2016年10月01日

『SeaBed』『しずくのおと』 力作同人百合ゲーの紹介

 最近、同人百合ゲーの『SeaBed』と『しずくのおと - fall into poison -』を読んだのですが、どちらもかなりの力作でした。両作品はそれぞれ違った方向性で作り込まれており、ほとばしるパトスと値段を遙かに超えた価値が見受けられました。このような作品がDLsiteで200本ほどしかダウンロードされていないのは損失だ、非合理的だと思ったので、さりげなくステマをしておきます。

しずくのおと - fall into poison - [あいうえおカンパニー] | DLsite Home - 全年齢向け

 ――少女たちを襲う恐怖の水族館

 都内にひっそりと佇む満天水族館。
 真弓と姫乃はある噂を調べにそこを訪れるが、些細なことで喧嘩をしてしまう。
 離れ離れになった二人は、いつしか満天水族館に閉じ込められることに。

 行方不明の妹との再会。
 謎の少女との出会い。
 かつての痛ましい事件の記憶。
 満天水族館に渦巻く様々な想いが真弓へと降り注いでいく…。

 ――そして迫られる救いの決断

 真弓に強いられる選択と決別。
 それはとある少女の未来をも左右することになる。

 運命に翻弄された少女たちが織りなすミステリ・ホラー。
 27のバッドと4つのトゥルー、全31種類のエンディングを収録。



 『しずくのおと』でまず興味深かったのが、サウンドノベル寄りのゲームデザインですね。『弟切草』よりは『かまいたちの夜』に近いでしょうか、ありとあらゆる方法で死ぬのも似ている。プレイの流れは、物語の分岐点で主人公の行動を決定し、いくつものバッドエンドを乗り越えて生存ルートを探し出す……同時に新しいルートが解放されていき、物語はその度に新しい展開を迎える、といったものなっています。最近のギャルゲーはもっぱらキャラクター中心・シナリオ中心で、誰々ルートの並列で構成されているものが主流なので、トライ&エラーで新しい展開を切り開いていく感覚はなかなか刺激がありました。エンディング数はいわゆるトゥルーエンドだけでも4種類あり、即死のバッドエンドも含めると全31種類もあります。作品内容の欄で紹介していることからも制作者の力の入れっぷりが伺えます。
 シナリオの雰囲気も悪くないです。水族館という舞台は海=(異)界のイメージへ繋がり、神秘性、非日常性、閉鎖性といった面でミステリーとすこぶる相性がよいですね。私は『Ever17』をやっていた時を思い出したりしました(ありゃあ水族館ではなく海洋テーマパークですが)。なお、終盤は超展開ゲーマーの血が騒ぎました。
 また、紹介ページやPVを見てもらえばわかるとおり、作品全体のクオリティがかなり高いです。原画と塗りは商業とほとんど遜色ありませんね。背景班もよい仕事をしています。インタフェースも凝っていて、メニューを開くと場面場面に応じたTIPSが自動で表示されるところなんか細かいですね。システム画像やそれを使用したスクリプト周りも頑張っています。
 サークルオリジナルとおぼしきサウンドも、けちの付け所がないですね。BGMはあの曲が飛び抜けて素晴らしい。あの曲ですよあの曲、プレイしたらすぐにどの曲のことを言っているのかわかると思います。主題歌もばっちり完備。んだもんだから、サウンドモードを実装しなかったことについては問い詰めたい。
 ノベルゲームのクオリティを、テキストとビジュアルとサウンドの総合力で解釈するなら、この作品以上の同人百合ゲーは『ととのか』くらいしか私は知りません。


SeaBed [paleontology] | DLsite Home - 全年齢向け
※あらすじにわりとネタバレがあります※

本作は百合要素を含むミステリーノベルです。
物語は三人の登場人物の視点で展開します。

CG枚数/90枚以上
テキスト量/約47万文字

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過ぎ行く時はとてつもなく深い海の底に沈み続けている。
ときに浮かぶあの日の景色と匂いは揺れて泡のように消える。

心療クリニックの精神科医楢崎は、人がものを忘れる仕組みについて研究していた。
人はなぜ忘れるのか、大事なことを忘れない方法はあるのか。
彼女はある患者の心の奥深くを探るうちに、深い深い海の底へと辿り着く。

都内に事務所を構えるデザイナー佐知子は、取り憑かれたようにものを作り続ける。
同僚の心配も他所に、仕事を続けた彼女は心を病み過去の恋人の幻が見えるようになる。
彼女は恋人の跡を追って暗く長いトンネルを見つける。

療養所で暮らしている貴呼は、幼稚園からずっと一緒だった同性の恋人とどのように別れたのか思い出せない。
彼女は恋人に似た女性と出会い、徐々に思い出を取り戻していく。
記憶の扉を開き続けていく彼女は、最後に冷たく静かな部屋へと足を踏み入れる。

それぞれの目的の元、過去を求めさまよう三人が行きつく場所は何処か。
三つの物語は淡々とした日々の中で静かに進行し、やがて同じ場所へと還っていく。


 『SeaBed』は上記作品とは打って変わって、シナリオが主体の作品です。選択肢は全くなしの一本道で、ストイックに脚本で勝負しています。この作品は何を書いてもネタバレになりかねない――公称ジャンルが「ミステリーノベル」であることについて論じても危ないし、三人の主人公について語っても危ないし、正直あらすじを読むだけでも危ない――ですが、47万文字という頭のいかれた分量で、日常は淡々といとおしく、ミステリーは神秘的に、伝えたいことは簡潔明瞭に、脚本が書かれています。

【若干ネタバレあり】
 私がこの作品に対して何より驚異と脅威を感じたのが、心象風景・内的世界といったものを当然に存在するものとして物怖じせず描写していることと、ノベルゲームの特性を活かした叙述トリックをしれっと取り込んでいることです。特に前者について、作者の胆力に盛大な賛辞を送りたいですね。主人公(とわれわれ)が自分の目を通して認識する世界について、語りのテクニックの面でも、唯心論や認識力学といった精神的な部分でも、高度な次元での表現に挑戦しています。
【ネタバレおわり】

 同人ゲームがそういった領域に踏み込んでくる時代になったのか、と驚くことしきりでした。
 また、シナリオとテキストの比重が高いとはいえ、ヴィジュアルノベルの基本要素は手堅く作られています。立ち絵は豊富で、そんなパターンまであるのかと感心するほどでしたし、CGもこの値段帯の作品にしては恐ろしく多いと思っていましたが、作品紹介によると90枚もあるそうです。BGMはフリー素材を使用しているようですが、場面場面に合わせて効果的に使っていると見受けられました。
 あと、誰も聞いちゃいませんが、私は貴呼が好きです。なんですかね、あの圧倒的な存在感は。この子のぶれないキャラクターが、虚実入り乱れる幻想的なシナリオに一本の芯を通していると感じました。
 最後に、百合ゲーとして評価するならば、『SeaBed』に軍配が上がるでしょう。何気ない日常から性的なエモーションまでを丁寧に書いてくれています。全年齢対象の作品ではっきりとリビドーの描写をしてくれているのはポイント高し。あそこにCGがないのはバグじゃないですかね?


 以上、同人ゲームの脅威を感じた二作品の紹介でした。作品の紹介ページや、このつたない紹介文を見て興味を惹かれた方がいらしたら、ぜひプレイしてみてください。
 へっぽこ百合ゲーをフルプライスやハーフプライスといったお値打ち価格で売っている商業ブランドは、恐怖に打ち震えるべきだと思います。
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