2014年01月04日

阿知賀女子学院のIH準決勝における見事なリレー

 明けましておめでとうございます。「とっぽい。」は本年もまったりと『咲-Saki-』のこじつけ考察記事を更新していこうと思っているので、よろしければお付き合いください。
 今回は阿知賀女子のインターハイ準決勝における人間模様や連携をリレーにでも準えて解説したいと思います。

阿知賀女子学院 第一走者 松実玄
 玄はインターハイ二回戦において、自分が園城寺怜にチンチンにされて大量失点したことがチームを窮地に追い込んだ、と責任を感じていました。二回戦の祝勝会でも盛り上がる皆の輪から少し外れつつ浮かない表情をしています(脳天気すぎる描き方をしたアニメのスタッフは、反省してください)。玄は準決勝に「今度こそ皆に迷惑を掛けない」と悲壮な決意で臨みます。しかし、準決勝の卓にはその怜に加えてチャンピオンの宮永照まで馳せ参じています。「高校生一万人の頂点」に対して、玄の失点を恐れるあまり受け身になったプレイングが通じるべくもありません。前半戦は、照魔鏡で性質を見抜かれていたこともあって、テンパイもままならないままツモで削られつづけてしまいます。しかし、玄も黙って点棒を奪われるばかりではありませんでした。照の連続和了の打点が上がってきたところでのプレイングに違和感を覚え、彼女も自分と同様に何らかの制約と誓約を守っているのではないかと疑いはじめます。その疑念は、休憩時間に阿知賀女子の面子に同様の指摘をされて確信へと変わるのでした。

「もしかして……
 チャンピオンも玄と同じなのかも」
「え…なんで? 何が?」
「宮永照は過去に何度もこういう見逃しをしてるけど
 必ずその後に高い点で和了ってる
 だからその見逃しは王者の余裕だと思われていたんだ
 でもそれが本当は余裕じゃなくて 王者の弱点だったら…?」
「あ…」
「玄がドラを切れないように……」
「そう!
 玄のような仲間がいるから
 私たちはその可能性があると思える………」

『阿知賀編』第8局「最強」


「宮永照だけどちょっと気付いたことがあるんだ」
「打点制限?」
「気付いてたんだ…」
「なんとなく…だけど
 私のドラみたいな制約…? みたいなものがあるのかなって」
「もしそうならどこかで無理をする必要があるはず…」
「うん がんばってみる」

『阿知賀編』第8局「最強」


 こういった、チームメイトの存在が思考や能力形成に影響を与えている描写って、その選手およびチームをより魅力的に見せますよね。玄は阿知賀女子の全員で練り上げた秘策を携えて後半戦に臨みます。
 しかし、策を講じたところで簡単に止められないのが照の能力「連続和了」の手に負えないところです。後半戦でも照の勢いはおさまる事を知りません。結局、玄が怜と煌の目と目で通じ合う連携に助けられて勝負手を作ることができたのはオーラスになってからでした。しかし、玄はあと一手のところで、精神的にもプレイングでも拠り所にしてきた母親の教え(ドラを大事にする)を破ることを逡巡してしまいます。彼女の中でドラを切ることと母親との別離が関連づけられていたことは想像するに難くありません。そして「別れ」という言葉から思い起こされたのが、この戦いに至るまでに自分自身と阿知賀女子の仲間が経験してきた別れと再会のエピソードでした。

そうだった……

どうしても別れなきゃいけない人………

前に向かうために別れを選ぶ人…

見送る人

私はいつも待つ方だったけど

穏乃ちゃんや赤土先生
灼ちゃんや憧ちゃんは戻ってきてくれた

おねーちゃんとは 前よりもっと一緒に遊ぶようになった

和ちゃんは戻ってきてくれるかわからないけど
今一緒のお祭りに参加している

別れることはよくあることで
私は慣れてるはずだったんだ

今まで自分から別れを決めたことはなかったけど
前に向かうために
 
一旦お別れ

「リーチ…!!」

帰ってこなくても 私は待ってる

(『阿知賀編』第12局「逆襲」)


 このシークエンスが如何に人の心を打つかについては、過去の記事でさんざっぱら語ってきたので割愛しましょう(『咲-Saki-』と『ジョジョの奇妙な冒険』 能力バトルとパーソナリティ『咲-Saki-』能力バトル解説 制約と誓約、ロジックとカタルシス)。玄は土壇場も土壇場で、別れの辛さと共にある再会の嬉しさを思い出し、結果的に自分自身の限界を破ってみせたのです。そして、照の独走によって勝敗が決しかねないところを、自らの特質である爆発力でのラストスパートで食らいつき、後に続く仲間へと望みを託すことが出来たのでした。


阿知賀女子学院 第二走者 松実宥
 宥姉についてはこのつぶやきが全てを物語っていますね。

(玄ちゃん……)

(『阿知賀編』第13局「再会」)


 上述したように、能力者が発動条件を満たすために危険を冒すところをこちらもリスクを冒して迎え打つ、というのは先鋒戦で玄へと伝授された戦法です。このシーンにおける宥姉の脳裏には、先鋒戦のオーラスで涙を堪えてドラを切る玄の姿が思い浮かんでいたのでしょう。宥姉は普段こそぼんよりぷるぷるしていて頼りなさげですが、姉として強い責任感と矜持を持っていることは「私おねーちゃんだから」「今からおねーちゃんが取り返してきてあげるからね」(第5局「強豪」)といった発言や、玄が失点した後には宣言通り稼いでいることなどから伺えます。今回も、妹がやってのけたことを姉の自分ができなくて何とする、と思っていたのかもしれません。

「下手だったり 警戒しすぎたりで偶然かわせることがあっても――
 弘世菫はそのまま2射目を構える」

でも その時弘世は
こちらと同じで無理をしている

タン チャ

無理をしているってことは
隙があるってこと――!!

「ロン 12000」

(『阿知賀編』第13局「再会」)


 宥姉は玄の戦法……もとい決死の覚悟を引き継いで、菫さんの「シャープシューター」の隙を突き、見事退けることに成功したのでした。
 ちなみに、阿知賀女子で区間賞を取ったのは宥姉だけです。おねーちゃんで最年長者の面目躍如と言ったところですね。


阿知賀女子学院 第三走者 新子憧
 宥姉から憧へのリレーはとても分かりやすいですね。身体接触ですからね(笑)。

「! 宥姉!」
「憧ちゃん」
「宥姉凄いド安定! 地区予選からずっとプラスだもんね」
「今日は赤土さんのおかげ…」
「私も負けてらんないっ」

ギュウ
「えっ…なっ…何……?」
「頑張った宥姉を暖めてんの ってのはウソで」
「ウソなの!?」
「勝ち続けてる宥姉から運を分けてもらおうと思って…あと胸も」
「良いけど……私のでよければ」
「ありがと」
ギュウ
「震え、止まったわ」

『阿知賀編』第14局「混戦」


 憧は向こうっ気が強いせいか常に自信に充ち満ちているように見えますが、あれでなかなか臆病なところがあります。この度も強敵のひしめく準決勝の大一番を前にして震えていました。しかし、試合へと向かう廊下で、全国の舞台でも安定のプレイングを続ける宥姉からツキと体温を分けてもらい、ついでにおもちを堪能して英気を養ったことでテンションを張り直し、全国でも屈指の実力者であるセーラに見事な啖呵を切りながら卓に付いたのでした。試合においても強豪校の上級生たちから二位をもぎ取り、一年生としては快挙と言えましょう。


阿知賀女子学院 第二第一走者 赤土晴絵
阿知賀女子学院 第二第二走者 鷺森灼

「灼
 そのネクタイ着けてくれるのは嬉しいんだけどさ…
 準決勝には縁起…悪くないかな…?」
「……
 何言ってるのハルちゃん」
「?」
「私が今ここにいるのは このタイのおかげもあるんだよ だから…
 連れて行く 決勝まで……!!」

(『阿知賀編』第15局「関門」)


 私が阿知賀女子を魅力的だと思うのは、一枚岩でないところです。組織の派閥といいますか、成立する過程のラインといいますか、そんなものが複数本存在しますよね。あれが人間模様を面白くしているし、チームを強くしている一因でもあると思います。さて、憧と穏乃は腐れ縁な幼なじみのライン、宥と玄は仲良し姉妹のラインで、灼は憧れの人であった晴絵のラインでこのチームに参加した人間です。灼は晴絵とのやりとりで、かつての自分が麻雀に打ち込んだきっかけである彼女との縁を再認識し、文字通りのタスキを締めなおして試合に臨みます。

「私もね 部長だったんだよ 一年生だったけど」
「へぇ」それは知ってた
知らなかったのは その重み――

多くの人たちの期待――

責任――

託されたもの――

多くの人の想いをのせて 今ここにいる

ハルちゃんも昔―― こんな気持ちだったのかな――

あの頃は私がハルちゃんに想いをのせてた―
でも今 私がのせていく――
多くの人の想いとともに――
あの人の想いを――

(『阿知賀編』第16局「憧憬」)


 灼は沿道からの後援者や未来の後輩たちによる声援を受けながら、持ち前の異能と晴絵譲りの古風な打ち方を使い分け、新道寺のエース・白水哩と千里山のブレイン・船久保浩子の猛追を振り切り、白糸台との差を着実に詰めて完走したのでした。部長の肩書きに負けない背負いっぷりだったと思います。


阿知賀女子学院 アンカー 高鴨穏乃
 最終走者である穏乃は二本のラインからバトンを受け取ります。今まで語ってきたとおり、一本目は松実姉妹から憧へと渡されたもので、もう一本は晴絵から灼へと引き継がれたものです。

「待った」
「え?」

「千里山の江口セーラ……
 浜名湖で見たときの格好おぼえてる?」
「全然!!」

「あの人 普段とかインタビューでは学ランなのに
 試合ではちゃんと制服なんだよね」
「………」

「??」

「だからシズも制服を着て試合しなさいってコト!」ぽんっ
「えー」(汗)

(『阿知賀編』第17局「大将」)


 しずは試合前の特打ちと憧との衣装交換(憧の脱ぎたてホカホカの制服を着て穏乃のボディも覚醒! byメガミマガジン)で、本人が言うところの100速までウォームアップを仕上げます。さて、ここでは憧が着ていた制服のぬくもりが元を辿れば宥姉から譲り受けた分も混じっていることに注目してほしいですね。しずと宥姉はじっさいそこまで交流がない間柄ですが(身も蓋もない)、そんな二人の橋渡し的な役割を果たすのが憧というのが何とも象徴的です。阿知賀女子の人間関係におけるキーマンが自然と見えてきますね。大人しくてあまり自己主張しない子の多い阿知賀女子を回しているのは憧のちゃっかりもといパーソナルスキルなのでしょう。

「灼さんおつかれさまです!」
「制服……?」
「憧に借りたんだけど これ着てるとなんか…
 自分が阿知賀の生徒って感じしますね」
「最初からそうだけどね……」ズバア
「まぁ がんばってほし…」

(あとはよろしく 「阿知賀」の大将)
(はい! 精一杯やってきます……っ!!)

(『阿知賀編』第17局「大将」)


 そして、図らずも阿知賀女子のユニフォームを纏ったしずは、「阿知賀」の大将として「阿知賀」の部長であるところの灼からタッチを受けて、決戦の卓へと向かうのでした。最終順位は皆さんご存じの通りです。

 このように、インターハイ準決勝における阿知賀女子メンバーの動きは、若き日の晴絵の躍進と挫折が全ての起因となって、玄の皆を待ち続ける強い思いが第二の始まりとなり、最後に人の流れを統合して動くのがしず……と、(いくらか時系列と走順が前後していますが)新生阿知賀女子の成立を準えているのではないでしょうか。加えて、憧がグループをまたいだアグレッシブな動きをしていたり、宥姉が玄のミスをサポートする一方でその存在に助けられていたり、灼は部長としての本分を静かに全うしていたりと、普段の人間模様が透けて見えるのが非常によいと思います。
 また、記事のタイトルにリレーと入れはしましたが、各選手への影響が一方向ではなく、相互補完的に入り乱れているところも面白いですね。玄の第一走からして「最初からクライマックス」タグを付けたくなるほどのドラマティックな展開でした。彼女のモノローグから分かるように、オーラスでのドラ切りは阿知賀女子全員の想いが導いた結果なのです。もう一人の第一走者である晴絵も、決勝卓の下見というウィニングランで、教え子たちの勇姿を胸に、彼女の勝負所におけるイップスおよびに新生阿知賀女子成立の元凶である小鍛治健夜に対して不敵な復帰宣言と宣戦布告を行い、『咲-Saki- 阿知賀編』という物語そのものを締めくくっています。晴絵と玄の二人は『阿知賀編』の第一走者であると同時にアンカーでもあると思います。

 本文は以上になります。私はインターハイ準決勝Aブロックの連載を、毎月々々雑誌の発売日をそわそわしながら待ち、発売日にははやる気持ちを抑えて1ページ1ページを噛みしめるようにして読み、読み終わった後は興奮醒めやらぬうちに感想を読み漁り、つまるところ大いに楽しんで読ませてもらったのですが、(主に大将戦について)不満点もなきにしもあらずだったので、それについてもいずれ書きたいと思います。
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tags: 咲-Saki- 考察 

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