2015年01月31日

きみはね レビュー・感想 浅ァァァァァいッ練り込み不足!!

 あまり面白くなかった。満足度は低い。百合作品としては大きな瑕疵はないが、読み物としても、オーソドックスな日常系エロゲにしても、あるいは「選択肢による物語への介入」というゲーム性を売りにしたアドベンチャーゲームとしても、全方面において作り込みの浅さがうかがえる。作品のコンセプトらしきものは理解できるが、手を抜いて浅くなっている要素とそれとが致命的に噛み合っていない。低価格路線の2800円での発表ということで、きらら系、百合姫系の単行本三冊分の値段と考えればコスパはそこまで悪くないが……。少なくとも45分の悪夢『リリウム・トライアングル』よりかは光るものがあった。
 半端にまともな作品であるだけに、プレイ中に「もっと予算と人員と開発期間があったら、こんな作品にしたかった」という完成系がうっすら透けて見えて、それを断念したであろう痕跡も随所で見られるだけに、何とも歯痒い思いをした。画面周りはセンスを感じるし、CGは(枚数が値段相応だが)綺麗だし、音楽も(曲数が値段相応だが)悪くないのに、もったいないお化けが出らぁ。別に低予算でなくてもよいから、じっくり作り込んでもらいたかった。そう思わせる程度には惜しい作品だったよ。
 『きみはね』のここが浅い! 薄い!

テキストが薄い
 メインライター、うつろあくたの過去作品もたいがい日常シーンが苦痛だったが、『きみはね』も同様だった。

(黒髪泣きぼくろのメガネが見つからないらしい)

「あんた、あっちこっちに置いては忘れるからなぁ。カバンの中は?」
「…………ない」
「机の中は?」
「まだまだ探す?」
「……踊らないよ」
「あははは」
「あの~~」
 キッチンから文の声が呼んでいる。
「どうしたの?」
「ミルクを取ろうとして冷蔵庫を開けたら中にこんなものが……」
 文が指でつまんで差し出したのは、キンキンに冷えた――
「わたしのメガネだ」
「なんでだよっ!」

「冷たっ! 曇るっ!」


 笑いどころのまったくわからない掛け合い!

「何してるの?」
「メガネがない……」
「え~またぁ? いつもどこに置いてくるんだよ」
「うう……」
「あのぉ……」
 キッチンの掃除をしていた文がおずおずと手を挙げた。
「レンジの中から、これが……」
「え、もしかして……?」
「あ、わたしのメガネだ」
「なんでだよ!」


 意図のわからない天丼!

「陽菜、浅生さん……」
「ん?」
「愛してるよーーー!」
「きゃああっ!?」
「また、このオチかー!?」


 浅いメタ発言!
 これ、完全に一山いくらの駄目エロゲーのテキストだわ!
 こだわりの感じられない台詞、地の文の配分などからも、いろいろ察していただけたらと思う。

キャラクターが薄い
 キャラクターが薄くて印象に残らない。こいつが紬で、こいつが唯で、こいつが澪なんだろうなぁというのはおおよそ想像が付くのだが、特徴付けと書き分けがうまくいっていない。まず、低予算に抑えるためなのか、主要登場人物以外とのやりとりや学校生活の描写ががっつり削られていて、そいつがどんな人間なのかよくわからなかった。そして三人娘の一人、黒髪泣きぼくろは無計画に属性をぶっ込みすぎである。見た目はクールな美少女なのに自室ではどてらを着たきり雀というギャップ、要介護レベルの自堕落、文学や映画に造詣のあるプレップス、実は親が教授でバレエも習っていた子女、あやしい寮長から百合官能小説を借りるむっつりスケベ、若奥さんと旦那様ネタが好きなセクハラキャラ、その実嗜虐的に攻められると弱いドM。これだけの属性を、三、四時間で読み終わる短いシナリオ分量で、一人のキャラに盛り込もうとすれば結果は見えている。属性が追加されていくたびにもの凄い勢いで像がぶれていって、まったく印象が残っていない。公式サイトの紹介文に「この物語には『恋が人を変える瞬間』があります。」とかいう記述があったが、「人を変える」より「別人と化す」の方が近いと思う。
 残りの二人については、人を駄目にするおっぱいは逆に特徴がなさすぎてさっぱり印象が残っていない。まゆ毛はまだ、元気っ子かわいがられっ子ムードメーカーとして成立している。
 この作品はカップリング要素をえらく前面に押し出していた。公式サイトでも「カップリング」の文字が乱舞しているし、わざわざカップリングごとのコーナーを設けるという気合いの入りよう。しかし、それを売りにするなら、いっそキャラクターはこてこてな味付けでもよかったのではないかと思う。この作品には『ゆるゆり』や『東方Project』に感じるカップリングの面白さ、「もしあのキャラとこのキャラが絡んだらどうなるんだろう」「どんな空気になるんだろう」「どんな恋愛をするんだろう」という展開を想像させる要素や、いざそのシチュエーションが成立したときのわくわくがあまり感じられなかった。その根本の原因はやっぱり、描写不足または属性過多でキャラの軸が定まっていないからだろう。やっぱりカップリングの面白さいうのは、個性の強い人間同士がぶつかった結果のケミストリーであってだね。そこからその人の本質やコミュニティで担っている役割が透けて見えてくるのが楽しいわけだ。『きみはね』はそもそものキャラが浅すぎてにんともかんともである。ひらがな四字のゆるいタイトルや登場人物のあからさまなビジュアルから、どうしても萌え四コマ漫画を比較対象にしてしまうが、『けいおん』でも『らきすた』でも『ごちうさ』でも何でもいいけれど、その水準と照らし合わせても個性付けや役割付けが甘い。二馬身くらい差を付けられている。この作品のカップリングは、無色なキャラが出されたお題のシチュエーションをがんばってこなしているように私は感じてしまった。
 惜しむらくは予算の都合で削られたであろう日常描写や過去描写だね。

ゲーム性が浅い
「天使の目線で覗き見る少女たちの秘密」
「あなたの与えた小さなきっかけがドミノのように連鎖して、少女たちの関係を大きく変化させていきます。」
 公式サイトにこんな記述があったもんだて、神の視点のプレイヤーがあの子とあの子の仲を取り持つべく、『街』のようにイベントを発生させていってフラグを立てるゲームシステムなのかと思っていたが……カップリングはタイトルの選択肢(※ご丁寧にロックがかかっていて順番にしか選べません)を選んだ時点で決定しているじゃねぇか! いちおうゲーム中にも選択肢らしきもの、部屋に散らばっているキーアイテム二つのうち一つを選択する機会はあるが、分岐には一切関係ないだと!? ……プレイヤーが「きっかけ」を与える余地なんざほとんどないやんけ! 公式サイトに斯様な謳い文句を掲げるなら、せめて「ドミノ」の始まり、きっかけの事象として何を起こすかだけでも選ばせてほしかった。
 一応断っておくと、私は一貫して『ノベルゲームのゲーム性なんざどうでもいい』論者である。ただし読み物として面白ければ、という但し書きが付く。

最終シナリオが浅い
 最終シナリオで、天使なる存在についてと、彼女が今までのシナリオの裏でどんな動きをしていたのかが描写される。これがまた浅いのなんのって。解明編のルートなので、徹頭徹尾説明口調なのは目をつぶるとして、登場する用語や概念が既視感全開だ。私ぁもう可能性だの観測だの固定だの神のサイコロだのルーレットだのシュレディンガーの猫だの、聞き飽きたよ。飽きた飽きた。飽きた、という表現を使い飽きたくらい飽いているよ。そして怒濤の巻き展開。さあもうすぐ予算が尽きるぞと言わんばかりに、怒濤の勢いで設定テキストを読み上げてくる。何もそんなに急がなくてもというくらい、巻きでべらべらべらべら説明してくる。そして、あのかったるい本編に対してはずいぶんと頭でっかちな設定である。
 話の内容を精査すると、割と真面目に世界観を作り込んでいるのは伝わってくる。なのに本編はあのざまだし、ゲームデザインと乖離が生じている。もったいないにもほどがある。

衒学趣味のチョイスが浅い
 この作品の日常シーンはおおよそ日常系エロゲのフォーマットを踏襲している。掛け合いやモノローグで思わせぶりにサブカルへ言及して共謀感を生む手法は、ロミオや丸谷や丸戸やタカヒロなどの作品、百合枠で言えば『素晴らしき日々』などと同様だ。『すばひび』の名前を出したのは、あれの序章と同じくらい、この作品がかったるかったからだ(もっともあちらさんは、クソかったるくて都合がよいのが意味深なのだが)。
 この作品が言及しているのは主に映画と洋楽だが、該当箇所をいくつかピックアップしてみる。

(この歌の歌詞を訳してくれと言われて)

「意訳でいいよね? 君と過ごす一瞬一瞬が僕の宝物。だから永遠に一緒にいたい。ざくっとまとめればこんな歌詞。まぁラブソングだね」
「え、そんなロマンティックな歌だったの? あたしはてっきり、巨大隕石を爆破するぞー! がんばるぞー! って歌なんだとばかり」


(三人の中に天使がいるのでは? という流れで)

「ナイフで指を切って、その血をシャーレに取り、電極で熱すれば……」


 映画と洋楽に関してはクソにわかな自分でも元ネタが一瞬でわかってしまう。
 映画を一切見ない人、洋楽を一切聴かない人のために別のジャンルで例えると、へとへとになった女の子が「もう、ゴールしてもいいよね……」とつぶやくとか、悪魔の誘いや勧誘のシチュエーションで「僕と契約して○○○してよ!」と言うとか、急にこゆい顔になったキャラが「だが断る」と切って捨てる感じである。さぶいぼが立つ。
 別にボンジョビやエアロスミスを悪く言うつもりはないが、ネタのチョイスとしてはまるっきりセンスを感じない。

評価点
 寮長の正体に関するあれやこれや。野郎の正体が誰でも知っているあの人で、物語のかなり早いうちから登場していて、かつ最終シナリオにおけるクライマックスのあの一言だけでさらっと説明しくさったのはクールだった。
 百合作品としての安定感。愛がある。嫌な表現がほとんどなくて、安心して読めた。まゆ毛は女性同士の恋愛に抵抗があって、「そういう」だの「変なのかな」だのと実際に口に出すシーンもあったが、ホモフォビアでぐだぐだひっぱらないし(シナリオ自体は『ミカエルの乙女たち』チックな仲違いからのぐだぐだひっぱりがあるが)、最終的に出した答えもスッキリさせてくれた。そういえば、百合エロフィクションでそれを退治した主人公というのはあまりいなかったと思う。あえてケチをつけるなら、「旦那さんと奥さん」「父さんと母さん」という言葉が驚くほど頻出するのはちょっとひっかった。
 あとは、エロシーンで「ご奉仕」する方のキャラの、悪辣で心底楽しそうで、かつ相手を想うニュアンスもある絶妙な表情。あれはいい仕事をしていた。えろいっ。
 これくらいで打ち止めだ。

まとめ
 『ネコっかわいがり!』をやったほうがよいと思う。

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コメント

Re:softbank126120206248.bbtec.netさん
> 相変わらずのレビュー
ご期待に添えず誠に申し訳ございません。

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うーん
机の中は?まだまだ探す?…踊らないよ
の井上陽水ネタは懐かしくなったよ
面白いかと問われたら面白くはないけど

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