2014年06月23日

ケッヘル 中山可穂

上巻
48
 男と女のように欠落を補い合ってひとつになる愛ではなく、女と女の愛は欠落を食い尽くして溶け合い、ともにゼロになっていく破滅の愛だ。どのようにはじまり、どのような変遷をたどっても、必ずそうなる。決して長続きはしない。なぜなら女と女は子供ができないからだ。性色を伴わない愛は、妥協も変質も利かない剥き出しの厳しい愛なのだ。長続きするケースがあるとすれば、恋が終わり燃え尽きたあとで肉親のように離れ難く結びついてしまう場合だけであり、それはもはや恋でも愛でもない。ただの惰性だ。男と女は惰性でもつながっていられるが、女どうしは難しい。あとには灰も残らない。

373
「必要なとき、モーツァルトは向こうから来てくれる。まるで神のように」

下巻
204
 ぼくは多分、美津子に注ぐべき愛情を瀕死の子猫に振り向けることで、どうにかバランスを取ろうとしていたのだと思う。人が動物を撫でたりさすったり抱きしめたりするのは、自分が誰かにそうしてもらいたいからなのだ。

409
 わたしもアンナと朝のかるいケンカをしてみたい。胸に小さな棘を刺したまま仕事に出かけて、一日中気に病んで、ゴメンと言うかわりにケーキを買って帰りたい。そうしたら向こうも照れ隠しにケーキを買って帰ってきて、胸やけを起こしながら一緒にケーキを食べるのだ。仲直りをするために、ケンカをしたい。犬も食わないささいなケンカをしてみたい。ヒステリーを起こしたアンナに頬っぺたを引っ掻かれてもいい。枕を投げつけられてもいい。わたしは疼くようにアンナに会いたいと思った。アンナと生きたいと思った。毎日おはようと言って、ただいまと言って、おやすみと言って、愛してるというのだ。相手がいなくなってもつい話しかけるまで、長い時をともに過ごすのだ。ケンカする相手もいない穏やかな孤独など、わたしはもうまっぴらだ。

ケッヘル〈上〉 (文春文庫)
中山 可穂
4167726025

ケッヘル〈下〉 (文春文庫)
中山 可穂
4167726033


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海に向かって指揮棒を振る男がいる。という書き出しからして素敵
どこか村上春樹テイストのある小説 またいつか筆者のサイン会に行きたい

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