2010年02月06日

崖の上のポニョと呪的逃走 考察・解説

 呪的逃走譚は神話、昔話の類型の一つです。主人公が異世界から逃走するために、道具を捨てて追っ手を捲くというのが基本のプロットです。その際捨てられる道具は、必ずといっていいほど三つなのです。日本神話でもイザナギとイザナミの話はその典型と言えるでしょう。『崖の上のポニョ』における三つの道具は船、トキさん、バケツでした。
 宗介は境界(彼岸)の向こうの住人、人を安楽死に導く死神ポニョを現実へ連れ帰ろうとします。宗介はまずトンネル(現実への帰り道、ポニョが怯えていたもの)の中でおもちゃの船を捨てます。次にトキさんを巻き込んで、図らずも生け贄に捧げます。宗介が最後まで放さなかったのはバケツ……水瓶です。このバケツは当初、異世界からの来訪者であったポニョをこの世にとどめる《器》でした。そして宗介は後にこのバケツを、いなくなったポニョが帰ってくるさいの目印にします。この最もポニョと縁ある呪具を捨てて、呪的逃走を完成していたら、宗介はどこかの病院のベッドで目覚めていたかもしれません。そこには母親も父親も老人ホームの皆もいませんが……。
 宗介がこの世に戻れなかったのは僥倖だったのかもしれません。

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