2013年01月12日

穏憧と魔物の数字(100速の穏、高校100年生の淡、100巡先を視る怜)について真面目に語る

 新年の一発目くらいはゆるいネタ記事で行こう。『咲-Saki- 阿知賀編』の穏と憧のコンビって凄くいいよね。今回は阿知賀編の17話でさらに株を上げた穏憧について頭も悪く語っていこうと思う。

ガッ
「このまま気を抜かずに優勝までいこう!」
「当然そのつもり!」

(『阿知賀編』第三局「接触」)


 新子憧はがちがちの現実主義者だ。好意的に捉えれば、慎重かつ堅実で、用心深く、現実をひたと見据えていて、年上や初対面の人間にも物怖じしない。悪く言ってしまえば、臆病で、少し疑り深く、物事を悲観的に捉えて諦めがちで、傲岸不遜である。レジェンドとトシさんの一件や全国大会二回戦大将戦での動揺は、憧の悪い面が出てしまったと思う。そんな彼女とは対照的に、相棒の高鴨穏乃は直情的で行動力があり(具体的な計画性が欠けていて)、情に厚く(情に流されやすく)、諦めの悪さは折り紙付きで(意固地で)、礼儀正しい(人見知りする)。阿知賀女子の中心にいるのはこの1年生ペアだと思うが、こいつらの何がいいかって、性質のまるで違った二人がお互いに足りないところを補完しあって快進撃を続けているのがいいよね。特に憧が自分にないものを持っている穏に惹かれているさまが、ほほえましくてオギオギするね。

いつもスキだらけなんだから
勢いだけじゃ渡れないんだよ
テンションあげればどうにかなる
それだけで勝てる相手じゃない

でもあのとき電話くれなきゃ
ここへの一歩、踏み出せなかった
「まず一人、ここにいる!」って
言う勇気 くれたよね

(新子憧キャラクターソング「Live A-Life」)


 これがポエムでなかったら何がポエムなのか。
 私はあぐりが描く憧の表情が大好きだ。例えば、「論外!」とレジェンドに現実を突きつけられて重くなった空気を打破すべく「ラーメン食べたい! ラーメン!」とやにわに提案した穏を見守る、菩薩のような、あるいは賢者タイムのような悟りの表情もなかなかのなかなかだった。しかし、今回の「100速まで仕上がった!」と豪語する穏を見る顔もあれと甲乙付けがたいほど素晴らしかった。いやぁ、アラフォータヌキさんはつくづく生き生きとした表情を描いてくれるね。憧のあきれつつもゆるんだ表情からは「こんなことを言えるのはうちのシズだけなんだから」という誇らしげで憧憬的なニュアンスが読み取れる。憧は2速、3速、4速(2.1速、2.2速……かもしれない)と堅実に物事を築き上げていくタイプの人間だから、3の次は10、10の次は100という流れに縛られない発想が出来る穏のことがまぶしくもあり誇らしくもあるのだと思う。ときに、新子憧という名前は実に彼女らしくてよい。憧といい“待つ身”の松実玄といい、阿知賀のメンツはネーミングまで練られていて感心する。その人の性質やコミュニティにおける立ち位置と掛けてあるのが美しいんだよね。
 ところで、アコちゃーがポエムで綴っているように、もし穏があふれ出す感情を抑えてしまって電話を掛けず、憧が当初の予定通り晩成に進学していたらどうなっていただろうか。憧はひょっとすると、レジェンドの薫陶が無くとも不断の努力で実力を付け、晩成のレギュラーを勝ち取っていたかもしれない。もしそうなったととしたら、フルメンバーの阿知賀がいない奈良県大会などものの数ではないので、全国大会出場は決まったようなものだ。しかし、そこで打ち止めだっただろう。今大会の二回戦が既に熾烈を極めていることを鑑みるに(あれだけ能力者が揃った永水と宮守ですらベスト8に入れないんだぜ?)、よくて初戦突破が関の山だ。決勝戦で和を擁する清澄と戦うなど夢のまた夢である。
 元阿知賀こども麻雀教室のメンバーである玄、穏、憧、和が選んだ進学先はとても象徴的だ。辛辣になってしまうが、皆の場所を守りつづけることを誰に従うでもなく決心した玄は別として、穏と和が麻雀部のない阿知賀に進学したのは、感傷であり、日和見であり、馴れ合いとも言えるだろう。和は高校進学時にも同様の理由で清澄を選んでいる。唯一憧だけが、皆と別れて麻雀が盛んな阿田峯に入ったのだった。後に「阿知賀で全国に行けるなら私だって阿知賀に行ったよ…」(『阿知賀編』第1局「邂逅」)とつぶやいてるように、憧にもできるなら皆と一緒に麻雀がしたい、まだ遊んでいたいという思いが強くあったのは間違いない。それでも、居心地の良い環境とレベルの高い麻雀ができる環境のどちらが重要か、インターミドルに出られる可能性が高いのはどちらか(阿知賀は比較対象にすらなっていないわけだが)、全国大会の常連である晩成に行くのに有利なのはどちらかなどを勘案し、後ろ髪を引かれる思いで阿田中を選んだのだろう。彼女の現実主義的な価値観と麻雀に対する意識の高さがよくわかる。
 阿知賀女子の全国大会二回戦は実に危ういものだった。大将戦のオーラスまでもつれ込んだ上での僅差の二位奪取で、紙一重での通過と言ってよい。無論、主人公であり魔物候補でもある穏の火事場の馬鹿力のおかげで逆転できたのは言うまでもない。玄は相手が悪すぎたが、上級生のオカルトトリオも能力を活かした目覚ましい活躍だったと思う。しかし、私はそんな阿知賀メンバーの中でも、新子憧の立ち回りをとりわけ評価したい。憧が同卓したのは全国でも屈指の実力者である、千里山の元エース・江口セーラだ。生半なデジタル打ちでは彼女の腰の重い打ち回しに通じなかったと思う。いかに名伯楽のレジェンドといえども、素地のない子をあの短期間で全国区の選手に通用するところまで引き上げるの不可能だっただろう。憧は阿田中での武者修行で身につけた地力があったからこそ、得意とする鳴き麻雀を確かな武器に変えられたのだ。憧の安定した実力については三尋木プロが太鼓判を押しているし、準決勝におけるセーラとのリターンマッチでも証明されている。最終的に稼ぎ負けたとはいえ、3年生ブーストまで掛かっているセーラに食い下がったのは掛け値なしに凄い。結果的に、憧が涙を呑んで「前に向かうために、別れを選」んでいたことが、阿知賀の最大の危機を救ったのだった。遠回りに見えた選択がチームの命運を分けた、というのがドラマチックでグッとくるよね。
 このように、魔物の豪放な気質とデジタルの確かな実力がかっちりと噛み合っているのが、穏憧ならびに阿知賀の強さであり、またとない魅力だと思う(そういった意味では、オカルトチックなボーリング打法とレジェンド譲りの古風な打ち筋を使い分ける灼は阿知賀女子を象徴する人物だ)。穏の無茶苦茶ぶりと憧の堅実さのどちらかが欠けていてもこれだけのチームを結成することは出来なかった。このオカルトとデジタルの幸運な合致を経て生まれたドリームチームの活躍をこれからも見守っていきたい。

「待った」
「え?」

「千里山の江口セーラ……
 浜名湖で見たときの格好おぼえてる?」
「全然!!」

「あの人 普段とかインタビューでは学ランなのに
 試合ではちゃんと制服なんだよね」
「………」

「??」

「だからシズも制服を着て試合しなさいってコト!」ぽんっ
「えー」(汗)

(『阿知賀編』第17局「大将」)


>「あの人 普段とかインタビューでは学ランなのに試合ではちゃんと制服なんだよね」
 うん、それは知っている。
>「だからシズも制服を着て試合しなさいってコト!」
 うん、強引ではあるがいちおう筋は通っている。
>「だからあたしが今着ている制服とシズのジャージを交換しなさい」
 これが偏差値70は余裕系女子のロジックだ! どう考えても「テンションあげ」て「勢いだけ」で押し通しているぜ。氷の女であるアコちゃーは「スキだらけ」の穏にも一切の手心を加えないのだ! うむ、全国1000万人の咲ファンが「あんたぶっちゃけ穏と服を交換したかったんやろ!」と突っ込んだことだろう。ただ単に穏のフリーダムな服装を正そうと思っているなら、制服を持ってこさせるなり、ホテルで着替えさせるなりすればよかったはずだ。憧はアメニティーのシャンプーの残量すら気に掛けて行動を決定する(『阿知賀編』第7局「修行」)ような女の子である。おそらく、大将戦開始前ぎりぎりになってから制服の話を切り出したのも綿密な計画に基づいてのものだろう。件の超理論を押し通すにはあのタイミングしかないと思ったのだ。灼がいないときを狙ったのは正解だろう。ズバァと突っ込まれていたに違いない。アコちゃーが穏のウォーミングアップに付き合いながら、よからぬ思いを抱えつつ「……駄目だ まだ切り出すな… し…しかし…」とタイミングを推し量っていたのかと思うとふつふつと笑いがこみ上げている。そして、穏との衣装チェンジが終わった後の「うむ」の表情も実に素敵だね。一仕事やり終えたあとのような静かな充足感に満ちている。ここで憧が恥ずかしがっていたり、あからさまに照れていたり、「ホッヒヒw穏の脱ぎたてジャージクンカクンカw」と興奮していたりしたら面白くなかったね。スーパーデューパーな理論を押し通し、上半身だけの裸ジャージというエキセントリックななりをしているにもかかわらず、あくまでまじめくさった顔で「うむ」と頷いているのがシュール極まりない。却って憧の狂気本気度が伝わってくる。思えば、仲間から何かを受け継いで試合に臨むというのはスポ根漫画の伝統的な演出だ。それもユニフォームの交換ときたら王道中の王道と言える。じっさい、憧がレジェンドに続いて「それなら2速まで上げておこうか」と立ち上がったところまでは少年魂にびんびん響いた。そこから一転、あのようなフェティッシュかつ突っ込み所満載な展開につなげられるのは逆に凄いと思う。りつべは絶対に頭がおかしい。
ご満悦アコちゃー、一仕事やり終えた女の貌

(やっぱり原村さんはすごい!
 よーし…)
私も―――

「カン」
「!!」

(そう―――)
私も嶺に咲く
花のように―――

ダン
「嶺上開花 自獏 門清」
「ばっ」「倍満!!」
「4200・8200」

(第1局「対立」)


 最後に、穏の「100速まで仕上がった!」という発言について考察していきたい。乗り物についてはからきしなのだが、最高速が100キロという前提でギアが5段階だとしたら、1速なら20キロ、2速なら40キロと1速ずつ20キロ刻みで上がっていくイメージで合っているだろうか。もしギアが10段階だったら、10キロ、20キロと上がっていくのだろう。さて、我らが主人公であり魔物の候補生でもある(ころたんこと天江衣のお墨付き)穏は、自分らとウォーミングアップしてギアを2速、3速と上げておけと言うレジェンドと憧に対して「意味わかんないけど! 10速でお願いします!」とうそぶく。「いや、3速の次は4速でしょ? それにギアの数を増やしても刻む単位が細かくなるだけで最高速は変わらないのでは?」と思ったあなたは何も間違っちゃあいないが、魔物の思考にはまだまだ遠い。シズはおそらく、赤土さんがギアを2速まで上げてくれたら40キロ、憧のパワーで3速まで上がったら60キロ、そこから一気に10速まで上げて、最後は100速の2000キロでロケットスタートだ! というぶっ飛んだ論理展開をしているに違いない。いや、ひょっとするとさらに研ぎ澄まされていて、2速で「まだまだ!」、3速で「あったまってきた! 速い!」、10速で「もっともっと!」、100速で「完全にあったまった! すごく速い!」という境地にまで達しているかもしれない。とにもかくにも魔物に理屈は一切通用しない。高校100年生(by大星淡)って何だよ、4年生以降はただの留年じゃないか、数字が大きくなればなるほどバカじゃあないのか、と考えるのは一般人だ。100巡先(by園城寺怜)って何だよ、麻雀にそんな巡目があってたまるか、18巡まで見えれば充分すぎるでしょうよ、と考えるのも一般人だ。魔物にとって1速、2速の次は10速、100速であり、100年生はとてつもなく偉い! すごい! であり、100巡先を見通す目は千里眼! すごい! なのである*1。話題を遡ると、何の計画性も打算も無く「私もあの大会に出たい! 阿知賀女子で全国に行く! またみんなで遊びたい!」という思いのままに行動を起こしたら、いつの間にやら無名校にドリームチームが完成しているのが魔物なのである。魔物は「こうしたい」「こうありたい」という思いに合わせて理屈や確率をねじ曲げてしまう。私は割と真面目に、魔物の神懸かり的な力を支えているのはスケール外の世界観と固有の概念、我の強さなどではないかと考えている。

*1千里山女子の校名は怜の能力に掛けてあるんじゃあないだろうか。この記事を書いていてふと思った。

 いっそのこと『咲-Saki-』カテゴリを作ってしまおうか検討中っすわ。
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コメント

Re: タイトルなし
> 千里山はそのまま地名でむしろ怜の能力が地名から拝借してきたんでしょう。
 さようでございますか。

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Re: it’a true wolrd..
 七誌さん、こんにちは。

> なるほど『新子憧という名前』はシズのあり方に「憧」れている、ってことなのかなーと思いました。「千里」山もやはり怜の能力を意識して付けられているのでしょうね
 新しい打ち方(早さ重視の鳴き麻雀)+確立・打算にとらわれない人への憧れという意味合いかと思っています。

> 自分は照の『森林限界を越えた高い山でさえ、可憐な花が咲くこともある』という嶺上開花の解説が「清澄」という校名のネーミングの由来だろうと考えています。もちろん地名もネタ元としてあるのでしょうが…
> 清澄以外の他校もキャラソンに思わせぶりな歌詞を入れ込んでいたりと、考察を始めると興味深い点が多くなっていいですね。やっぱりリッツがナンバーワン!
 清澄もおっしゃる通りかと思います。清く澄んだという語感と「嶺に咲く花のように強く」を掛けているのでしょう。実際の地名にもあるらしいんですけど、チョイスがよいですよね。この人は頭のおかしい展開とレベルの高いネーム・練られた設定を交互に放ってくるから油断ならないです。

初コメント・・・ども

なるほど『新子憧という名前』はシズのあり方に「憧」れている、ってことなのかなーと思いました。「千里」山もやはり怜の能力を意識して付けられているのでしょうね
自分は照の『森林限界を越えた高い山でさえ、可憐な花が咲くこともある』という嶺上開花の解説が「清澄」という校名のネーミングの由来だろうと考えています。もちろん地名もネタ元としてあるのでしょうが…
清澄以外の他校もキャラソンに思わせぶりな歌詞を入れ込んでいたりと、考察を始めると興味深い点が多くなっていいですね。やっぱりリッツがナンバーワン!

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