2014年07月29日

クロスクオリア レビュー・感想 掴みの弱い人間ドラマ、少なからず不快なSF要素

 百合ゲーマーの聖典とされる『カタハネ』以降、三本続けて言葉に困る評価の作品を発表しつづけていた、笛&J-MENTコンビの最新作『クロスクオリア(ひとりのクオリア・ふたりのクオリア)』の感想です。延期の悪質な常習犯と課していて、聞くところによると予約開始から一年ほど引き延ばしていたらしいですが、ようやく発売されました。さて、『カタハネ』の奇跡をもう一度……と一心不乱に祈りを捧げていた方には酷なお知らせですが、『Volume7』の系譜です。あらすじにはそんなことは一言も書いていないですが、超自然要素が唐突に登場する超展開です。それと、始めに断っておきますが、続編商法です。あれだけ延期をかましておいてこの上企業倫理を疑われる商法を仕掛けるとは、なかなかロックですね。
 私はそもそも『カタハネ』をそこまで評価しておらず、この原画・脚本コンビに大して思い入れがなかったのでダメージは少なかったのですが、『カタハネ』の幻影を追い求めていた人は絶望するかもしれません。センスオブワンダーに満ちたSFや、謎が謎を呼んでリターンキーを押す手がもどかしいようなミステリーや、胸をしたたかに打つ人間ドラマにはほど遠く、凡百の脚本です。笛のデジタル画集として考えようにも枚数が足らず、私はあまり価値を見出せませんでした。どうせなら笛絵の柔らかい雰囲気を害さないような当たり障りのない脚本にするか、あるいは居直って『Volume7』以上の笑える超展開ゲーを目指してくれた方がネタとして面白かったのですが。どっちつかずはよくありません。


凡ゲーの分割商法許すまじ
 早い話が続編商法です。物語の最後で『おわりのクオリア』こうご期待! と宣伝されました。私はたぶんパスしますけど。『ひとりのクオリア』『ふたりのクオリア』の二本を読破しても話は全く締まらないし、垂れ流した謎は投げっぱなしです。『ひとり』に至っては物語の終了三十秒前で超展開を始める始末です。『Ever17』でいうと、主人公が鏡で自分の顔を見たシーンで次回へ続く! といった感じですかね。あちらとは先が気になる度合いがダンチですが。私は二つのソフトがインストール済み、かつコンプリートデータが存在する状態で何かしらのアップデートを行うと、二作品をクロスオーバーする最終シナリオが解放される! という、『大地の章』『時空の章』というか『EVE burst error』的な展開を期待をしていたのですが、別にそんなことはなかったぜ! 笛のシナリオ担当さんに対して期待値を高くしすぎましたね。
 エロゲー史を遡ると、作品の形態にしろ発売予定日にしろ、ユーザーの意向に沿った形で発表出来なかった作品は多数あります。揚の『マブラヴ』しかり、鍵の『CLANNAD』しかり、ケロQの『素晴らしき日々』しかり、Navelの『俺たちに翼はない』しかり。最近だと型月の『魔法使いの夜』が事前予告なしの続編商法をやりましたっけ? 彼らの商売に対する姿勢はお世辞にも褒められたものではありません。しかし、何故彼らの不遜な態度が最後には許されたのかと言えば、最終的にエロゲー史へ残る傑作をものしたからです。面白いは正義です。面白い作品を作った奴らは、悪党だろうが正義なのです。ただそれのみによって、彼らは無罪を勝ち取ったのです。さて、さんざん延期したくせに続編商法を隠していた『クオリア』は、あれらの作品に質にしろ量にしろ匹敵するモノになるのでしょうか? 百合ゲーマーの色眼鏡を抜きにしても、現状その望みは薄です。なので私は今のところ、思い上がるなよこの野郎、自分を知れと呪詛を吐いております。万が一、『おわりのクオリア』のよい評判を聞いてプレイし、満足の行く出来だった場合は手のひらをくるっと返してマンセーを始めるので、お許しください。
『FLOWERS』といいこれといい、百合ゲー業界で分割続編商法が流行っているのでしょうか。どっちも引き延ばしをするほどの御大層な話には思えなかったのですが。


導入部の貧弱な人間ドラマ
 私は『ひとりのクオリア』から読みました。こちらは強引極まる導入部があまりにも説得力が欠けていて、奥歯に小骨が刺さったような不快感があったのですが、結局それが消える前に話が終わってしまいました。物語の始まりがどんなものかというと、不登校でネトゲ廃人の女学生(主人公)がたまたま出かけた際に交通事故に遭いそうになり、そこを黒髪で帰国子女の女学生(新たな生を受けてから三百余年さん)に助けられる、後日主人公と三百余年さんが町中で再会し、主人公がお礼に街を案内して家へと招待したことから二人の奇妙な同棲生活が始まる、という流れです。「いや、同棲生活が始まる……言われても、何でその流れからそうなるの」と疑問に思ったあなたは間違っていないと思います。私はこの作品のキャラクター、特に三百余年さんの行動理念がいまいち理解できませんでした。人寂しくてまた友達を作りたかったであろう主人公はともかく、自分も学生の身でありながら縁もゆかりもなかった人間の家に上がり込んで、まめまめしく世話を焼き、引きこもりを脱却させるべく生活改善計画に燃える、三百余年さんの熱情がどこから沸いてくるのかさっぱり分からなかったです。少なからぬ狂気を感じました。ちなみに私は「底抜けのお人好しだったから!」というラノベ風俺のキャラSUGEE理論や、「運命の相手だったから!」というスイーツ理論では到底納得しませんので、あしからず。私は既にこの時点で、一歩引いたところから醒めた目でこの物語を眺めております。さて、どうやら三百余年さんも学校に通っている形跡が無く、日常会話からドイツだかの帰国子女で、母親とホテルに逗留していることが情報として提示されます。何やかや複雑な家庭の事情がありそうではないですか。エキセントリックらしい「お姉様」の存在も実に思わせぶりです。私はてっきり、それらの詳細がいずれ明かされ、三百余年さんの人格形成に影響したエピソードなどが挿まれて、彼女の核にある価値観、哲学などが判明するものと思っていたのですが……別にそんなことはなかったぜ! 気づいたら三百余年さんが「ふたりが並んで歩き始めれば、それだけ道に落ちる影――問題も大きくなる……新たな生を受けてから、三百余年……」とクソポエムと共に超常の存在あるいは人外であることを語りだして、物語がぷつんと終わってしまいましたからね。まともな人間ドラマを期待していた身としては、最低限の背景すら示してもらえなくて、心底落胆しました。私にとっては最初のとっかかりすらなかったわけですからね。話にのめり込めるわきゃあないのです。
 この作品は主人公とヒロインの視点がころころ入れ替わるので、三百余年さんの一人称視点で物事が語られることも多々あるのですが、この人が何を思って何をしたかったのかは最後までさっぱり伝わってきませんでした。不必要に思えるほどの一人語りがあれだけあったにもかかわらずです。これは逆に凄いと思います。
 他に細かな点で嫌だったところは、物語序盤で主人公が電波で花畑な独り言を甲高い声のフルボイスで読み上げてくるところ。耳をつんざくあれは初っぱなから読み進める意欲を殺してくれました。あの声でネトゲの専門用語をしたり顔で並べ立てるところなんか、悪い意味で胸が苦しくなりましたよ。ボイスをオフにしようか真剣に悩みましたからね。声優さんを糾弾するのはかわいそうなので、つまらないテキストに罪を擦り付けておきます。後は、主人公と三百余年さんのロリ型が見ていて不安になるレベルの華奢っぷりなところ。『カタハネ』時代の笛が描くロリはこれほどの奇形ではなかった記憶があるのですが、思い出が美化されていますかね。お風呂で三百余年さんが主人公の身体を洗ってあげるという、制作者としてはムフフなお色気イベントとして作ったであろうところも、「手足がキリギリスの足みたいにバキバキ折れやしないか」という不安が先立ってちいとも目が楽しくなかったです。……シナリオが面白くないと、それ以外の要素に対する当たりが厳しくなります。
 よかったところはほとんど思いつかないのですが、主人公が合い鍵とベランダへの避難の話を実践して三百余年さんの帰りを待つエピソード。あれはただの冗談だと思って聞き流していた話がキーになって物語を動かすところにしてやられた感があってよかったですね。そして、主人公の精神的成長と三百余年さんを想うけなげさに少しほろりとしました。あそこ以外は、本当に何もなかったです。
『ひとり』に比べれば『ふたりのクオリア』はいくらかマシな出来だったと思います。悲しいかな『ひとり』と同様に導入部には説得力が欠けています。私には一介の女学生である主人公が何故そこまでしてコナンくんみたいな声でしゃべる銀髪お姉さんの保護を買って出るのか分かりませんでした。裏道で一人雨に打たれていたシチュエーションや全身に残る暴力の痕から、明らかにトラブルの匂いがするのですが。現代日本(ちなみに舞台は現代か近未来の日本で、横浜、金沢文庫などの地名は実在のものです)の倫理観ではどうにも理解できません。また、序盤におけるコナンさんの、場末のホストみたいな、へっぽこ乙女ゲーに出てくるイケメンさんのような、ドン・ファン気取りの口調(これをコナンくんみたいな声での「あれれ~? 身体が熱くなっちゃってるよ~?」調でやるのでうざさの倍率ドン)と振る舞いに辟易しなかったと言えば嘘になるでしょう。主人公がそれに律儀に付き合って「だめよ、このままじゃあまた彼女のペースだわっ……」「だめっ、雰囲気に流されちゃ……」「ちょっと、二人きりでデートってどういうことなの!? だ、だって着ていく服とかないし……ってそういう問題じゃなくて! デートって言う単語自体が……」とこれまたへっぽこ乙女ゲーのテンプレートな反応を返すのが薄ら寒くなかったと言えばまた嘘になるでしょう。序盤から中盤にかけては掛け合いがクソつまらなかったです。Ctrlキーに指が伸びたのが一回二回ではありません。しかし、コナンさんにしてみれば都合のよいヒモ生活だったはずが、共同生活を続けていくうちにお互いのテリトリーに踏み込むようになり、気づけばずぶずぶになって双方とも離れがたくなっていく描写は、丁寧な積み重ねがあって感情移入できました。ベタっちゃあベタですが、部屋の模様替えや買い物、料理といった共同生活の空気が伝わってくる描写がよかったですね。後は、主人公が『ひとり』の主人公を救うためにアプローチするのをコナンさんが独自の価値観で支えていくところや、見ていて小っ恥ずかしくなりましたが、インテリアとして拾ってきたポストを使ったいちゃいちゃ文通ごっこや、バイトが跳ねた後のお迎えデートなどで二人の距離が段々と縮まっていくのを違和感なく表現していたのは素晴らしいと思います。掛け合いのつまらなさも、コナンさんにプレイボーイ気取りをする余裕が無くなって、本心からの言葉を吐露しはじめて、主人公はコナンさんにやられたことを吸収して反撃しはじめるあたりからは、段々と緩和されていきました。
 シナリオ以外の要素についていくつか。エピローグまで超自然要素の存在をひた隠して、どんでん返しで脂下がった面をしていた『ひとり』と異なり、『ふたり』はプロローグの時点で主人公が持つ「自分の選択によって分かれる世界を同時に視認する」というエヴェレット解釈的能力を提示しています。あれは潔いと思いました。この能力自体は珍しくも革新的でもないですし、こんな能力を発現させるに至った課程が一切説明されない(続編に持ち越しなんでしょうなぁ)ので説得力も薄いです。しかし、IFの世界が読者に提示されることで、例えば、物語の始まりでコナンさんを部屋に連れ込む強引さにある程度の説得力が生まれていると思います。また、二人の共同生活が終わってしまうかどうかの分岐点での、変則的なテキストウィンドウの画面構成を使った演出は凝っていましたね。主人公が異なるアプローチで始めた説得が、最終的に同じ答えに向かい、一つの世界へ収斂していくさまは、主人公の覚悟と想いの強さがびりびりと伝わり、声の演出も相まって迫真でした。能力自体の妥当性はさておき(一切説明が無いんだもの)、その魅せ方で説得力を補強しようという心意気やよしです。
 また、色素薄めな配色、ウェーブのかかった髪、一般的な女子の制服で全体的にフェミニンなファッションの主人公と、褐色肌でスタイルがよく、ラフな服を着こなしていて重心が高いコナンさんの取り合わせは、我が目を大いに楽しませてくれました。やっぱり笛絵はええっすわ。個人的に、絵面が目で見て楽しいかどうかはビジュアルノベルを読み進める際の心証に少なからぬ影響を与えるのですが、そのことは『ひとり』との対比で再認識しました。また、二人の容姿や性格が安直に関係性や夜の役割へと直結してないのもポイントが高いです。前述の通り、物語の序盤は割と紋切り型で、王子様チックなコナンさんが甘い台詞やなれなれしいボディタッチで主人公を誘惑し身体を許そうとします。これについては茶番臭がして全く乗れなかったです。コナンさんが延々主人公をいたぶり続ける一回目のエロシーン(「ダメっ! 汚いから!」「汚いとかあり得ないよ」「お願い……許して……」)はエロくも何ともなかったです。出来の悪いレディコミかよと。それに引き替え、お互いに本心や弱さをさらけ出した後に営まれる二回目の官能シーンのえろいことえろいこと。まじめくさって、かたや誘惑して搾取する側、かたや流されて差し出す側という上っ面の関係から脱却し、対等に相手を想うようになった二人の関係性の変化が表れた感動のシーンと解説してもよいし、シンプルに過去のいたずらがあだになって逆襲されるコナンさんかわいい、リバかわいいと楽しんでもよいでしょう。ほほえましくもエロチックなよいシークエンスでした。あー、このシナリオ・原画コンビで何が一番評価できるかって、女性同士による官能シーンの安定感かもしれませんね。細かい描写は外部ライターの仕事かもしれないですが、それはそれで監修や指定をようやってるなぁと思います。
 惜しむらくは、何度も言っている通り導入部の弱さ。掴みが弱すぎる上に序盤の掛け合いや展開がくっそつまらない。ただでさえつまらない上に、ライターさんの掛け合いに関する引き出しが少ないのか、『ひとり』と似たようなやりとりが頻出するのでほとほとうんざりしました。常人には理解しがたいレベルのうじうじした思考の堂々巡りと、相手の話を意味不明な思考回路から別れ話だと勘違いして「最後にこれだけは言わせてくれ……」「ちょっと、最後ってどういうこと?」というやりとり(要するに犬も食わないのろけなのです)を見たのは一回や二回ではきかないと思います。もう少し個々の質を上げて、バリエーションを持たせる努力をしてほしいです。それが出来ないならがんがん削ってください。波瀾万丈のストーリーでもないので、もっとテキスト全体の分量を削れたはずです。それと、結構な分量が割かれている、『ひとり』の主人公が抱える問題を解決するパートですが、こちらの主人公の中で彼女の問題が占めるウェイトがいまいち分かりませんでした。主人公がコナンさんと対等な立場になった上で相手をやり込めるところと、『ひとり』の主人公の問題解決のパートで、ドラマの山場がどっちつかずになっているように感じました。そして、コナンさんは始まりの日に記憶喪失になっていて、全身に暴力の痕が残っていましたが、あれは一体どんな流れだったのですか? 話の展開上何の意味があったんですか? 意味ありげだった割に何の説明もなく話が終わってしまいましたよ。この上続編を買わされるのは遠慮したい私にとっては、作者が伏線を丸投げして話が尻すぼみになったのに等しいのですが。彼女と敵対する存在や組織が登場して後半は緊迫の展開を迎える、とかそういった展開の予想をしていた私がバカでした。

独立したカップリングの物語でありながら、クロスオーバーの要素も備えた 『ひとりのクオリア』 『ふたりのクオリア』 をセットでパッケージ!

(作品の紹介文から引用)


 紹介文に偽りありでしょう。前編だけで独立して完結していないじゃあないですか。
 しかし、キャラクターが取る行動の説得力、能力の演出、官能シーンの淫靡さとほほえましさなどから総合的に判断して、『ひとり』より若干完成度が高いと思います。完全にぶつ切れのところで「結末が気になる人は続編を買ってね♪」である点と、『ひとり』とリンクする部分が薄っぺらいことを加味しても、佳作と言ってよいでしょう。

 現実味が薄くて掴みの弱い人間ドラマを読ませるには、相応の筆力と構成力が必要です。キャラクタと舞台設定の作り込みを過不足無く行い、読者に提示する情報の取捨選択、順序の考慮、適切なペース配分に注意し、キャッチーかつ必然性の感じられるエピソードを違和感なく挿入し、書き込むべき場所はあらん限りの力でディテールや心情を書き連ね、不必要なところは客観的かつ冷徹な目でばっさばっさと削らなければなりません。そうでもしなければ、醒めた目から入った読者の首根っこを掴んで物語に引きずり込めるわけがないのです。笛のシナリオ担当さんは、ロリっぽい女学生ズ&イケメンのヒモとそれに流される女学生の嬉し恥ずかし同棲生活を書きたい! という欲求が先立っていて、そこに至るまでの過程やキャラクタのバックグラウンドに説得力を持たせるのをおっぽってませんかね? 特に情報の取捨選択と開示していく構成の考慮については、職務怠慢のレベルだと思います。


SF(少なからず不快)
 唐突に『地球最後の男』『CROSS†CHANNEL』『恋はデジャ・ヴ』のネタバレをねじ込んだので注意されたし
 私はSFという広大なジャンルのごく一部にしか触れたことがなく、ジャンルに対する思い入れも格別深いわけではありません。んだもんだて、したり顔でSFとはかくあるべき論を展開するのはおこがましいし、説得力もないでしょう。SFの魅力とは? SFの何が面白いのか? と人に聞かれても、底の浅い答えしか返せません。しかし、私が気まぐれで有名どころのSF作品に触れたときは、ほとんどのものを面白く鑑賞することが出来ました。SFに限らない話ですが、後世に名を残すような名作というのは、ジャンルへの造詣や専門知識の多寡を問わない、普遍的で全人類的な面白さを備えている、というのが持論です。
 例えば『地球最後の男(アイアムレジェンド)』。この作品は主人公が吸血鬼化した全人類に抵抗するサバイバルホラーの側面や、人間が怪物化する現象を科学や病理学によってもっともらしく説明するサイエンス・フィクションの側面もあり、それだけでも楽しめました。加えて、身体能力・生命力で吸血鬼に劣り、生存数では圧倒的にマイノリティであったはずの主人公が、いつの間にか吸血鬼たちにとってのレジェンド(伝説の怪物)へと変貌している、と言うオチには仰天させられました。よもやコミュニティ論やマイノリティ・マジョリティ論にまで踏み込んでいるとは。あれを超える「どんでん返し」にはそうそうお目にかかれないと思います。
 例えば『CROSS†CHANNEL』。この作品はループものエロゲーの金字塔的作品です。まず、刹那的な快楽と暴力、徐々に減っていく構成員、摩耗していく自我、というお約束を押さえています。そして、この作品はお約束を踏襲してからの逸脱のさせ方、発展のさせ方が凄まじく上手いのです。全く予想外だった“ループ逃れ”の登場には背筋がぞくぞくしましたし、その現象を利用して「攻略ノート」を作成し、無限に繰り返される時の中で群青色を抱えた仲間を救い、自身の孤独を癒そうとする主人公の姿は、真摯で胸を打つのと同時に滑稽なメタ・ギャルゲーとしても映ります。また、時間の死んだ世界に隔離された原理は物語の終盤になって明かされるのですが、主人公が特殊な環境で育ったことで備わった、タペタムを持つ目の観測に因る、という説明も(理屈はともかく)筋が通っていました。
 例えば、ループ繋がりで『恋はデジャ・ヴ』。この作品は、一日が無限に繰り返される理由や、最後にループが収斂する理由はついぞ明かされません。ウッドチャックくんは関係なかったみたいですし。しかし、それを理由にこの作品を説得力がないと評するのはナンセンスでしょう。この作品の何が面白いかって、主人公が延々と繰り返される一日の中で、最初は混乱してとまどい、現象を理解してからは短絡的な享楽に耽り、やがて視線が他者へと向かって、自分の人間を磨き、最後は他者を幸せにすることで自分自身が幸福になる、という主人公の行動の変遷、ひいては価値観の変遷が面白いのです。この作品には確かに哲学や幸福論が息づいています。であるからして、ループの理由付けがないことは些末なことでしかなく……いや、むしろ特別な理由が無くて不条理であるからこそ、主人公が最後に到達した境地がより尊く感じられるのだと思います。
 長々しく書いてしまいましたが、私が特に面白いと感じたSF作品の共通点を洗い出すとこんなところです。サスペンス、ミステリー、人間ドラマなど、別の側面から見ても面白いこと。超常現象の設定に説得力があること。超常の設定を飛躍させて展開していく過程が面白いこと。哲学、思想、人間論が存在すること。こんなところです。
 して、『クロスクオリア』がどうだったかというと。スタートで蹴躓いている人間ドラマ(共通)、サスペンスを匂わせた割には大した事件もなく平坦なシナリオ(『ふたり』)、何ら説明されない超常現象の原理(『ふたり』)、発展するどころか物語の終了30秒前で存在が明かされる超自然要素(『ひとり』)、哲学も思想も精神性も何一つ見あたらない脚本(特に『ひとり』)と、私の評価基準にほとんどかすりもしません。超常の能力をドラマの一部に組み込もうとする努力の跡が伺える『ふたり』はともかく、『ひとり』の超自然要素はお手軽に読者へ衝撃を与えるためのダシでしかありませんでした。超展開のための超展開です。こんなしょうもないネタのために情報を制限し、人間ドラマへの没入を邪魔したのでしょうか。作劇に対する敬意のなさに、少なからず不快にさせられました。


『Volume7』の恐怖再び! 独りよがりの超展開
 唐突に『Ever17』『マルホランド・ドライヴ』『シックス・センス』『情婦』のネタバレをねじ込んだので注意されたし。
 笛のシナリオ担当さんが『Volume7』で罹った悪い病気は完治していなかったみたいですね……。世の中にはよい超展開・どんでん返しの作品と悪いそれとがあると思います。前者に該当する作品でぱっと思いつくのは『Ever17』『マルホランド・ドライヴ』『シックス・センス』『情婦』など、後者は『Volume7』や『ひとりのクオリア』です。前者の作品の何がよいかって、限りなくシンプルなのがよいですね。『Ever17』は、一方は2017年の出来事でもう一方はそれを再現した2034年の出来事、『マルホランド・ドライヴ』は現実と夢破れた少女が死の間際に見た悲しい夢の交錯、『シックス・センス』は主人公自身が幽霊だった、『情婦』は事件解決の鍵を握っていたはずの情報提供者が容疑者側の人間、とミスリードの要素を一言で説明できる単純明快さがよいのです。そのことが認識されるだけで、頭の中でばらばらになっていた情報が一つの線で結ばれ、違和感を覚えていた部分、辻褄が合わなかった部分が一瞬で腑に落ちる快感がありました。ああしたすっきり感こそ、由緒正しいどんでん返しの快楽ではないでしょうか。そして、『マルホランド・ドライヴ』の非現実的、非論理的でロマンチックな夢からは、却って夢にも恋にも破れた少女の絶望が伝わってきて胸が苦しくなりますし、『シックス・センス』の種明かしからは、かつての患者を救えなかった苦悩の深さ、死してなお妻を思う愛の深さが伝わってくる。かの作品らが傑作たる所以は、どんでん返しを単なるびっくりどっきりの飛び道具として消化するのではなく、価値観の逆転、関係性の逆転へと昇華していることだと私は思っています。
 一方、笛のライターさんによるどんでん返しに覚えるのは、いつも唐突感と消化不良感と徒労感です。「有り触れたガールミーツガール……と見せかけて、片割れは三百余年を生きた超常の存在だったのでした~!!!」「よくある学園部活動モノ……と思わせて、極秘の何とかプロジェクトの一環だったのでした~!!! このキャラは秘密組織の一員でこのキャラは敵対組織の……」と言われても、私ぁ「そっスか~」としか返せません。だから何だっつうのでしょうか。このライターさんの作品からは、読者をあっと言わせたい、衝撃の展開だと評価されたいという下心が透けて見えます。その欲求先にありきで、叙述トリックや七面倒くさい設定を導入する妥当性をろくに検討してないように感じます。それらが障害になって人間ドラマへの没入を妨げているようでは、少なくとも恋愛ゲームとしては失格ではないでしょうか。
 身の丈にあったものを作りましょうよ。


タイトルの「クオリア」について

 これまで、何回か彼女の身体に触れたことはある。
 でも、それらとは違う。
 服越しに伝わる肌の柔らかさが、直に心を温めてくれる。
(――ひとりじゃないんだ……)
 花梨が、横に居る。
 見れば解る。
 ニオイで判る。
 会話はないけど、ちゃんと認識できる。
 彼女の“何か”が欠けたら、それだけで不安になる。
 だけど、“何か”がひとつでも『花梨だ!』と認識できたら、それだけで安心できる。
(――不思議……)
 あたしにとって、花梨は何なんだろう?
 花梨にとって、あたしは何なんだろう?

(『ひとりのクオリア』)


 自分が引っかかったのはここくらいだった。 


その他の要素について
 笛の原画も塗りも相変わらず綺麗ですが、枚数が絶対に足りていません。エロシーンなんて全然動きが無いじゃあないですか。私ぁ2010年代の作品でCG鑑賞モードが一画面で収まるのを見たのは初めてですよ。何と言ってもこの作品、キャラの立ち絵が存在しないという今日日珍しいエコ設計なのです。その分数を描かなきゃ駄目でしょうよ。物書き担当の人がお世辞にもキャラの書き分けが得意とは言えないのですから特に。私は『ふたり』に登場する友人ズの顔と名前と設定が一致しません。代わりなのかよく分かりませんが、いにしえのビジュアルノベルの形式で、テキストが縦書きで全画面に表示されます。私の環境だと、デフォルトのフォントでは文字の左側が欠けて判読が困難だったんですけどね……。まあ、私の環境が悪いのでしょう。たぶん。
 音楽については「クソゲーは音楽がやたらよく聞こえる法則」なのか、「九十九折りサイクリング」「おわりのクオリア」などが気に入ってしまいました。現在ループで聞いています。
 バックログがまともに使えないのはどうにかしてください。


まとめ
 ライターの「こんなドキドキのシチュエーションが書きたい!」「どんでん返しで読者に衝撃を与えたい!」という欲求ばかりが前面に出ていて、人間ドラマは説得力が足らず、サイエンスフィクションとしても面白くありません。笛のデジタル画集としてもネタの超展開ゲーとしても不十分。おまけに分割商法で、単体の作品としてみると伏線丸投げの尻切れトンボエンディング。思わせぶりな設定・キャラの数々があまり意味を成さないのは、設定だけがんばって作って力尽きた同人ゲーのよう。割と度し難い出来です。
 あんなに延期して何をしていたんですかね? 分割商法の準備をせっせこ進めていたのでしょうか。

 ふたりが並んで歩き始めれば、それだけ道に落ちる影――問題も大きくなる。
(――新たな生を受けてから、三百余年……)
 そんなワタシでも、まだまだ未来の予測は出来ない。
(――美鷹、真希理)
 これまで付き合った中でも、一番……予測がつかない子。
 もしも彼女が“ワタシの正体”を知ったら、どんな反応をするだろうか?
(――逃げ出してしまう?)
 最初の恋人――“Christina”のように。
(――最期まで、秘密を守ってくれる?)
 二番目の恋人――“Lil”のように。
(――それとも……)
 三番目の恋人――“Mya”のように。
(――ワタシの命を欲するかしら?)
 どうなるかは、そのときが来るまで分からない。
 しかし、それでも予感めいたモノはある。
 きっと、ワタシにとって真希理は――

(『ひとりのクオリア』)


 こんなモノローグで『ひとり』はブツッと終了します。何を言ってるんだかわからねーと思いますが、物語を読み通したはずの私も何を言ってるんだかさっぱりわかんねーっす。こういったテキストを読んで「謎が謎を呼ぶ展開! 『おわりのクオリア』が待ち遠しい!」と続編に期待が高まるような人なら、購入を検討してもいいんじゃあないでしょうか。

クロスクオリアセット
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Re: タイトルなし
> それくらいは、いくらなんでもわかるよね?
そうなんですか、すごいですね。

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Re:
> 読んでてもつまらんし
 読まなければいいのでは……?

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