成り立っている。ウェストレイクのこのバランス感覚はすばらしい。
 主人公はハンニバル・レクターのようなカリスマ殺人鬼ではなく、会社から首を切られた冴えないおっさんである。殺人の動機も、ライバルを減らして再び職にありつきたい、という(切実ではあるが)実にさえないものだ。目を覆いたくなるような凄惨な事件が起こっているはずなのに、読んでいるこっちはなぜか笑いを禁じえない。結果だけ見れば狂気的な犯罪のはずなのに、主人公の思考は平凡そのものだという矛盾。クスッとしてしまうことがなによりも恐ろしい。残酷で暴力的なものにふと潜びよってくる笑い、という点では『ソナチネ』『ハリーの災難』『ファーゴ』のような映画に通じるものがあると思う。どこか垢抜けない、間の抜けた空気も似ているんじゃあないだろうか。
 ウェストレイクの小説は、何かを成し遂げようとする主人公の前に次から次へと障害が現れ、それを機転と行動力で切り抜けていくのが基本のプロットだ。ドートマンダーもの、悪党パーカーシリーズなどは特にこの傾向が強い。読者を飽きさせないストーリーテリングにかけてはウェストレイクの右に出るものはいない。『斧』でもそのリズム感は健在で、立ち現れる「障害」を右から左に排除していくんだけど、このテンポのよさが不謹慎でまた笑わずにはいられない。お得意のジョークも五指に入るくらい切れていると思う(→『斧』名言集)。まさに毒の利いた笑いという形容がふさわしい。
 キング先生いいものをすすめてくれた。

斧 (文春文庫)斧 (文春文庫)
(2001/03)
ドナルド・E. ウェストレイク
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