2016年03月06日

蒼い海のトリスティア レビュー・感想 意外にシビアスなお話はよし、ユーザビリティは素人目にも不十分

 はじめに、私は今までの人生において『シムシティ』『どうぶつの森』といった箱庭シミュレーションゲームとはさっぱり縁がありませんでした。少ないこづかいをやりくりして買ったのは主にRPG(ポケモン世代ど真ん中)や育成シミュレーションで、カネを自由に稼いで使える頃には既にノベルゲームひと筋だったのです。そういうわけで、このゲームジャンルにはまともな経験値もなければ深い愛着もないので、この感想文もトーシロのたわごとだと一笑に付してもらって構いません。おまけに、私は人一倍こらえ性が無い人間です。
 こんな感じで姑息に逃げを打っておきましたが、『蒼い海のトリアスティア』の率直な感想は、ストレスフルでした。ゲーム性がどうだ脚本がどうだキャラクターがどうだという感想の前にこんな言葉が出てきます。ユーザインタフェースの根本的な不備や、確率に振り回される不毛なゲームデザインは素人目にも(いや、素人だからこそ?)気になって仕方がなかったです。痒いところに手が届かない、と言う表現がありますが、この作品の総合的な遊びやすさは痒くて全身掻きむしりたくなるレベルでした。

完成度の低い操作性
 2002年に発表された作品なので仕方ない面もありますが、操作性が劣悪です。私が本当に嫌で嫌で仕方なかったのが、何でもかんでもマウスの左クリックで操作させるところです。キーボードでの操作はメッセージ送り程度のお飾りレベルで、右クリックは機能していません。アイテムの研究・開発・売買、ステータス、セーブ・ロードといった子ウィンドウは、ページ送りには「次のページ」「前のページ」(「最初のページ」「最後のページ」は無い)、閉じるには「閉じる」という小さな小さなボタンをいちいちいちいちクリックする必要があります。
 主人公の移動に関しても、もの凄く面倒くさいです。スタートの画面である工房の画面からある店へ移動しようと思っても、ワンアクションで行えません。いちいち工房の外に出て、そこから全体マップに移動し、地区へ移動して、そこから店を探してクリックしてようやく移動が完了します。私はあるアイテムを作るために「タンポポ」が必要だと分かり、どこかで見た記憶のある花屋を探すため地区を移動して店をしらみ潰しに探し、結局その花屋がつぶれていたと分かったときに、ギブアップという言葉が頭をよぎりました。
 他にも、バックログ未実装、未読・既読問わずスキップ未実装(エンターキーをひたすら押しっぱなしでそれっぽく動く)、セーブは工房以外では不可です。

確率に振り回される嫌なゲームデザイン
 このゲームは確率との不毛な戦いを常に強いられます。アイテムの制作の成功・失敗も、アイテム研究の進捗度合いも、試行回数で改善されるとはいえ基本的に運次第です。乱数の仕様なのか、結果は何度ロードしなおしても変わりません。私はダイヤモンドのこぎりという、材料の人工ダイヤ三個を揃えるのが一苦労で、時間と金を盛大に食い潰してくれたアイテムが、一回の制作失敗でロストしたときに、ギブアップを真剣に考えました。
 また、このゲームには取り返しが利かない時限イベントが多数あり、そんなもん初見で分かるかいという発生条件のものもあれば、締め切りが非常にシビアで一回の失敗が致命的になる(上記のダイアモンドのこぎりがまさにそうだった)ものもあり、いくつかはヒロインとのベストエンドを見るための条件になっています。そういうわけで、半ば必然的に攻略やメモを駆使しての再プレイが要求されます。

 上述した操作性とゲームデザインの何が悪いかって、このゲームの基本方針である、材料を仕入れてアイテムの研究・開発を行い店へと売りこむ、という流れと密接に絡んでいるのが最悪なんですよ。ちょっとしたストレスでも、繰り返し繰り返しやらされるにつれて加速度的にマッハになるのは言うまでもありません。
 例えば、これからあるアイテムを開発して、ある地区の店へと売り込み行きたいとします。その場合に必要な実際の操作は以下の通り。

 まずは素材を買いに行きます。
01.工房画面の玄関マットへカーソルを動かしてクリックし(職人通りの外観図に移動)
02.(境目のよくわからない)道の切れ端へカーソルを動かしてクリックし(全体マップに移動)
03.対象の店がある地区へカーソルを動かしてクリックし(そこの外観図に移動、ナノカちゃんアイコンがのそのそ移動するのを見守る必要有)
04.対象の店へカーソルを動かしてクリックし(店ウィンドウ起動)
05.「買い物」へカーソルを動かしてクリックし(買い物ウィンドウ起動)
06.対象の商品へカーソルを動かしてクリック
07.注文個数へとカーソルを動かしてクリックで調節し
08.「買う」へカーソルを動かしてクリック
09.「やめる」へカーソルを動かしてクリックし(買い物ウィンドウ閉じる)
10.「とじる」へカーソルを動かしてクリックし(買い物ウィンドウ閉じる)
11.(境目のよくわからない)道の切れ端へカーソルを動かしてクリックし(全体マップに移動)
12.工房のある職人通りへカーソルを動かしてクリックし(そこの外観図に移動)
13.工房へカーソルを動かしてクリック(工房画面へ移動)

 次にアイテムを制作します。
14.炉へカーソルを動かしてクリックし(制作アイテムの一覧ウィンドウ起動)
15.「次のページ」へカーソルを動かしてクリックし、目的のアイテムのページまで移動して
16.「アイテム制作」へカーソルを動かしてクリック
 乱数の神様が微笑んでくれたら制作成功! 失敗した場合、材料は塵芥と帰します(炉などの設備のみ除く)。
 材料が無くなった場合は再び01の操作からやり直してください。

 次にアイテムを売り込みに行きます。
17.工房画面の玄関マットへカーソルを動かしてクリックし(職人通りの外観図に移動)
18.(境目のよくわからない)道の切れ端へカーソルを動かしてクリックし(全体マップに移動)
(省略)
19.対象の店へカーソルを動かしてクリックし(店ウィンドウ起動)
20.「売り込み」へカーソルを動かしてクリックし(売り込みウィンドウ起動)
21.対象の商品へカーソルを動かしてクリック
22.「売る」へカーソルを動かしてクリックして
 売り込みが完了になります。ここから工房へ戻るには(省略)です。

 この字面で、私の右手のすじに残るぴきぴきした痛みのいくらかが伝われば幸いです。
 なお、この操作手順は材料を取り扱う店やアイテムの売却が可能な店が完ぺきに把握されていた場合のそれであり、その店が何処にあったか忘れた場合はさらにマウスを握る右手にウロウロカチカチしてもらうことになります。
 ……なぜ右クリックやエスケープやウィンドウ外のクリックでウィンドウ閉じないんですか?
 なぜページアップ・ダウンやタブでウィンドウ間のページ移動が出来ないんですか?
 なぜカーソルキーでマウスポインタが(そのまま、あるいは選択箇所にジャンプで)動いて、エンターで決定という操作が出来ないんですか?
 なぜゲーム時間を進める操作は工房でしか行えないのに、「工房に戻る」ボタンを用意しなかったんですか?
 工房画面で都市全体の店舗が一覧で見られるウィンドウを用意して、地区や店の種類ごとにソートや絞り込みが出来て、店のレベルや来客数、扱っている商品が一目で分かって、直接そこに移動できるようにする、そんな発想は出てこなかったんですか?
 なぜこんな操作性とユーザインタフェースにGOサインを出してしまったんですか?

シビアでシリアスなシナリオ、テキストはよし
 評判通り、こつえーのぱんつはいていない絵柄からは思いもよらぬ、シリアスでシビアなシナリオはけっこう面白かったです。浪花節の人情・友情話だけでなく、外様の人間に対する非情な仕打ちや損益による掌返しも盛り込まれていて、だからこそ前者にほろりとさせられます。基本的に純粋な善意だけで働く主人公が、政治的陰謀に巻き込まれていき、都市の復興や独立自治の旗印として担ぎ上げられていく展開もなかなか読ませてくれました。
 あと、私が気に入ったのは言葉遣いのセンスのよさ。私はノベルゲームをプレイする際に、知らなかった単語や自分でも使ってみたい表現をメモするようにしているんですが、この作品はプレイしていてなかなか収穫が多かったです。メモを見ると、「宵っ張り」「裸足で逃げ出す」「売り物にするには足が早すぎる」「へんぺんたる資本の多寡」「こまったときは、相身たがい!」「のんべんだらり」「出来星財閥」「造次顛沛にも」「言わば言え」「しつけのいい料理」「料理の腕は玄人はだし」「男が鈴なりになるだけの素材」「闇夜に霜のおりるがごとく」なんて言葉が書いてありました。
 台詞回しは、司祭さんの表現が愉快でした。私はこういった表現を見ると思わず口角が持ち上がります。何というか、外国文学のような味わいがありませんかね?

「聖誕祭の七面鳥だけを家に残されてる猫みたいに幸せだわ」


「税金みたいにたしか」


「カカトの皮までぶんどられます」


「生まれたての子犬みたいに、ピュアな気分」


 謎の少女の恋愛に関する格言は、調べてみると外国文学やことわざからのいただきだったみたいです。文章が主体のゲームというわけではありませんが、テキストの質は全体的に高かったです。
 他には、都市が復興するに連れて外観マップでの人通りが多くなったり、自分が売り込んだ開発品の体系(工芸品、食品、工業製品など)に応じて都市がその方面に成長していったり、そういった視覚的な面もよく出来ていると思います。

百合ゲーとしての所見
 悪くないんじゃあないですか。全年齢対象の作品ですが、愛のある告白やキスまでの流れがわりと丁寧に書かれています。
 「そういう世界」とかいう表現や、ハンプデンの娘さんの意中の人へは心酔崇拝、それ以外の人間は眼中に無しというコテコテ造型はどうかと思いましたが。

まとめ
 シナリオや言葉使いはまずまずよかったですし、百合ゲーとしてもだいたい違和感なく読めましたが、あのわずらわしさと不条理さに耐える価値があるかと聞かれると「別にない」としか答えられません。SLGとしての比重の高さに対してこの操作性は致命的すぎます。まして繰り返しプレイ、そこまで行かなくともトライ&エラーを強いるゲームデザインなら、相応のユーザビリティを実現してくださいな。
 このブランドの過去作『リトル・ウィッチ・レネット』『リトル・ウィッチ・パルフェ』は百合ゲーの古典との呼び声が高いですが、この『トリスティア』よりさらにシステムが悪いならば到底プレイできる気がしません。積んだままでもいいかな、と正直思っています。『ネオスフィア』はどないすべい。

蒼い海のトリスティア ~発明工房奮闘記~
B00006FDJI
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